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(続)「お金がないからできない」のなら辞めちまえよ

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きゅー:このあいだのアーティストの支援の話、全体的に分かると言えば分かるんだけど、そんなメタ的な綺麗事で片付けられるのかなって、ずっと疑問が残っている

c 「お金がないからできない」のなら辞めちまえよ→

中垣:あれはそんなね、精緻な話では全くなくて、とにかくおれは気に食わないみたいな話やねんけど…

きゅー:今渋谷でソール・ライター展やってるんですよ。

Image: Bunkamura

ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター – Bunkamura→

中垣:やってる。

きゅー:ソール・ライターってずっとモノクロで商業写真とか撮ってて、だけど途中でパタってやめちゃって。その後もカラー写真は撮り続けてたんだけど、カラー写真って当時は芸術として評価されてなかったし、何より現像にお金がかかるから、家でちょっと友達に見せて「いいじゃんいいじゃん」とか言ってるだけだったの

中垣:はいはい。

きゅーそれをプリントして2006年にやっと写真集として出したら、「お前カラー写真めっちゃやるやんけ」ってなって…

Image: Amazon.co.jp

Saul Leiter『Early Color』Steidl→

中垣:あ、そういう感じなんや。

きゅーそれで評価されて、80歳過ぎにしてめちゃくちゃ有名になったの

中垣:へー。

きゅー:で、彼はずっと撮り続けていたんだけど、プリントするお金がなかったからせっかく作ったものも世に出なかったし、評価される機会もなかったし、それをずっと支援していた奥さんは彼が有名になる前に死んじゃったし。

きゅー:で、彼が亡くなった後、2017年に日本で展示をやって、そしたら日本でもめっちゃ売れて、その3年後の今回は亡くなった彼の家から新たな作品を財団が発掘して、財団のお金でプリントして発表しましたって話

松田:うんうん。

きゅー:なんか…ね。現実的な話としてお金は必要だよなって…

中垣いやいや、なんでやねん。今の話で誰が困ってたん? ソール・ライター?

きゅー:いや、結局困ってはない。

「私は有名になる欲求に一度も屈したことがない。自分の仕事の価値を認めて欲しくなかったわけではないが、父が私のすることすべてに反対したためか、成功を避けることへの欲望が私のなかのどこかに潜んでいた」この言葉には、ソール・ライターの作品が、なぜ長い間、世に知られぬままであったのかに対する一つの回答が含まれています。どんなに自分が素晴らしいと思ったものでも父が認めぬものはこの世では無為に等しく、理解しあえぬ偉大な父への複雑な思いを、ライターは終生抱え続けました。

Source: Bunkamura

もっと複雑なことで困ってて草

中垣:でしょ? じゃあよくね?

きゅー:うーん、確かにメタ的に言えば、ソール・ライターのいい写真が世に出なかったとしても、文化的には支障はないし…って話にはなるよね

中垣:うん。いやだから、誰がいいって言うかは知らんけどとりあえず世の中にとって0.1でもプラスになるようにしたいみたいなのは、なんかすごい無責任やと思ってて…

中垣:今回の話ならまあよかったやん。ソールライターの写真が出てきて、みんながその写真を見られるようになってよかったねって話やねんけど…なんて言うんやろ、お金がなかったらそれができないから残念だ、っていうのはおかしな話で。お前は誰なんって話やん

中垣:例えばあいみょんはさ、レーベルがなかったらきっと一生大阪でライブしてて終わりなわけやん。おれらが聞くことはなかったわけやん。確かにそれは結構悲しいことだけど、既にあいみょんを知っているからそう言えるのであって。そんなこと言い出したら、とりあえずなんでもいいから今後出てくるいい音楽は全部おれのところに届けっていう話になってきて、それってすごいエゴイスティックでかつ損したくないっていうマインドに満ちていて…

「損をしたくない人」は次回のテーマに加えておきます

松田:いや、ほんまそうやんな。ええやん、だってソール・ライターは売れへんでも撮り続けたんやろ?

