中垣:今音楽を作ろうと思っても、90年代とは違ってPCのスペックが上がってるせいでやれることが増えてて、ゲームが複雑になり過ぎてんねんな。
松田:うんうん。
中垣:初学者が音楽を作ろうと思っても、90年代と今では全然環境が違うねん。こういうときにこそゲームチェンジが起こると思ってて…要はDTMはもはやクラシックやねん。
今日の名言「DTMはクラシック」
松田:なるほどね。
中垣:クラシックってどういうことかって、いろんなノウハウが凝縮されていて、できることがめちゃくちゃ多くて、そこに取り組むのに勉強が必要なわけ。
中垣:でも元々トラックメイキングって、むしろゲームチェンジングとして生まれたものやねんな。80年代90年代までってバンドサウンドがメインで、楽器ができないと曲は作れなかってん。
松田:はいはい。
中垣:やってんけど、リズムマシンとかサンプラーとかベースマシンとかシンセサイザーとか、そういうのが出てきたことで素人でも適当に曲らしきものが作れるようになって、それこそアメリカの黒人とかが、特に音楽の素養はないけどつまみを適当にいじってるうちにいい感じの曲ができた、みたいなのが90年代の最初やねんな。
松田:それってさ、ジミヘンが最初にエレキにライドしたみたいな話と同じなん?
中垣:ちょっと近いところはあるけど、それはゲームチェンジというよりかはハックやねん。想定された使い方に対してそれをどうやってクールに乗りこなすかみたいな話。
19歳の頃のジミヘン。これは乗りこなす顔してますわ
松田:あー、なるほどね。
中垣:で、今の時代にDTMやろうと思って、でっかいソフトをインストールして教本見て勉強して…っていうのは絶対違うねん。確かにiPhoneで曲作れたりもするわけ、あれなんやったっけ…
松田:ガレージバンドや。
中垣:そうそう。ガレージバンドで曲作りする人もおるねんけど、言うてもガレージバンドさえも難しくて、見た目はシンプルでも機能的にはほぼDAWと一緒やねん。
デジタル・オーディオ・ワークステーション – Wikipedia
松田:はいはい。
中垣:で、バンドも元々はそういうことやねん。クラシックっていう、知見の鬼みたいな世界しかなかったところに出てきた音楽の作り方なわけやん。そう考えたときに、今後DTMに起こることとしては2つがあると思うねん。
中垣:ひとつはゲームチェンジで、新しいテクノロジーを駆使した、全然違う音楽の作り方が出てくる。それこそさ、既存のやり方で考えられるメロディーとかリズムパターンを機械で無限に生成させてそれを人間が編集するみたいに、これまで人間が担ってきたことは機械にさせて、全く別の次元でのクリエイションができるようになる。
松田:うんうん。
中垣:そういうのは絶対あると思ってる。それともうひとつは、例えばロックにも複雑化が進んだ世界はあるねんけど、逆にシンプルに振ったパンクとかガレージロックみたいな世界、ほんまにギターとドラムとベースだけ、なんならギターだけでもいいからとにかく気持ちをぶつけろ、みたいな世界もずっと残ってて、そういう音楽も普通にいいと思えるし世間的にも評価はされてるねんやんか。
松田:はいはい。
中垣:でも打ち込み音楽にはそういうラフな世界ってないねん。パンクエレクトロとかパンクテクノみたいなのってないわけ、「荒削りでプリミティブだけどなんかいい」とかってないねん。
松田:ないんや。
中垣:ないねん。今はもう、とにかくめちゃめちゃ高度化してるから、いかにサウンドプロダクションをやり込むかしかない、みたいになってるねん。
松田:Jamie xxしかないんや。
中垣:と、おれは思ってる。もちろんアングラやとあるねんけど、それをパンクロック的な意味で評価する文脈ってないねん。でもおれはそれが出てくると思うねん。
中垣:その2種類、ゲームチェンジと原点回帰があると思ってる。もはや打ち込みの音楽はクラシックやねん。
松田:なるほどなぁ。
中垣:ほんまそのうちね、意味分からん作曲方法が出てくると思うよ。
現代のテルミンが今に出てくるぞ
松田:作曲のパラメーターが変わるってことやんな。
