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人生 学ぶ 思索

『夜と霧』から知る、人生の豊かさと意味

人生の意味はまさに今日ここにある。『夜と霧』の紹介を通して、強制収容所での生活からフランクルが得た確信について考えます。

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松田:ずっと豊かさの再定義について話したいなって思っててんけど、なんでそんなことを考え始めたかって、落合陽一がNHKのズームバック×オチアイっていう番組で、教育について話してたのね。

NHK ズームバック×オチアイ (4)「教育の半歩先」
Image: NHK

ズームバック×オチアイ (4)「教育の半歩先」 – GYAO!

松田:で、その中で「落合さんにとって豊かさとはなんですか?」って話が出てきて、彼はすき家の牛丼は超豊かだって言うのね

中垣:はいはい。

牛丼マスター中垣

c 吉野家の特盛は超幸せ

松田:「僕にとってはすき家の牛丼食ってるときってかなり豊かなんですけど、牛丼食ってるときに豊かだとは思えない人達はね、結構ね、いるんですよ」「大衆消費財としてギリギリを削って、氷河期の人類が食ったらもう涙流すくらい美味いものを作ってるわけじゃないですか。つまり、コストパフォーマンスっていう面ではマンモスの比じゃないですよね」って。

中垣:笑

松田:まあその言い方で視聴者に届くかは微妙やなと思って番組を観ててんけど笑 「結局のところ、何かが豊かだと思えていればその両者の間に差はない」って言って締めてた。

次郎:はいはい。

松田:で、その後に「あれが好きだ」って言って『夜と霧』のことを話し出してんな。これは結構すごいなと思うねんけど…

その瞬発力で一冊の本の中の特定のエピソードをひけるのがすごいし、それを「好き」って言うのがほんとえらい

ヴィクトール・E・フランクル(2002)『夜と霧 新版』みすず書房
Image: Amzon.co.jp

ヴィクトール・E・フランクル(2002)『夜と霧 新版』みすず書房

夜と霧 (文学) – Wikipedia

次郎:あー。

松田:そこで『夜と霧』の中の、囚人が夕焼けに感動するシーンを挙げててんけど、でも豊かさって確かにそういうことだよなって思ったわけ。なので、『夜と霧』について自分もちゃんと他人に説明できるようになろうと思って、ちゃんと説明できるようになってきたので今日ここで披露します

次郎:はいはい。

中垣:おっkー

松田:『夜と霧』はヴィクトール・フランクルっていう精神科医が書いた本で、彼は第二次世界大戦中にユダヤ人として強制収容所に入れられてたのね。その中で彼は、人間が何に絶望して何に希望を見出すのかをつぶさに目撃して、それを体験談として本に出してんな

ヴィクトール・フランクル – Wikipedia

中垣:ノンフィクション?

松田:そうそう。彼の経験したことが描かれてる。で、戦後に出版されて、そこからは世界中でロングセラーになってんな。

中垣:はいはい。

松田:アメリカでは「私の人生に最も影響を与えた本」みたいなんにランクインしてるし、日本でも累計で100万部以上売れてる

1. The Bible.
2. “Atlas Shrugged,” by Ayn Rand.
3. “The Road Less Traveled,” by M. Scott Peck.
4. “To Kill a Mockingbird,” by Harper Lee.
5. “The Lord of the Rings,” by J. R. R. Tolkien.
6. “Gone With the Wind,” by Margaret Mitchell.
7. “How to Win Friends and Influence People,” by Dale Carnegie.
8. The Book of Mormon.
9. (tied, in alphabetical order by title) “The Feminine Mystique,” by Betty Friedan.
“A Gift From the Sea,” by Anne Morrow Lindbergh.
“Man’s Search for Meaning,” by Viktor Frankl.
“Passages,” by Gail Sheehy.
“When Bad Things Happen to Good People,” by Harold S. Kushner. Book Recall

Source: The New York Times

うーん、アメリカ

Book Notes – The New York Times

次郎:へー。

松田:結構すごいことやんね。100万部も誰が買ってるねんっていう。

全国のカウンセリングルーム

松田:で、なんでそんなに人気になったかって、単に彼が収容所の中で経験したことだけじゃなく、そこから導かれた「人生はどんな状況でも意味がある」っていう、人生に対するかなりポジティブな認識を描いているということが理由やと思うねんな

中垣:うんうん。

松田:ただ単に収容所生活の記録というのではなく、ある種の人生論としてかなり一般性の高い内容になってるわけやね

次郎:うんうん。

松田:で、その本の中に夕焼けに感動するシーンがあるわけね。収容所なんて絶望も絶望の環境で、明日ガス室に送られるかもしれない生活なわけ。でも彼は言うねん、生き残った人はどういう人だったかって、繊細で、感受性の強い人だったと