きゅー:そう。そういう話の違いはある。

中垣:少なくともソール・ライター自身は困ってないやん。

きゅー:だからまあ、ソール・ライターの話は、アーティストにお金を渡すことの是非に関しての一例として、だよね。

中垣:おれの言いたいことをもっとシンプルにすると、「こんな素晴らしい作品があるのだからもっと世に広めるべきだ」っていう考え方を是とするか非とするかっていう話で、まあ別にどっちの立場もとり得るねん、ただ主語が明確じゃないのはいまいちで…

松田:ソール・ライターはお金がなくても撮り続けたんだから、それはそれでいいじゃん。ソール・ライターにとってはおっkーやん

中垣:うん、おっkー。

松田:だからソール・ライター自身の問題ではないと。じゃあ誰の問題なんだ?って

中垣:そうやねん。70億人の問題やねん笑

松田これがさ、強欲ギャラリストが「ミスったー」って言ってるんやったら分かるよ。「今度こそこういうことがないように、ファンド作ってとにかく青田買いしまくるゥー」って言ってんねんやったら、それは分かるねん。

中垣:そう笑

松田:でもそれは一般論ではないやん。

中垣:そうやねんなぁ。なんか、いいものを世に広めたいって言葉自体が嫌いになってきた

松田:そうなっちゃうよな笑 極端な話、自分がいいと思っているものは自分さえ知ってればそれでええからな。

中垣:し、あるいは「友人の彼には知っていて欲しい」とか、まあそれくらいならいいけど。なんかあれやんね、無責任なんがよくないよね

中垣:だって何が無責任かって、70億人に広めたいって思ってるやつって、広まらなかったときも「あー…残念」くらいにしか思わへんねんで

1994年、英国の写真感材メーカーの補助金によって、1940年代後半から1950年代にかけて撮影されたカラー作品が初めてプリントされ、ニューヨークの老舗写真ギャラリー、ハワード・グリーンバーグ・ギャラリーで個展が開催されました。この個展によって、「多くの人に見てもらうべき作品」と確信した同ギャラリー・スタッフであったマーギット・アーブは、カラー作品集出版のために奔走をはじめ、同時にライターのアシスタントとして作品整理に携わるようになっていきます。

Source: Bunkamura

「いいと思う」ってのはこういうことだよ

松田:そうやねんそうやねん。

中垣こういう人に広まってほしいって思ってたら、広まらなかったときもちゃんと考えるねん。主語とか対象が明確じゃないってそういうことやねん。

松田:最初から焦点が合っていないから、それがかなわなかったからどうこうってならへんねんな。

中垣:ソール・ライターはサクセスストーリーやからいいけど、これが仮に広めたいと思って売ってみたけど誰も買いませんでしたって話やったとき、誰が悲しむって別に誰も悲しまんわけ

松田:そうそう。

中垣:悲しむのは奥さんだけやで。なんて卑怯なやつらなんだって話。じゃない?

言いっぷりは若干強めでお届けしています

きゅー:別に私個人としては、アーティストにお金渡そうぜとはそんなに思ってないんだけどね…

中垣:きゅーちゃん自身のスタンスとかではなくて、ってことやんね。

きゅーなんか別に、広がらなかったときはそれはそれでいいんじゃない?

中垣:それは広げようとした人にとって?

きゅー:そう。

中垣いや、いいんやけど、なら彼は広げたかったわけじゃないよね

きゅー:うーん…

中垣:「こんなにいいものがあるんだから世の中の人にもっと知ってもらわないと」って思ったわけじゃないよね。「(いいって思うんじゃね…やってみよ…あ、無理やった…まあいっか)」って感じでしょ。リツイートと一緒じゃない?

リツイートはまじでゴミ

The Man Who Built The Retweet: “We Handed A Loaded Weapon To 4-Year-Olds” – BuzzFeed News→

2020年2月28日
Aux Bacchanales 銀座