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ことば 学ぶ

具体例から考える、正確な言語運用

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中垣:なんかさ、正確な言葉を使うのってすごい大事やし、結構むずいなとも思うねんな

松田:はいはい。

中垣:今からの話は勝手な自問自答やねんけど…「意味が無い」ってよく言うやん。「そんなことしても意味が無いやん」とか、普通によく言うと思うねんけど、これも結構、便利やけど正確じゃない言葉やなと思ってて

松田:あー。

中垣:まあなんでもいいねんけどさ、例えばおれは昔は人前で大声を出すっていうのをしてたけど、今はもうやめた。なぜならそれは「意味が無い」からだと、全然そう答え得ると思うねん。

松田:うんうん。

中垣:でもそう言うと、例えばうちの彼女はそういうふうに言うことが多いねんけど、「でも意味が無いことをやるのも楽しいじゃん」って返されるのね

松田:うんうん。

中垣:でもそれは違うと。意味が無いことをやるのも楽しいのであれば、それはその限りにおいては意味があるんだと。

松田:そうやんな。

中垣:つまり、おれは「意味が無いから」って言うのではなくて、「それに価値を見出さなくなったから」って言うのが正解やってんけど、でも意味が無いからって言っちゃうねんな。

松田:うんうん。

中垣:それに、意味が無いって結構きつい言葉やし、ごく個人的な判断を一般的な話に転嫁してもいて、これはどうなんかなと

松田:はいはい。今の話を聞いて思ったのは、まずごく個人的な判断を一般化して「意味が無い」って言っちゃうことに既に危うさがあるし、さらに言えば、個人的で複雑なコンテクスト込みのあくまで便宜的な言語化として「意味が無い」と言うような、その意味内容が自分の頭の中ではきちんと構造化されている場合でも、結局他人とのコミュニケーションにおいてはどんな言葉にも最大公約数的な意味しか付与され得ないから、そこで言う「意味」には合理性とか効率性みたいな、もっとも了解可能性の高い一般的な意味しか期待できないわけで、それもやはり避けた方がいいなと。

一文が長過ぎる

中垣:そうそう。

松田:だからこそ「意味が無いことも楽しい」みたいなチグハグな話になっちゃうよね。

中垣:しかもさらに言うと、意味が無いってかなり子供っぽい表現やと思うねんな。相手を否定して突き放すようなニュアンスやなって。

松田:うんうん。すごくこう、本質的な表現だし、だからこそ話の展開可能性が閉ざされちゃう感じがあるというか

中垣:そうね、そうやね。なんか、誰かめっちゃ賢い人が、そういう危なっかしいフレーズ集を作ってくれへんもんかな。

松田:そうやんな。

自分で作ろうと思わんあたりですよね

松田:まあね、おれらでもできる気はするけどな。

中垣:それこそ「本質的」とかはまさにそうやんな。

ほんしつ‐てき【本質的】

物事の本質にかかわるさま。性質や様子がそのものに本来備わっていること。「―な問題」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

「イスラムを本質的に述べてはいけません」と言っていた大学の先生、あなたには「本質的」という言葉の使い方を学びました

松田:そうやんな。そう言えばおれ、最近むっちゃ広辞苑引くようにしてるで。

中垣:あー。

松田:バイブスで使いがちな述語があれば全部引くようにしてるな。その表現に本当に過不足がないのか確認したいときとか。

中垣:はいはい。なんか前にさ、libertyとfreedomの違いみたいなことを、WEEKLY OCHIAIに出てる人が言ってたと思うねんけど…

WEEKLY OCHIAI Withコロナ時代の中国ビジネス新常態
Image: News Picks

【落合陽一】Withコロナ時代の中国ビジネス新常態 – News Picks

松田freedomは不自由からの解放で、libertyは積極的に行使する自由やんな

free‧dom /ˈfriːdəm/ ●●● S3 W2 noun

1 [countable, uncountable] the right to do what you want without being controlled or restricted by anyone

