Y:皆さんと話している中で論理的に詰められるときって、別に上司が部下をガン詰めする感じではないじゃないですか。そういう論理的な詰め方だと、心理的安全性が脅かされることがなくていいなって思うんです。
松田:一般論として、コミュニケーションを取っている両者の見ている世界観には何かしらのギャップがあって、それをお互いに歩み寄って双方の世界観を翻訳する方法を見出して、それでもって初めて見ている世界が共有できるようになるという認識は持っていたいし、それこそが生産的な態度だと思うよね。
みなと:それすげえ分かるわ。
松田:両者の間のギャップをきちんと認識することだけであればそんなに難しくはないねんけど、そこで相手が自分の立脚しているところを起点に、「きみはなんでそんなところにいるの」っていう態度をとられるとしんどいよな。
みなと:そうそう。会社入ってすぐのときに本当にしんどくてさ。まず仕事を覚えるって段階で専門用語がすごく多いんだ。会社自体に歴史があるしその中で用語が洗練されてきているから、僕が分からない用語の説明さえも、もはや全て知らない専門用語でされるわけ。
みなと:で、すみませんそれでも分かりませんってなるじゃん。そうしたらそれ以上の説明ができないってなるんだよね。それってこういうことなんですかって聞いたら、いや違うんだけどな、うーん…みたいな。それってたぶん、一般的な世界と業界のギャップを普段から意識することがなくて、すごくクローズドな世界で同じ仕事をずっとやり続けているからだと思うんだけど。
松田:それってもうさ、英語分からんやつにずっと英語で話しかけていて、なんで伝わらないんだろうって首をひねっているような状況やんな。
東山紘久『プロカウンセラーの聞く技術』創元社
みなと:そう、そうなんだよ。だから自分はすごく気を付けているんだけど、それでもやっぱりすごく難しい。だから僕は、うちの会社の生産計画がどういうふうに作られているとか、それがどうやって運用されているとか、それらを全く関係ない人に説明しようと思ったら…って考えている。仕事で社内の人に話したり、話を聞くときはいつもね。じゃないと決められた価値観の中で改善しようとするしかなくて、自分のしていることが世界の実態と見合わないときに、そのことに気付けなくなっちゃうから。より一般的で伝わりやすい言葉で説明できるようにありたいと思っている。
太郎:役人もそういうハードルの高さがあるね。「官房クリア」とか。
Y:「更問い」とかもそうじゃないですか。
太郎:よく知っているね笑
松田:なんでしょうそれは。
太郎:大臣が国会で喋る内容って、全部前日に作っているわけ、我々が。でもそれって作りました提出しますってわけではなくて、きちんと中身を確認するプロセスがあるのね。それを「クリア」って言う。局の権限を持った人がOKを出した後に、局を束ねている大臣に近い部署があって、そこでも権限を持った人がOKを出して、最後に大臣の秘書官が目を通して、ようやく大臣が喋る原稿が出来上がる。でもそれを「官房クリア」なんて言われても分からないよね。しかもなんでそういうプロセスになっているのかもよく分からない。
みなと:経緯の塊なんだよね。
太郎:本当にそう。特に福島のことをやっていると、震災の発生直後にドタバタの中で組織や法律を作っているから、なんでそうなっているのと聞かれても経緯だとしか言えないことが山ほどあるんだよね。
みなと:そのとき目の前にある問題に対処するためにできたものだもんね。
太郎:もちろんそれに対して対案を提示して実行していくこともできるんだけど、それが極めてコストフルでやる気と能力があっても明らかにそれを超えているから、誰も手を付けたがらない。
2019年8月9日
Starbucks 六本木 蔦屋書店