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「有能」って言うやつの欺瞞

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みなと:前に松田とも一回話したけど、「あの人は有能」って言ってるとき、言ってるそいつはなんなんだっていうか

太郎:それは分かるな。

みなと:「有能」でもいいし「仕事できる」でもいいんだけど、その言葉の不明確さが気になるというか、自分以外の全員が求めていることを基準にそう言ってる感じがあるというか、そう言ってるときに本人がイメージしてることって、すごい漠然としていると感じてて。

太郎:うん。

みなと:誰かを有能って言うときってさ、その根拠となる行為を自分の周囲でその誰かがしたっていう前提で言っていると思うんだけど、有能っていう言い方だとさ、n-1人、つまり自分以外の世間一般にとって有用であるかのような表現になってて…

太郎:うんうん。

みなと:お前がそれを認めたからこその評価なのに、なんでわざわざn-1人のことを引き合いに出して言わなきゃいけないのかなって

c 肩書によって一般化される以前の自分

松田:「彼は有能だよ」って聞いてモヤモヤするのがさ、まずひとつには、そう思っているのはお前なのに、なんで一般論としてそうであるかのように言うねんってところやんな。あとはなんやろうな…

みなと:曖昧じゃない?

松田:そうやな…そもそもなんでそんなこと言うん?って思うな。まあ言う人の気持ちも分からんではないよ。他人を有能と判断することで、判断している限りにおいてはその人にマウントを取れるわけやから

幼稚園で戦いごっこが勃発したらソッコーで審判やってました

みなと:あ、そういうことなのか…?

松田:原理的に評価って上からしかできないから、人を評価している限りにおいて、その人に対しては優位を感じていられるというか。だってそうじゃなければそれはライバルになっちゃうやん

みなと:あー…なるほどね?

松田:あんましっくりこない?

みなと:いや、基本的には分かってるつもりなんだけど…僕はどっちかというと、ものすごく距離が近いのにも関わらず、すごく遠くから言ってる感じが気になってて。なんでそんな言い方するのか全然分かんないんだよ。仕事ができるって言ってもさ、「仕事」も「できる」も曖昧だし…

酒井:自分、今の職場が頭いい人がいない系の職場、学歴がある人がいない系の職場なんで、「仕事できる」ってめちゃめちゃ言われるんですよ。

松田:へー。

みなと:しかも、まあ当たり前なんだけどさ、有能とか仕事できるとかの評価って、その基準がそれこそ学歴とか、分かりやすい大きなことをしたとか、一般にラベリングされやすい要素に基づいて言っているような気がしてて

松田:はいはい。

みなと:だから有能という言葉が本来持っている、物事を実行する能力があるっていう意味からは離れているような気がしてて、それにもすごい違和感を感じる。

ゆう‐のう【有能】

はたらきのあること。役に立つこと。能力のあること。「―の士」「―な新人」↔無能

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

酒井みんななんとなくで使いますよね。うーん…でもやっぱ、評価することで一歩引いてるっていうのが一番ある気がしますね。評価することで自分を保ってるっていうか。

みなと:あー…そうか、そうなのか。

松田:彼は有能だって言った瞬間、構造的に同じ土俵にはいないことになるから、彼のことを脅威だと認識せずに済むやん

みなと:うちの会社ではわりと上にも下にも同期にも言うから、あんまりそれを感じたことはなかったな。

松田:それも同じやと思うけどな。何かを評価している限りにおいての優位性というか…

よけい:その人は仕事ができると、自分は認識できているっていう?

松田:そうそう。良いものを良いって言えるのは、基本的には強いことやん。

みなと:あー…

よけい:目利きみたいなね。

松田:しかも「私は彼を有能だと思う」って言うんならまだしも、主語不在の一般論として述べることで発言の責任を巧妙に避けつつ、私は価値あるものを価値あると認識できていますよっていうアピールができるやん

よけい:二重構造になってる。

松田:そうそう。いやらしいよな。

みなと:今日さ、会社の忘年会のお店の候補のリストをもらったんだけど、「このお店いいんじゃない? 食べログ3.6だし」って言われて…

よけい:笑

みなと:それと結構近いよな。その「いい」ってなんなんだって

松田:うんうん。

みなとその3.6はお前の評価じゃねえじゃん、って。まあ例えばね、食べログの評価が高い店と自分にとって美味しい店には十分な相関があるっていう認識があった上で言ってるんならいいんだけど、絶対にそんなこと考えてないし。

よけい:笑

松田:でもその話、ちょっとひどいな笑

みなと:まあ行った結果美味しければなんでもいいんだけどさ。

よけい行ってダメでも「食べログで3.6だったし…」って言えるからね

みなと:あー、それもさっき松田が言ってたような感じなのか。自身で評価の基準を決めて、それに基づいて責任を持った発言をしなくても、有能とか食べログで高評価って言っておけばそれでいいって。

松田:そうそう。要は有能って言うのはさ、食べログのランキングをチラッと見て、それを検証せずに自分の価値判断としてしまうのと同じやんな。一般性が担保されている判断として表明する感じ。

みなと「このお店美味しい(らしい)よ」みたいな。

よけい:そうそう。分かってる感が出やすいというか。

みなと:なんか話しながら思ったんだけどさ、代わりになんて言えばいいのかも一方でよく分からないよね。あるいは何も言わなければいいのか。

松田:今指摘したような動機にのみ基づいて「彼は有能」とか言ってるんならさ、それは別に言わなければいいだけやん。

みなと好きな先輩とか好きな後輩とか好きな部下とかさ、そう言ったらよくない?

松田:あー、確かに。「彼めっちゃいい感じなんです」みたいな。

よけい:超主観じゃん笑

2019年12月6日
代々木上原 Airbnbの一室