Source: LONGMAN

lib‧er‧ty /ˈlɪbəti $ -ər-/ ●●○ noun (plural liberties)

1 FREEDOM [uncountable] the freedom and the right to do whatever you want without asking permission or being afraid of authority

Source: LONGMAN

中垣:あー…なんかハンナ・アーレントの解説書でも同じようなことが書いててんな。libertyはアメリカ的な自由で、freedomはフランス革命的な自由だと

仲正昌樹(2009)『今こそアーレントを読み直す』講談社現代新書
Image: Amazon.co.jp

仲正昌樹(2009)『今こそアーレントを読み直す』講談社現代新書

松田:はいはい。

中垣:で、ハンナ・アーレントとしては、アメリカ民主主義的なlibertyの自由をよりよいものとしてるって。

松田:へー。まあ言われてみればそうっぽくはあるな。

ハンナ・アーレント(1994)『人間の条件』ちくま学芸文庫
Image: Amazon.co.jp

ハンナ・アーレント(1994)『人間の条件』ちくま学芸文庫

中垣freedomは人間本来の姿を一番素晴らしいものとして仮定した場合の自由らしいよ、その解説書によると。

松田:ほー。でもなんか、libertytとfreedomの違いについては高校のときに英語の中西先生も言ってた気がするわ。

中垣:あ、そうなんや。さすがにえらいな。

松田:あとは何やろう、違いはどこでしょう系で言うと…「蓋然性」と「可能性」とかね。

中垣:はいはい。

松田蓋然性はprobabilityで可能性はpossibilityやね

prob‧a‧bil‧i‧ty /ˌprɒbəˈbɪləti $ ˌprɑː-/ ●●○ noun

1 [countable, uncountable] how likely something is, sometimes calculated in a mathematical way SYN likelihood, chance

Source: LONGMAN

程度が主題

pos‧si‧bil‧i‧ty /ˌpɒsəˈbɪləti $ ˌpɑː-/ ●●● S2 W2 noun (plural possibilities)

1 [countable, uncountable] if there is a possibility that something is true or that something will happen, it might be true or it might happen

Source: LONGMAN

つまりmay

中垣:あー…で、どう違うん?

松田:蓋然性っていうと客観的で、事象の確からしさって感じやけど、可能性っていうと客観性の低い見込みというか、ぽんっと浮いて出てくる感じがあるよな。

辞書の編纂者って偉いなと思いました

中垣:うんうん。

がいぜん‐せい【蓋然性】

(probability)
①ある事が実際に起こるか否かの確実さの度合。
②確率。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

高い/低い

かのう‐せい【可能性】

(possibility)
①できる見込み。
②〔哲〕
㋐論理的に矛盾が含まれていないという意味で、考えうること、ありうること。
㋑あることが実現される条件がそれを妨げる条件よりも優勢であると確認されていること。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

有る/無い

松田:蓋然性は事態の盤石性が主題になっているというか…

中垣:あー、うんうん。それこそ人生における蓋然性と人生における可能性っていうと、全然違うよね。

c 人生の蓋然性

松田:そうそう。可能性やと、何が起こるか分からん中で起こることが期待されるかどうかっていうニュアンスがあるけど、蓋然性やと、どれだけ確からしくそうであるかっていう話になるやん。

中垣:そうやね。起こる何かというよりも、起こること自体というか…まあ確からしさって感じやね。

松田:ていうか人生の可能性ってやばいな笑

中垣:ね笑

全てのことが起こり得る状況において可能性を論じることは矛盾しています。

松田:あとは最近やと何を引いたやろう…「認知」と「認識」とかね。

中垣:あー…なんとなく使い分けはするけど、説明しろと言われると難しいな。

にん‐ち【認知】

①事象について知ること、ないし知識をもつこと。広義には知覚を含めるが、狭義には感性に頼らずに推理・思考などに基づいて事象の高次の性質を知る過程。
②〔法〕嫡出でない子と父または母との間に法律上の親子関係を成立させること。普通は父が戸籍上の届出をして認知するが、子の訴えにより裁判所が判決で認知することもある。なお、母との間では出生の事実により当然に法律上の親子関係が成立する。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

