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『モモ』をきっかけに考える、一般化できないこころの話

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松田NHKの100分de名著、8月はミヒャエル・エンデの『モモ』やねん。100分de名著は100分ぶっ通しでやるわけじゃなくて、25分ずつ4週間かけて、一ヶ月で一冊の本を紹介するねんな。

100分de名著 ミヒャエル・エンデ『モモ』
Image: NHK出版

NHK 100分de名著 ミヒャエル・エンデ『モモ』

中垣:あ、そうなんや。

松田:で、8月は『モモ』やねんな。

中垣:はいはい。

松田:で、おれの中で『モモ』は結構しっくりきてる本ではあるねんけど、いかんせんちょっとファンタジーが過ぎるし、さらに個人的には、『モモ』のなかで批判されるもの自体は的を得ているんだけども、その批判の後に新しい提案されていない感じもあるなと思ってるねんな

中垣:絵本とか童話って、結構そういう感じになっちゃうよな。

松田:そうそう。ざっくり言うと「時間に追われてんのってどうなん」みたいな内容やねんけど、それを言うなら人生の主体的な目的の見出し方も与えないと、追われてるなりにも目標とするものはあった前の人生の方が、まだ手応えがありましたってなっちゃうわけ

中垣:まあそうやんな。

松田:『モモ』はそこの提案が担保されていないような気がしていて、それもあっていまいちあの本のよさを他人に説明しきれていないなという課題があってんな

中垣:はいはい。

松田:そういう中で、もし100分de名著がうまいこと説明してくれるのなら、それを今後パクらせてもらおうかなと思って。

中垣:あー、はいはい。

西川:そういうことだったんだ。

ミヒャエル・エンデ(2005)『モモ』岩波少年文庫
Image: Amazon.co.jp

ミヒャエル・エンデ(2005)『モモ』岩波少年文庫

松田:で、100分de名著には指南役っていうのが毎回おるねんけど、今回は河合隼雄の息子の河合俊雄やねんな

今までの人生で河合隼雄の息子って5万回くらい言われてますよね、ごめんなさい

河合俊雄 – 京都大学 こころの未来研究センター

中垣:あ、そうなんや。息子もその道の人なん?

松田:そうそう。

西川:へー。

松田彼は京都大学のこころの未来研究センターってところの所長をやってるねん。なんか京大って…まあ京大やからってところもあるんか知らんけど、結構「こころ」に強いイメージあるねんな。

京大は概してインナー系

中垣:あー、そうなんや笑

西川:確かに強そう笑

中垣『プロカウンセラーの聞く技術』の人も京大やったやんな

東山紘久(2000)『プロカンセラーの聞く技術』創元社
Image: Amazon.co.jp

東山紘久『プロカウンセラーの聞く技術』創元社

松田:あ、そうなんや。

中垣:しかもなんか、総長レベルですごい人やった気がするで。

東山紘久 – 京都大学

松田:そうなんや。しかも京大はね、カウンセリングルームがめっちゃいけてるねん。3~4年前に話題になってた、留年した皆さんへみたいな文章があって…

留年について – 京都大学 学生総合支援センター

想定される相談者への誠実さに満ち、主体的な選択への勇気を与えてくれる文章である

西川:ほうほう。

松田:この文章は、言うたら中退に対する京大のステートメントなわけ。これの何がえらいかって、まず具体的な数字を出すことで、留年についての客観的な視点を与えてるねんな

中垣:はいはい。

松田:その上で留年を繰り返させる行動や考え方のパターンを説明して、留年脱出のためのちょっとした工夫を丁寧に紹介してるねん

中垣:実践的なね。

松田:そうやねん。留年してまうようなタイプのやつにもきっちり実践できることを書いてるねんな。

中垣:はいはい。

松田:最後にいたってはスティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも中退ですって言って、別に大卒だけが人生じゃないって結論づけるわけ。これは超えらいよ

全然関係ないけど、京都大学のマークってめっちゃニールズヤードレメディーズじゃない?

中垣:あー…でもさ、大学をストレートで卒業するのは案外これくらいしかいないとかさ、なんかちょっと気持ち悪くない?

松田:あー、どういうこと?

中垣:つまり「世の中的にはそういうのって大した悩みじゃないから」みたいな論調って、慰めにはなるねんけどそれだけでしかないというか

松田:はいはい…

中垣:そんなこと言われても結局は彼自身の認識の話であって、他人はどうだって話は全然ブレ得るというか…

松田:あー、一般化してもしょうがない的な?

中垣:そうそう。まあとは言え、何かしらそれがいいと判断してそう書いてるんやろうけど。

松田:その文章を見て個人的に思ったのは、もちろんそこで想定されている相談者にとっては世間的にはとかどうでもいいだろうし、相談者自身の問題なんであって、そこに一般化された他人が出てきても意味はないと思うねんけど…

中垣:うんうん。

松田:ただ、その文章の意図するところっていうのは、留年したみたいな状況のときってすごく視野狭窄で世界が狭くなってて、それによって客観的なというか、冷静な判断ができなくなってるから、いったん引いてより賢明な判断をしましょうねってところやと思うで

