中垣:日本語の組み立て方みたいな、形容詞をどういう順番で並べるかみたいな話がしたい。
みなと:大きい赤い…みたいな?
中垣:あーそうそう。例えば「昔からあるあそこの美味しいパン屋さん」なのか、「あそこの美味しい昔からあるパン屋さん」なのかみたいな話。どの語順で並べるとしっくり入ってくるのか、みたいな。
松田:「あそこに昔からある美味しいパン屋さん」やな。
中垣:でもそうなると、「あそこに昔からある」ことになっちゃうねん。違うところにあったのが移転してきて今はあそこにある場合、意味が変わっちゃう。
松田:あ、あそこに昔からあったわけではないのね。
みなと:「昔からある」が一番最初な気がする。
中垣:でも「あそこ」が最初な気もするねんな。
きむ:「あそこ」の役割にもよるんじゃない? ほんとにあそこにあって「あそこ」って言うんだったら…
松田:事実がどうかによるよな。
中垣:「美味しい」が最初とかはやばいよな。「美味しいあそこ」みたいな笑
きむ:確かにそれはないな笑
みなと:あれだよね、自分が何を伝えたいか分かってないってことだよね。
中垣:そうそう。「僕の赤い車」か「赤い僕の車」か。
松田:「赤い僕」は嫌やな。『アバター』みたいなこと言ってんねんやろ、青い僕笑
きむ:でも、その人が車をたくさん所有していて、その中の赤い車だったら「赤い僕の車」にもなるよな。
中垣:あーそうやね。確かに、やっぱり意味が大事やね。
松田:だからまともな庶民は「僕の赤い車」って言うけど、もしかしたら富裕層は「赤い僕の車」って言うかもしれん。バカの証拠か富裕層の証拠か、どっちかは分からん笑
みなと:そうそう。
中垣:日本語って…というか今は日本語に限って言うけど、知性がすごい出るなと思ってて。話してる言葉だけじゃなくてその人が喋ってんのを一分でも見たら、大体その人の程度は分かると思っていて。
松田:分かるな。
きむ:分かるね。
中垣:今みたいなことももちろん分かるやん。指示語とか、形容詞の語順とか。それに加えて、自分の意見を表明するにあたってどういうレトリックで喋るかとか、どういう表情をするかとか。同調を求めるように喋るのか、淡々と事実を喋るのか。それこそ『思考と行動における言語』みたいな話やねんけど。
S.I.ハヤカワ『思考と行動における言語』岩波書店→
松田:ほんまに一瞬で分かるよな。
きむ:知性っていうものを、なんだろう、言語運用能力における知性っていうふうに限定した場合?
中垣:いや、もっと広く。
松田: 逆に言語能力以外に知性ってなんなん?
きむ:数学的なとか?
みなと:いや、でもそれも結局、記号を正しく使うというか、相手に自分の意図していることを正しく伝えるという意味においては…
松田:数学って本質的には言語というか、どちらも記号という意味においてはさ…
きむ:まあでも、理一のめちゃめちゃ勉強しかできないやつが、頭の悪いモデルの子みたいな話し方するかって言われたらしないな。たぶん。
松田:笑
中垣:より正確に言うと、自分が伝えたい内容を一番伝えたいやり方で伝えられているかどうかっていうのが分かる。
みなと:なるほどね。だとしたら僕は、別にバカだと思われていないにしても、逡巡していることを伝えたいと思われているってことになるね。
中垣:そうやねそうやね。でもそう、悩んでいる感も込み込みで伝えたいねん。
みなと:うん、そうかもしれない。
松田:おれは結構、相手の喋りかたを判断する上で、口にしている以上のことを頭の中に抱えていて、それをひねり出している感じは重視していると思う。誤解のないようにであるとか、そういうふうに慎重に言葉を選んでいる感じっていうのは重要な指標のひとつになっている。
中垣:うちのおかんも言ってた。なんかうちのおかんのママ友でサノさんって人がいるねんけど、サノさんめっちゃブスで旦那はクソやねんけど、めっちゃ頭はいいらしいねん。おかんの言うレベルの頭いいやからまあ知らんねんけど。で、サノさんはめっちゃゆっくり喋るからあの人は頭いいって言ってた。
みなと:昔の首相でさ…
松田:あー、えー、ってめっちゃ言う人な。
中垣:誰それ?
松田:なんかおんねん。
*大平 正芳です。「アーウー宰相」と呼ばれたとか。酷くてわらう。
みなと:それを文字に起こしたら、一意に伝わって誤解のない文章が出来上がっている。
中垣:そうなんや。
みなと:あまりに喋るのが長過ぎて、何言ってんだってみんなは思ってたけど、実はめっちゃ賢い。
中垣:そいつはだから、脳内メモリで言ったら最強やんな。一時間分くらい持ってる。
松田:でもそうなるとパンピーとの乖離が大き過ぎて、結局伝わらない。
2019年9月20日
Starbucks 東京ミッドタウン店