松田:ずっと前にみなとに教えてもらった、
アマルティア・セン(2018)『不平等の再検討 潜在能力と自由』岩波現代文庫
みなと:うん。
松田:あれ最初読んだとき、訳語のあて方のセンスがおれの知らんそれというか…そもそものタームが一義性に厳密だからこそ、
みなと:そうだね、分かるよ。
松田:そのせいでなんか、
岩波の青ばっか読んでるとそうなる。白も読みましょう
みなと:確かに、アマルティア・センに限らず…まあ経済学以外の専門書を読んだことがないから分からないけど、
松田:そうそう、めっちゃそういう感じやった。「記号論理学かな…?」って。
みなと:笑
松田:例えば
みなと:そうだよね。
松田:あとは well-being を「福祉」って訳すのも結構際どいと思うねんな。
みなと:あー、そうだね。僕が読んだときは英語版もあわせて買って、対照させながら読んだ記憶がある。
「適切な訳語が無いので X と呼ぶことにします」とかにしてほしい
松田:でも内容自体には興味があって、最近また読み始めたのね。
潜在能力と効用の違い
様々な機能によって構成される空間ーそして機能を達成する潜在能力ーに焦点を当てるということは、所得や富や幸福などの変数にのみ着目する従来の伝統的なアプローチとは本質的に全く異なったものである。人間の多様性は、平等や効率性や正義を評価する時に異なった「情報的基礎」に焦点を当てることから生じる本質的な対立と密接に関連している。
特に、成果を達成する潜在能力によって平等や効率性を判断することは、標準的な功利主義のアプローチとも異なるし、他の厚生主義者の定式化とも異なる。一般的には厚生主義、中でも特に功利主義は、快楽や幸福や欲望といった心理的特性によって定義される個人の効用にのみ究極的な価値を見出す。これは個々人の優位性を次の二つの方法によって取り入れた制限の強いアプローチである。その方法とは、(一)自由を無視し成果にのみ注目すること、(二)心理的尺度によって測れないような成果を無視することである。効用が個人の福祉を表す限りにおいて、この手法は極めて限定的に福祉を説明するに過ぎない。そして、それは「福祉を追求する自由」やその他の目的に対して直接注意を払うこともしない。
Source: アマルティア・セン(2018)『不平等の再検討 潜在能力と自由』岩波現代文庫
松田:これを自分に照らすとさ、自分の今の生活は前者の意味での well-being は底中の底なわけ。
フローリングに寝袋で寝る日々
みなと:笑
松田:食事はパンとプロテインとビタミンの錠剤だけ…みたいな。狭義の効用に基づいて判断するならこれは超不幸なんだけど、一方で自分は今の生活を選ぶにあたって、それ以外の選択肢は取り得るものとしてなお切ったという認識があるわけ。
松田:てか capability ってこういうことでいいよね?
みなと:そうそう、それに近いね。
全盲の人とそうでない人がそれぞれ弁護士資格を取った場合、その成果は同じでも、前者の方がより限られた capability の中でそれを達成したと言えます。
松田:そういう点では自分はなお恵まれていると言えて、
みなと:うん。
松田:あるいは、先ほどの対立のうち前者の仕方で判断して豊かだとされる人と比べても、実は今の自分の方が豊かであるとも言い得ると。もちろん、こう言うことで自分を肯定したいというよりは、
みなと:うんうん。
松田:し、わりとスムーズに内在化できそうな考え方であるからこそ、一度自身の思考の体系に組み込んだ上で、再び理論として積極的に行使できるようになりたいという気持ちがあって読み始めました、そういう話。
みなと:なるほど。
松田:で、今日みなとと話したかったのは、まず capability ってそういう意味内容ですよね?っていう確認がしたくて。
みなと:あー、そうだね。
松田:あとさ、『不平等の再検討』の中で出てきた「効用」の意味についてやねんけど、
みなと:えっとね、経済の意味で使われる効用っていうのはそれに近くて…
松田:計数的な、交換可能な感じ?
みなと:…うん、
松田:
みなと:そうそう、比較可能性はあると思う。例えば効用関数と予算制約線っていうのがあるけど、
松田:なるほどね。
みなと:あとはアマルティア・センの場合は、それこそ『不平等の再検討』もそうだし、僕の印象に残ってる本で『経済学と倫理学』っていうのがあるんだけど、それも関数とか使わないで丁寧に説明してくれてるって感じがある。
アマルティア・セン(2016)『アマルティア・セン講義 経済学と倫理学』ちくま学芸文庫
松田:知らんけどさ、
みなと:あ、そうそう。基本的にはハートフルで、『経済学と倫理学』も結構しっくりくるところがあった。その本では、
松田:はいはい。
みなと:そもそもアマルティア・センは数学的な素養もかなりある人で、『不平等の再検討』のベースになってる本は数式だけで書かれてたりするんだよね。そういう
松田:ほーん。
みなと:自分も読み直さないとね。今の説明もかなりざっくりしてたし、スムーズに言葉が出てこない。
松田:まあまあ。とは言えおれは経済の文脈においては無知も無知やから、今の話だけでも得るところは大きいよ。
松田:それこそ最初手に取ったときの絶望と言ったら。だから、おおよそこういう構造の主張なんだろうけど、それでほんまに間違ってない?という確認が多少取れるだけで全然違うねん。
サンキュー
2020年9月11日
Aux Bacchanales 紀尾井町
アジア初のノーベル経済学賞受賞者、アマルティア・セン。
人の福祉(well-being)を表す様々な状態や行動を指す「機能」の集合として「潜在能力(capability)」という概念を提案した。所得や効用や資源などは人の福祉の手段や結果を表すものであり、人の福祉そのものとの間にギャップを生じるため、センは人の福祉を直接表す「機能」に注目した。
Amartya Sen’s Hopes and Fears for Indian Democracy