中垣:そう、そういうこと。それこそさ、バンドミュージックからエレクトロへの変化もそこで、それまでは楽器演奏できるようになってハーモニー作れるようになって…っていうのが人間の仕事やってんけど、ダンスミュージックではそれは人間の仕事ではなくなってんな。
松田:うんうん。
中垣:それよりもつまみをいじって、どうやってヤバい音とかヤバいエッセンスを抽出するか、みたいなことが大事になってきてん。で、そこで出てくるドラムサウンドって人間なら普通は出さへん音やねんな。ドラムの「スターン」って音を鳴らしてすぐに切ったら「スタッ」って音になるねんけど、それって人間じゃ出されへん音やねん。
松田:うんうん。
中垣:それはドラムマシーンでしか出せない音やねんけど、ドラムマシーンを使えば簡単に鳴らせるねん。だから今度はそれを使ってヒップホップを作るとか、そういうところに視線がいくようになるのね。
松田:はいはい。
中垣:音を出すこと自体に苦労は要らんねん、ボタン押すだけやから。そこじゃなくてその先に人間のクリエイションがはたらくようになるねんけど、そこで逆にバンドサウンドからのフィードバックも出てくるわけよ。
松田:どういうこと?
中垣:それが数年前に流行ってたニュージャズ的なムーブメントで、ヒップホップのトラックで使うドラムの音を人力で再現しようとするねん。
松田:はいはい。
中垣:ヘッドに財布を置いてスネアを鳴らしたら音が「スタ」って切れるようになるから、それを試すとか。
松田:へー。
中垣:とにかくそういうゲームチェンジがあったとき、今はどうやってつまみをいじっておもしろい音を作るかっていうのが人間の仕事なんだけど、それすら機械がするようになったら、あとはもうインターフェイスの問題やと思うねん。
松田:はいはい。
中垣:質的な話なら、それっぽく聞こえるドラムサウンドとかそれっぽく聞こえるハーモニーとかを機械が作ることって可能やと思うねん。そこで逆にどういう変数を人間が触るものとして設定するかってなったとき、もちろんそんなプレイヤーもインターフェイスもないからまだハックもないねんけど…それが出てきたときに、じゃあ次は何をいじって音楽を作ろうかって。
松田:なるほどなぁ。おれさ、「AIに絵を描かせました」みたいなん、むっちゃ嫌いやねんな。そんなんまじでどうでもいいやん。でも今の音楽の話は、今まで人間がやっていたことを機械にさせた上で人間は何をしようみたいな話で、すごい夢があってええな。
中垣:そうそう、そうやねん。大事なのはAIに絵を描かせた先やねん。その技術をどうハックできるかとか、ハンドリングする人間にこそ意味があるねん。それこそ若林的な話ではあるけど。
若林さん、な
若林恵『さよなら未来』岩波書店
中垣:なんかそういうソフト作りたくなってきたな。新しい作曲インターフェイス。
松田:ヤバい話やな。
中垣:見た人が「これで何すればええの…?」ってなるような…
松田:「こんなん未来やん…」みたいなやつな。
中垣:聞いたことがない曲が作れるねん。でもこの先10年以内に、そういうまったく新しい音楽って出てくると思うで。まず誰かがツールを作って、それをハックするやつがおって…って世界。
松田:考えてみると音楽ってシンプルやんな。何がって、最終的なアウトプットは波形なわけやん。例えばこれが絵画やと、それはデジタルデータなのか、凹凸のある油絵具によるものなのかっていう、一意じゃなさがあるやん。
中垣:分かる分かる。すげえそれ思う。結局いかにおもしろい波形を生み出すかっていうゲームなわけやねん。
松田:波形縛りっていうのは不可避やねんけど、でもルールはそれだけやん。
中垣:そうそう。
松田:ゲームとしてよくできてるよね。
2020年4月25日
Aux Bacchanales 紀尾井町
KORGのvolca keys、最もスタンダードなアナログ音源とループ・シーケンサーを備える最高の入門シンセサイザー。
幼い頃にクレヨンを手にしていた気持ちで、目的的な意識を捨てていじってみよう。キッズのマインドが花開くはず。
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