中垣:なんか村上春樹で好きなんはさ、「僕」は世間と噛み合っていない部分があるんだけど、でもその「僕」よりも噛み合ってないやつがだいたいおるとこやねん。
松田:あーね。
中垣:『ノルウェイの森』とかまじでそうで、より噛み合ってないそいつが死んじゃったりする。
村上春樹『ノルウェイの森(上)』講談社文庫→
西川:うーん。
中垣:で、「僕」は死に切れもしないし、かといってみんなほど素直にエンジョイもできないって感じやねん。しかもそれだけじゃなくて、そういうインキャ系の小説ってちょいちょいあったりすると思うねんけど、村上春樹の小説はその「僕」がそそのことを結構かっこいいと思ってるねんな。
西川:へー。
松田:確かに笑
中垣:「やれやれ」やで笑
松田:謎にメタってるよな。
中垣:絶対バーに行くし。
松田:だから…なんかそうやな、こっちも肯定的な気持ちになれる。
中垣:そうそう。それがよくて。
松田:その辺じめっとはしてへんもんな。さらっとしてると思う。
西川:それはいいなあ。
中垣:それって村上春樹自身のキャラクターなんかなって気もしてて。なんか彼さ、村上RADIOって言って何ヶ月かに一回ラジオやってたりとかさ、あとあの人が出してるちょっとした小話系の本とか読むとさ、普通に明るい人やねん。なんて言うか、普通に楽しい、人生ライド系の人やねん。
中垣:だってあの人、苦労して小説家になったとかじゃなくて、もともと音楽がめっちゃ好きで、国分寺でジャズバーを始めて、それはそれで結構儲かっててんけど、28か29のときに神宮で野球の試合観とって、ほんで八回裏かなんか知らんけど、なんかのヒットのときにおれは小説を書けるって思い立って小説を書いて、書いて一発目で賞とって、そっから小説家やってるみたいな感じやもん。
松田:本人が飄々としてる人やんな。
中垣:そうそう。一方でインキャ系小説で、ミシェル・ウェルベックってわかる? フランスの小説、冷凍食品のピカールの話の…
松田:あーはいはい。
中垣:こっちはさっき言った「僕」の、まじで救いようのないタイプ。ずっとじめじめしてるタイプの、そういう小説ばっか書くやつ。30代後半くらいで、ちょっとハゲつつあって、仕事も学もそれなりにちゃんとあるし、お金もまああるんだけど、パートナーはいないし、みたいな感じ。ハァ、みたいな。で、仕事から帰ってきたら、高級冷凍食品が冷凍庫の中に入ってて、今日はどれにしようかなって言って、温めて食って、これがおれなりの幸せだって。
中垣:ミシェル・ウェルベック本人も、キャラまでは知らんけど見た目がもうやばくって。こんなんやねんけど…
西川:おおお…
松田:やっば。
中垣:これはかなりあかん方の写真やけど、でもね、ウェルベックろくな写真がないねん。
松田:闇落ちやな。
中垣:せやねんな。
中垣:『地図と領土』やったっけな…ちゃうわ、『服従』や。それが201X年にイスラム教政権がフランスで成立する、みたいな話やねん。
ミシェル・ウェルベック『服従』河出書房新社 →
松田:言ってたな。ディストピアっぽいって。
中垣:そうそう。それでその後に実際にテロが起きたかなんかで、それを言い当てたみたいに言われて…
松田:シャルリー・エブドの襲撃か。
中垣:あーそうやそうや。それで話題になった。他にも有名な小説がちょいちょいあったりして、好きな人は好き。おれはちょっと、なんやこいつとか思ってんけど…
松田:笑
2019年9月27日
Starbucks 六本木 蔦屋書店