中垣:まあそうね、それはそうやね。

松田:だからたぶん、自分以外の人と比べてどうこうみたいな話ではないと思うけどね。

中垣:なるほどね。まあ確かに、京大のその文章はそういう意味があるとは思うねんけど、もうちょっと一般的な話として、それこそ🦒でもいいけど、仕事がしんどくて大変な人に「世の中にはもっと大変な人もいるよ」って言うのは違うやん

c 新卒即リモートはほんまあかん

松田:それは絶対違うね。

中垣:そうやんか。もちろんそういう類の慰めが効く人もいるけど、🦒とかはそうじゃないやん。

松田:あくまで彼のケースは彼のケースとして考えなあかんよな

中垣:そうそう、そこの難しさというかさ。ていうか彼女と結局復縁したんですけど…

松田:あ、そうなんや。

中垣:でもね、ちゃんと条件付きにしたよ。週一回しか会わへんって。まあ今度引っ越すしね、ルールとかじゃなくて、どうしても週一回しか会えなくなるよって。

松田:うんうん。

中垣:向こうは嫌がってたけどね、それはもう知らんと。そのことを彼女に言ってるときとかも「でも普通そんな会わへんで」とか言いそうになるわけ

松田:そう、ほんまに。

中垣:言いそうになるけど…

松田:それは違うよね。今してるのは僕とあなたの話であって、そこを一般論で切り抜けようとするのは不誠実やんね

西川:あー。

中垣:そうそう。おれはね、どっちかというと個人的にはそういうの効くタイプやねんけどね。昔おかんに悩んでることを相談したら「何言ってんの。私がちっちゃい頃なんて~」って言われて、まあそんなもんかって思ってたタイプやねん。

松田:あー。

中垣:だからまあ、個人の悩みを一般化していいかは相手と場合によるとしか言えないけどね

松田:だからあれちゃう? 京大の文を書いた人が🦒から相談を受けたらたぶん、「今の仕事にそんなに固執する必要はない」って言うと思う

中垣:はいはい。

松田:つまりあの文章は、あなたが思ってるほど大学って全てではないので、もう少し客観的で広い見方をしましょうって趣旨やと思うねん

中垣:あー、まあそうやな。確かに、仕事だけが人生じゃないよ的なね。それはそうやな。

松田:うん。

中垣:まあそうか、それでいくと納得はできるな。

松田:でも、おれも彼女と話してるとめっちゃ思うな。めっちゃ言いたくなる。

中垣:こっちの考え方としてはそうやん。「そんなんどうでもいいやんけ」とか思うけど、まあとは言え相手の悲しみは悲しみやから

松田:どんな理由であろうと、彼女が悲しいというのには100中100のリアリティがあるからね

中垣:そう、そうやねん。

岩波文庫を読んでも学べないことはあるんです

松田:それを尊重できなくなるとね、付き合ってる意味とはって話やねん。

中垣:そうやねん。それはむずい、むずいねんけど…今週話してて分かったのは、それこそ松田が前に銀座で話してたのと近いと思うねんけど、例えば自分が相手に対して「こうしてほしい」と思うやん

c 他人に「してほしい」人達

松田:うんうん。

中垣:で、それがかなったりかなわなかったりってときに、おれの感覚としては、まず相手には何も期待できないっていうのがゼロポイントとしてあって、相手がこちらののぞむ通りにしてくれるならプラスで、してもらえなかったらゼロだと。まあ気持ち的にはちょっと悲しいけど、でもそれはゼロやん。

松田:うんうん。

中垣でも彼女としては、人に何かを期待した瞬間、そこがゼロポイントになるねん

松田:あー、はいはい。

中垣:で、結果的にかなわなかったら、それはマイナスやねん。しかもこれは、「自分は相手にこうしてほしい」と思った瞬間でさえなくて、「相手にそこまでしてもらえるかもしれない」って予感した瞬間、そこがゼロポイントになるねん

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
Image: Amazon.co.jp

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社

松田:はいはい。

中垣:だからおれと毎日会えるということを、可能性として彼女が認識した瞬間そこがゼロポイントになるし、例えばおれが地方常駐でどう考えても会えないっていう状況なら、別に会えなくても大丈夫やねん

松田:あー、それは確かに。おれも彼女にめっちゃ言われるねん、「だって働いてないねんからいつだって会えるはずやん」って。でもそれはちゃうねん。

西川:笑

松田:逆に、おれが会社で働いてたら毎日会えなくても納得できるっていうのもおかしいねん。なんやろうな、損したくないマインドが行動原理になってるというか…

c 電車でシートの端に座る人間は大成しない

中垣:そうそう。

松田自分が他人に何かを期待するのは当然の権利だと認識してるんかな?

“I swear by my life and my love of it that I will never live for the sake of another man, nor ask another man to live for mine.”

– Ayn Rand, Atlas Shrugged

Source: Ayn Rand(1996)『Atlas Shrugged』Signet
アイン・ランド(2015)『肩をすくめるアトラス』アトランティス
Image: Amazon.co.jp

アイン・ランド(2015)『肩をすくめるアトラス』アトランティス

中垣:そうそう。でも、そう考える人って結構いるんやろうな。

だから僕らは友達が少ない

2020年7月31日
Aux Bacchanales 紀尾井町


ミヒャエル・エンデ
HeaderImage: WeLT

『モモ』『はてしない物語』で有名なドイツの児童文学作家のミヒャエル・エンデ。お金とか時間とか合理性とか、そういう近代以降に人間をモヤモヤさせてるっぽいものに一言ある作家である。
岩波書店から出ている『エンデ全集』の3巻『モモ』には河合隼雄による解説が収録されている。