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ファッション 思索

余白のある服が好き

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河東:モードブランドは着ないというか、余白のない服は着ないって話。これちょっと新説も加わったから喋ろうや。

中垣:みんなのためにざっくりと前提を説明すると、おしゃれ好きと言っても服の楽しみ方にはいろいろあって、おれとか河東は「これおしゃれか?」みたいな、あんまり人が着ないような服をなんとか組み合わせて…っていうのが楽しくて、つまり組み合わせの妙みたいなんが楽しくてやってるねんな。

中垣一方でモードブランドって、服自体が着方を規定するところがあるから、そういうのにはあんま興味無いというか、自分で買って着ようとはあんまり思わないよね、みたいな話があるねん。

みなと:そこで言うモードブランドってさ、何が分類の基準になってるの?

河東:まあ俗に言うデザイナーズブランドというか…

松田:ランウェイやってるブランドでええんちゃうん?

中垣:そうやな、ランウェイやってるブランドかなぁ…でもランウェイやってない展示会だけのブランドにもモードブランドはあるしな。

松田:じゃあランウェイは十分条件って感じか

中垣:そうやな、ランウェイは十分条件でいいな。必要十分で言うとなんなんやろう…

河東:すごい落とした表現で言うと、一般の人が着なさそうな服を発表するブランド達、って感じがおれの認識やけど。

中垣:結構そこに明確な違いがあると思うねんな。…いや、でもどうなんやろ、そうなるとセリーヌはどっちなんだい?みたいな話はあるけど。

CELINE

松田:ギャルソンは?

中垣ギャルソンはモードですよ。 特にオムプリュスとかは。

松田:あー、まあプリュスって言われたらそらそうやな。

Source: number3store/YouTube

COMME des GARÇONS

中垣:でも、ある程度パッキリと方向性は分かれてるね。

みなとあるブランドがモードかそうじゃないかは明確に分かるの?

中垣:分かる分かる。

河東:ざっくりと言うと前衛的かどうか、やね。

うーん、ざっくり

中垣:リアルクローズ寄りか、いわゆるよく分からん服寄りかのどっちかやねんけど、その間のグラデーションがあんまり滑らかじゃない。だいたいどっちかに振り切れてる。

松田:マルジェラは?

中垣:うーん…でもマルジェラもモードブランドやと思う。確かにマルジェラで売れてるのはわりと普通の服やねんけど、コレクションでやばい服を見せて実際に売れんのが普通の服っていうあたりが、モードブランドのモデルやんな

メゾン・マルジェラ デストロイドニット
Image: Maison Margiela

Maison Margiela

c マルジェラのデストロイドニット

河東:ガッキーとよく話してる余白のある服ってどういうことかって、古着とか街で売ってる普通の服とかpatagoniaとか、そういう別に華美でもないし誰が着てもそれなりにしっくりくるような服ってあると思うねんけど、それを着て一歩抜けようっていうカルチャーが、まず前提としておれらの中にはあるのよ

patagonia

河東普通な服装でもおしゃれというか。例えばサイズの選び方が上手いとか、自分の身体を見つめてどういうシルエットの服やったら似合うかとか、それを分かった上でちょっと崩してみようとかさ。

最近伊丹十三読んだでしょ

伊丹十三(2005)『女たちよ!』新潮文庫
Image: Amazon.co.jp

伊丹十三(2005)『女たちよ!』新潮文庫

河東:その背景には普通の服で遊ぶことがすごい好きで、その結果行くところまで行ったかっこいい人を見てきてるっていうのがあるねんな。地元の古着屋の人とかさ。そういう人の格好って、それと同じ服着てもその人と同じ仕上がりにはならへんわけやん

中垣:そう、ならないんすよ。

河東:その人がめちゃめちゃカッコよく着こなしてる服を、そのままそっくり同じ体型の人に合わしても絶対同じにはならへんねん。そういう、着方ひとつやったり組み合わせやったりでおしゃれはできるっていう文化で生きてきたから、普通の服を組み合わせて違いを出すのが好きやし、かっこいいと思ってるわけ

河東:で、モードブランドの服やねんけど、例えばサカイとか分かりやすいけどさ、要するにこう、服自体にパワーがあんの。わけ分からんフリンジが付いてる、わけ分からんカッティングをしてる、前身頃Gジャンやと思ったら後ろは全部ニットでしたみたいな、わけ分からんデザイン。でもそういう服は余白がなくて…

よくも悪くもsacaiにしかならないんだよね

sacai

中垣:大味やねんな。モードブランドの服を着てると、裾があと3cm長かろうが短かろうが、それ以前に指摘するポイントがいっぱいあって、細かいところが問題にならへんわけ。モードっていうのは完全に新たなイメージを作るゲームで、それはそれでもちろん楽しいねんけど、おれらとしては微妙な差分でどっちがいいかを迷いたい、この1cmをどうするかみたいな、そこを楽しんでるねん。

