Categories
エンタメ 人生 思索

虚構の人格

4 years

6 minutes read

松田:このあいだ電車の広告を見てて思ってんけど、それこそ渡辺直美のKIREIMOのCMとか、おれやったら無理やなって。

KIREIMO 渡辺直美
Image: KIREIMO

中垣:自分が渡辺直美やったらってこと?

松田:そう。おれが渡辺直美やったら、そのCMには出られないなって

中垣:自分がやる必要がないからってこと?

松田:うーん、KIREIMOはおれではないって感じ?

中垣:あー、それに対して同一化できないってことか

松田:そうそう。あるいは前にもちょっと話したけど、ダウンタウンの松本が出てた、ソフトバンクの「勝手にHERO’S」ってCMがあるのね。

https://www.youtube.com/watch?v=xRLcWTBe0no
Source: ソフトバンク(SoftBank)/YouTube

中垣:はいはい。

松田そこで宣伝してるプランはほんまにクソみたいなプランやってんけど、でも彼はそのCMに出てる。大物やのに。なんでそんなことしてんの?って思ったけど、まあ芸能人ってそういう仕事やんなって思ってたのね。

ベースの通信容量は50GB&動画サービスとSNSサービスはカウントフリー、カウントフリーのサービスも含めて通信量が2GB以下の月は自動的に1,500円引きになる、「メリハリ効いた料金」の「勝手に割引!」プラン。もうね、アホかと。

中垣:うんうん。

松田:それ以降、芸能人…特にいわゆるタレントが出ているCMに対する違和感がおれの中でくすぶっててんけど、最近電車で脱毛の広告とか見たりすると改めて、そこにそのタレントがおる理由は、世の中の人がそのタレントのことを知っていて、一定のポジティブなイメージを持たれてるっていう、それだけなんやなって。

中垣:うんうん。それこそ『影響力の武器』的な話やんな。

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』
Image: Amazon.co.jp

ロバート・B・チャルディーニ(2014)『影響力の武器』誠信書房

松田:そうそう。世の中の人からしたら、その企業のサービスについては知らなくてもタレントの顔は知ってるわけやん。だからまあ、そのタレントのイメージでもって商品のイメージを補完できてよろしいねんけど…タレント本人の気持ちになったとき、自分は何をやっているんだろうってならへんのかな?

中垣:いや、思うやろ。思うけど割り切ってるんじゃない?

松田:割り切る…割り切れんのかな? だって結構やばい話やと思うで。

中垣:それが仕事やからな。

仕事は人生を蔑ろにする理由にはならないぞ

松田:現場で「渡辺直美さん入られまーす」って迎えられてさ、「こういう感じでお願いします」って指示が出されて、「以上です。今日はありがとうございました」で帰宅…いやいいや、なんでおれ今日呼ばれたん?って絶対なるやん

中垣:なるやろ。なるやろうけど…まあ芸能人はやっぱそこが辛いんじゃない?

松田:それはやっぱ辛いんかな?

中垣:辛いけど、それに目を瞑る技術を何かしら身につけてしまってるから、ある意味ドライになれるんじゃない?

松田:じゃあ仕事の最中は親からレイプされてるJKみたいな気持ちになってるわけ?

例えが不適切過ぎる

中垣:まあ芸能人はそれ以前にもっとやばいと思うけどな。それこそSNSで叩かれるのもそうやしさ、「私が何者である」かなんて関係ないわけやん。見世物でしかない、フェラーリとかと変わらへんわけやん

パリス・ヒルトン フェラーリ
Image: ZIMBIO

フェラーリから降りるパリス・ヒルトン。虚仮中の虚仮と言いたいところだが、美し過ぎるので本気の批判はできない

松田:うんうん。

中垣自分が何を考えているか、みたいなことには価値が無いというか

一応言っとくけど「#検察庁法改正に抗議します」はそもそも論外だからな

c 検察庁法改正に抗議するのはいいんだけどさ…

松田:まあそうやんな。

中垣:そういう仕事やから、その点はやばいなとは思うけど…まあ芸能人になる過程でそういうフィルタリングはされてるんじゃない? そこへの適正を見定められているというか。