にん‐しき【認識】

①〔哲〕(cognition イギリス・Erkenntnis ドイツ)人間が物事を知る働きおよびその内容。知識とほぼ同じ意味。知識が主として知りえた成果を指すのに対して、認識は知る作用および成果の両者を指すことが多い。
②物事を見定め、その意味を理解すること。「時局を―する」「―が足りない」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

松田:たぶんやねんけど、認識の方が手前の段階やと思うねんな。認知の方がもっとこう、自身の体系に組み込んでる感じ。判断とか解釈が含まれてるんかな? 認識は「知ってはいるけど…」って感じ?

中垣:なるほどね。

松田認知行動療法とは言うけど認識行動療法とは言わへんやん。認知の方が一歩進んでる気がする。

認識行動療法って全然効果無さそう

中垣:そういうことね。

中垣:これはまだ簡単やけど、「視野」「視座」「視点」とかもあるよね。図に書いたら説明できるけど、でも言うときは一回考えるね。

松田:確かに、その辺もなあなあで乗り切っちゃいがちやな。

し‐や【視野】

①眼を動かさずに知覚できる周辺視の範囲。正確に測るには視野計を用い、視線と視野周辺のなす角度で視野の大きさを表す。「―に入らぬ」
②顕微鏡・望遠鏡などの接眼鏡で見得る範囲。
③思慮や知識の及ぶ範囲。「―の広い人物」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

し‐ざ【視座】

物事を見る立場。視点。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

し‐てん【視点】

①視線の注がれるところ。また、ものを見る立場。観点。「―が定まらない」「―を変えて論ずる」
②消点に同じ。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

中垣:視座って英語でなんて言うん? 視野はperspectiveやん。

松田:view pointやろ、そのままやん。視点は?

中垣:フォーカス。

松田:笑

point of view

松田視座が違っても視点は同じってことは全然あるよな。

中垣:そうやんな、だから議論が平行線になるんやんな。でも視座ってね…偉ぶった人くらいしか使わないよね。なかなかこう、使いどころが難しい。

松田:なんか、視座とか言っちゃうとその瞬間コミュニケーションの可能性が死にそうやんな笑

中垣:そうね、結構判断的な言葉やんな。高いか低いかしかない

松田:そうそう。

中垣:あと、いつも思想書とかでバカうけしてるのが射程って言葉やねんな。~思想の射程、とか。

しゃ‐てい【射程】

①銃砲口や発射地点から弾着点までの水平距離。弾丸やミサイルの届きうる最大距離。
②力の及ぶ範囲。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

松田:あー、はいはい。確かに。

中垣:解説書とかによく出てくるねん。便利っちゃ便利やねんけどさ…

松田:あー、そうや。おれ彼女に諭されて言わなくなったフレーズに「あたまおかしい」っていうのがあるねんけど…

中垣:笑

松田:ほんまによく言っててん。指摘される前から自分でも分かってたくらい言ってた。でもそれもね、まあ確かにというか。

中垣:内輪ならいいけどね。

松田:そうそう。「意味が無い」もそうやけど、例えばこの場で使うんなら、別に最大公約数的にスポイルされることを恐れる必要はないんだけど…

中垣:そうやね。ホリエモンはその辺が雑いねん。意味無いとかすぐ言っちゃうから。

松田:あー、そうなんや。

中垣:逆に銀髪先生はその辺うまいよな。

宮田先生、な

宮田裕章 – note

松田:なるほどなるほど。

2020年8月21日
Aux Bacchanales 紀尾井町