一方…

c 有名なブランドの服着てみたい

松田:余白のある服っていうかあれやな、余地のある服って感じやな

room1 /ruːm, rʊm/ ●●● S1 W1 noun

3 OPPORTUNITY/POSSIBILITY [uncountable]
the chance to do something, or the possibility that something exists or can happen

Source: LONGMAN

中垣:そうそう。

河東:モードブランドの服には余地がないと思ってて。要するに誰が着ても…まあ誰が着てもっていう言い方はちょっと語弊があるねんけど、同じ見え方をするわけ

「おしゃれなシャツ」「おしゃれなパンツ」という考え方は間違っています。おしゃれなのは服ではなく人です。

松田:二郎系ラーメンと…なんやろ、昔ながらの中華そばの美味しいやつみたいな。そういう感じやんな。

中垣:あー、そうやね。

河東おれらは中華そばの美味しいやつの機微を楽しんでるねんけど、ジロられちゃうとさ…それはもう二郎やん、って感じ。

松田:オーバーキルされちゃうよな。

河東:それで、モードブランドを着てる人にかっこよさを感じたことはそんなにないねん、経験としてね。だからおれはサカイの服とかは嫌いやねんけど。

松田:はいはい。

河東:けど、世の中にはモードブランドを着てる人もいっぱいおって、その中にはきっと、細かい差分も好きやけどモードブランドも着る人っていうのも確実に存在するわけ。

中垣:そうそう、そうやんね。

よけい:はいはい。

河東:って考えたときに、結局モードブランドを着ても余白を遊べる人がかっこいいんじゃないかっていう

マルジェラのデストロイドニットのほつれ具合を一生調節している人、ギャルソンのエステル生地のシワの入りかたに譲れないこだわりがある人

中垣:まあね…でもどうなんやろう、結局モードブランドの人達が戦ってる土俵って、世間一般にどう思われるかじゃないわけやねん。なんて言うんやろう、そういうコミュニティーの中でのおしゃれを楽しんでるというか、ハイコンテクストの中で競ってるというか。

河東:うんうん。

中垣:なんて言えばええんやろうな、想定してる目が違うんじゃない? 誰から見てもなんかシュッとしてる着方を目指しているのか、ごく限られたコンテクストでのみ理解される服装が好きなのか。だからやっぱ、そっちには行けない気がするねんな。そもそもおれ、モードブランドを好きな人達がなんでそれを好きなんかがいまいち分かってないから

河東:あーね、それはあるかもな。前提としてそっちを分かってへんかも。

中垣:なんか、好きの種類が全然違う気がする

河東:おれはさ、モードを作ってる人らがそういう細かいこだわりが大好きな人達なんを知ってるわけ。結局あいつら、自分が着るのはTシャツにGパンばっかりやったりするし。その人達が出す作品がモードなわけやから、やっぱりそこになんらかの意味はあるはずちゃうかなとも思うねんけど…

松田:今日おれ国立新美術館にカルティエ展を観に行ってんけど、似たようなこと思ったな。

カルティエ、時の結晶 – 国立新美術館

中垣:どういうこと?

松田カルティエのジュエリーね、全然おもんないねん。綺麗やけどそれだけ、欲しいと思われへん。おれの持ってるジュエリーの方が100倍ええわと思った。

中垣:うんうん。

松田:ああいうハイジュエリーってさ、テクスチャーがどうとか絶妙な面どりがどうとか、そういうのじゃないねん。ダイヤモンドの輝きが圧倒的過ぎて、全部そっちに持っていかれるねん。石にオーバーキルされちゃう感じがあって、ディテールに目をやる気持ちになられへん

c 【シリーズ】イラン イスファハーンのモスクに見る「質より量」

中垣:はいはい。

松田金で豹を作ってダイヤモンドでパヴェったら、それでもういっぱいいっぱいやねん。例えばこの尻尾はあっち向いてる方がいのか、こっち向いてる方がいいのかみたいな、そういう話にならへんねん。

中垣:うんうん、そうやんな。

松田:それよりもっとさ、おれのあの金の指輪みたいに、ディテールがちょっと変わるだけで印象が大きく変わるようなゲームの方がおもしろいなって。

中垣:そうそう、そうやね。

2019年12月6日
代々木上原 Airbnbの一室


ジェニー・ウォルトン
HeaderImage: GET the LOOK

NY在住のイラストレーター、ジェニー・ウォルトン。Parsons School of Designを卒業後、ミュウミュウ、ボッテガヴェネタ、モンクレールなどのブランドと仕事をしている。配偶者は『The Sartorialist』のスコット・シューマンである。
サイズのあったヒール、まくり上げられたシャツの袖、アタリのついたバッグ、ウエストの絞られたスカートとそれに合わせたやり過ぎないタックイン、微妙な差分全てが最適化されたスタイルである。僕と再婚してください。