松田:なんか、シンプルに気の毒やなと思って。

中垣:そうやと思うで。

松田おれなら、AppleのCMでも悩んだ結果出られへんと思う

中垣:まあ無理やんな。

松田:あれもそう、前に東大生系のテレビ番組に出ないかって言われたことがあるねんけど、それもとてもじゃないけど出られへん。それをずっとやるなんて。

松田:そういうことを丸の内線に乗りながら考えててん。で、赤坂見附で降りて地上に上がったところにすしざんまいの看板があって、これならよろしいんですけどねって

すしざんまい 社長
Image: 社長名鑑/YouTube

中垣:笑 まあまあ、そうね。芸能人が不思議な仕事っていうのは間違いないね。

松田:なんか一方ね、芸能人ってくくりはやや大雑把過ぎるなとも思って、例外はないかなと考えててんけど、堺雅人はまあええかなと思うねん

中垣:はいはい。

松田:堺雅人が出てるビッグマックのCMがちょっと前にあってんけど、その堺雅人は「ビッグマックが好きな人をむっちゃ上手にできる人」やからさ。

https://www.youtube.com/watch?v=anO-UFjNoHw
Source: マクドナルド公式(McDonald’s)/YouTube

中垣:あー、なるほどね。

松田: この場合は演じてるっていうことが前提にあるわけやん。でも渡辺直美は、あくまで渡辺直美としてそこにいるわけ

中垣:あー。

松田:堺雅人が出てるマクドのCMは、その役に名前がついてないだけで、ドラマの役とかと一緒やねん。彼自身からは別人格として切り離されるし、言うたら堺雅人じゃなくてもいいわけ

渡辺直美の仕事は、渡辺直美じゃなくてもいいのに渡辺直美じゃないといけない。これはほんと地獄ですよ

中垣:あー、そういうことか。それは分かるな。

松田:それで言うと安室奈美恵とかも、歌を歌うっていうのがベースにあるからあんま問題はなさそうやねん。

中垣:そうやんな。

松田でもタレントは、きっとアイデンティティクライシスえぐいよ。おれはずっと言ってるけど、来世何になれるとしても芸能人と皇族は嫌やもん。

中垣だからやっぱ沢尻エリカはすごかったよね。「別に?」ってやつ。

Source: robertosilvajones/YouTube

松田:なるほどね笑

中垣:「すご…」って思った。まあ本人としては別に思うところがあったとかではなく、単純に反抗期的なアレやったような気はするけど。でもそういう気分になってもおかしくないと思うねん

松田早く帰って化粧落として本名の私になりたいんですけど?って毎日思ってそう。

中垣:『ヘルタースケルター』、映画はちょっと微妙やったけど、漫画は結構そういう感じやった気がする。偽物っぽいというか。

松田:ネットフリックスの『アメリカン・ミーム』っていうドキュメンタリーもいいよ。「33歳の大人なのにこんなことをやってる」「みんなイカれた人生を羨ましがるけど、気づいてない。僕も何かを作っているみんなが羨ましい」って、有名なインフルエンサーが言ってる

Netflix アメリカン・ミーム
Image: Netflix

アメリカン・ミーム – Netflix

中垣:まあそらそうやんな。しかもさ、それにしか商品価値がない、つまり「自分にはこういうことができる」とかがないわけやん

松田:そうやんな。

中垣要は、みんなからの人気が無くなったら終わりなわけやん。これってきついよな

参加者は一向に増えないのに、健気にcommmonを続ける二人である

松田:いやー、きついよ。よく「n-1の原理」って言ってるけど、それを地で行ってるわけやろ。役所の書類とかで自分の本名見たときどんな気持ちになったらええねん

自分一人の見方に基づく偏狭な判断を避け、より俯瞰的で全体的な立場から判断をしようとしながら、実際には自分のみが疎外されたn-1人からなる母集団を全体として想定し主体が不在の判断をすることを、commmonではn-1の原理と呼んでいます。

中垣自分のプライベートとかほんまに気持ち悪いやろうね

松田:おれははさ、いわゆる嫉妬の裏返しとかじゃなくて、シンプルに気の毒やと思うねん。どう考えてもおかしいと思う

中垣:でもおれは、それはそういうもん…芸能人は大変やなって思ってる。

松田:おれはこういうことを考え出してから、タレントの出てる広告を見るたびに、ソマリアでキッズが飢餓に苦しんでいるっていう記事を見たのと同じくらいキツい気持ちになってるねん

さすがに盛ったでしょ

中垣:はいはい笑 まあ結構異常ではあるよね。なんで大麻はあかんのに芸能人はいいんだ、というか、どちらも人をダメにする仕組みなのにそれが容認されているのは不思議な感じがするよね

2020年6月26日
Aux Bacchanales 紀尾井町


Source: Asmik Ace/YouTube

2012年に公開された映画『ヘルタースケルター』。「目ん玉と爪と髪と耳とアソコ」以外は全部つくりもののトップスターりりこを、沢尻エリカが演じる。
Twitter常駐病みガール向けの、派手なビジュアルがカラ回ったEDM映画。濡れ場以外の魅力は皆無である。