中垣:若いうちしかできないっていうのと、批評家とプレイヤーって話、どっちも一緒の話で一般的な話やねん。例えばギター弾いてるときの話やねんけど、おれは今でもギタリストになりたいみたいな気持ちはあるねん。でもギターをやり始めてどっかの時点である程度こなれてくるとさ、実際に自分ができる技術と、自分はこれくらいまでなら頑張ればできるはずだっていうのとのギャップが広がってしまって…
松田:はいはい。
中垣:プライドというか…まあプライドやねんけど、それが技術を追い越すのね。
松田:はいはい。
中垣:そこが、つまり技術とプライドは本来なら常に一致してあるべきやと思うねんな。むしろ最初は逆やねん、技術がついてやっと認識が追いついてくるみたいなんを繰り返しててんけど、技術が伸びて「あれ、これ結構いけるな」ってなってくると、ある程度先まで見えてしまって、プライドが勝手に成長してしまうと。
松田:「やればできる」みたいなね。
中垣:そうそう。「やればできる」状態になってしまって、そのときにちゃんとプライドが打ち砕かれるような場所に身を移さないと、どんどん手を動かせなくなってくる。
みなと:そうね。
中垣:っていうのがあって、おれはそれをちゃんとしなかったのね。例えばセッションに参加して「おれ全然できないやん」って思うとか。で、一度膨らんだプライドを元に戻すのは結構むずくて、それは傷つくことやから。
みなと:うんうん。
中垣:恥ずかしくてもやってみるっていうのができるかどうかと言うか…
岡本太郎『自分の中に毒を持て』青春文庫→
みなと:会社の中でも同じようなことがあってさ、よく先輩達が言う、「そんなこと一年目しか聞けないよ。なんでも聞くなんてできなくなるよ」っていうのと結構近いと思うんだけど。
中垣:あ、そうそう。
みなと:僕はそれはクソくらえだと思ってて。それで自分の中にセットしてるマインドとして、ばかのふりして行動するっていうのがあるんだけど、結構これはサクセスフルだよ。
松田:はいはい。
みなと:自分はばかだから聞くし、聞くことが恥ずかしいってことも分からないばかだ、みたいな。そう思うことで自分のプライドを担保している面もある、言ってしまえば二枚舌なんだけどね。
中垣:うーん、確かにそれも同じ話で、こと仕事においてはマインドセットでなんとかなると思うねんけど、よく言う「若いうちしかできないからなんでもやっちゃいなよ」っていうのはさ、それこそ大学生のときは歳とってからでもできるやろって思ってたけど…実際にはできるねんで、できるねんけど、例えばおれが今DJをやるってなると、結構恥ずかしいわけよ。
松田:あー。
中垣:自分は結構音楽を知っている、世の中におるDJと呼ばれる人の7割よりはおれの方が詳しいと。そういう自負があると…できひんねん。
松田:なるほどね。
中垣:いくら音楽に詳しくても、DJとしてはそいつらの下に立つわけよ。そこにわざわざエントリーするか?っていう。これが批評家とプレイヤーみたいな話で、世の中では大抵の場合はプレイヤーより批評家の方が知識はあるねんけど、でも批評家はプレイヤーではなくて、何もできないねん。で、批評家はいつでもなれるねん、知識さえあればいつでもなれる。でもプレイヤーはそこの恥を捨てる覚悟がないとできなくて、で、そこの恥って若いうちはあんまりないから、やろっかなって思ってすぐできちゃうわけ。
中垣:Ganeshaとか、あれも別に恥とかはなくて、わりと勢いでできちゃったわけ。でも歳食うとなかなか、いかんせんプレイヤーであること以上の周辺の知識を知っちゃってるから、プレイヤーになれない。
*Ganeshaはかつて駒場キャンパスで開催されていたDJ&VJイベント。第二回目にして大学当局により排除され解散した。
松田:やっぱそこでさ、頭を動かすより手を動かす方が100倍えらいっていう原理を強力に掲げないといけないんじゃないかって。
*あくまでインテリを気取って頭でっかちになっている人への方便なので、動物的な衝動が知性に先行している六本木とかエイベックスっぽい人達は、むしろ逆を意識しましょう。
中垣:そうやねん、そうやねん。
松田:あとはさ、恥ずかしいとかいったん抜きにしたら、実際に取り組んでいるにあたってはそれが楽しくないなんてことはないわけやん。エンジョイできてるやん。だからその楽しさを全面的に肯定するマインドも必要やんな。
中垣:うんうん、そうやんな。
松田:このあいだ、中垣にライノセラスについて教わって練習してたときにそれをすごい思ってん。なんか、スターバックスで作業してるわけやけど、こんなとこでPC開いてわざわざCADなんて、って思うわけ。おれがやってることなんて初歩and初歩のすっごい簡単な内容で、「分かる人に見られたらヤダー」って一瞬思ってんけど、でも実際に手を動かしてモデリングをしている限りにおいてはすっごい楽しかったし、なんか、それでええやんって。
中垣:あとはでも、実際にDJとかギタリストになりたいのかと言われると怪しくもあって。自分がギタリストになりたいとは言うけれど、なるために何かしようとは特に思わないわけ。なんか、ある種の無気力さみたいなのも漂ってて。
松田:うーん。
2020年1月18日
Aux Bacchanales 銀座