もともと精神的な生活をいとなんでいた感受性の強い人びとが、その感じやすさとはうらはらに、収容所生活と言う困難な外的状況に苦しみながらも、精神にそれほどダメージを受けないことがままあったのだ。そうした人びとには、おぞましい世界から遠ざかり、精神の自由の国、豊かな内面へと立ちもどる道が開けていた。繊細な被収容者のほうが、粗野な人びとよりも収容所生活によく耐えたという逆説は、ここからしか説明できない。

Source: ヴィクトール・E・フランクル(2002)『夜と霧 新版』みすず書房

次郎:あー。

松田:とにかく、一日一日を…つまり過去の因果から切断された今、あるいは未来の結果をかえりみない今、これにフォーカスして一日一日を送ることが大事だったと

次郎:うんうん。

松田:そういう生活の最も象徴的なシーンとして、護送車の鉄格子の隙間からの夕焼けに魅了される場面とか、一日の労働に疲れて土の床にへたり込んでいるところに仲間が飛び込んできて、太陽が沈んでいく様子を見せるためだけに外に出るよう急き立てる場面があるのね

その場にいたら殴ってしまうかもしれない

松田:落合陽一はそれを豊かさを考える上でのおすすめの本として挙げてて、それはもうえらいというか、あらゆるインプットが自身の価値基準に沿って体系化されているからこそ、それだけの瞬発力でそこまでピンポイントの例を出せるんだなと思った次第です、と。

次郎:なるほど。

松田:落合陽一の言う豊かさに端を発する『夜と霧』解説については大体そんなところで、そこから得られる主題というのは、人生の意味というのはまさに今ここにあって、今ここから離れたどこかに与えられるものではなく、この瞬間に主体的に見出すものですねってところかな。

で、何が言いたいかというと、生きる意味は生得的には与えられないと。ただこれは別に、人生に対する虚無主義を肯定するような話ではなくて、生得的には与えられないからこそ主体的に意味を見出すことが大事なんじゃない?って話。

Source: commmon

c 人生の意味ってなんなん

次郎:うんうん。

松田:あとはNHKの「100分 de 名著」でも『夜と霧』が扱われたことがあって、その解説も読んでんけど結構いいことが書いてあって…

私たちは、自由で自己実現が約束されている環境こそが幸せだと思っている。しかし災害や病気などに見舞われた時、その希望は潰える。収容所はその最悪のケースだ。しかしそれでも、幸せはまだ近くにあるのではないかとフランクルは考えた。人間は欲望だけではなく、家族愛や仕事への献身など、様々な使命感を持って生きている。どんな状況でも、今を大事にして自分の本分を尽くし、人の役にたつこと。そこに生きがいを見いだすことが大事なのではないかとフランクルは考えた。

Source: NHK

フランクル『夜と霧』 100分 de 名著 – NHK

松田:「うーん、ほんまにそうか…?」とかちょっと思ってんけど、確かになと思うところもあって。前に中垣が上司の話をしてたとき、明日病気になったらどうすんの?って言ってたやん。

c 人生の蓋然性

中垣:うん…うんうん。言ってたね。

松田:フランクルの考えるのも要はそういうことで、自由で自己実現の可能性のあることをもって人生の意味、つまりは豊かさだとすると、収容所にぶち込まれた時点で人生終わりやし、何かの災害とか事故みたいな不可抗力によって自分の人生が大きく損なわれることがあった場合、人生を肯定できなくなるわけやん

ここで必要なのは生命の意味についての問いの観点変更なのである。すなわち人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。

Source: V・E・フランクル(1985)『夜と霧』みすず書房

V・E・フランクル(1985)『夜と霧』みすず書房

次郎:うん。

松田:そう考えると、まあ確かになと思ったわけ。

中垣:うんうん。

松田:そういう話なんかは知らんけど、東日本大震災の後、被災地で『夜と霧』の売り上げが伸びてたらしいで

次郎:あー、はいはい。なるほどね。

中垣:そうなんや。

松田:ほんで…ここから先、なかなかスピった話に傾くから不用意に主張するのは嫌なんだけど、とは言えこういう、前後から切断された今にこそ人生の意味があるという考え方は、結構一般的というか、彼のみが言ってることではないなって思ったのね。

中垣:うんうん。

松田:そこでおれが思い出したのは鈴木大拙の『禅』やねん。あれはそもそも英語で書かれた本やねんけど、その中の人生について述べている部分で、彼は「life is after all a form of affirmation, however negatively it might be conceived by pessimists」って言ってるのね。

Daisetz T. Suzuki(2019)『Zen and Japanese Culture』Princeton Univ Pr
Image: Amazon.co.jp

英語でこその味わいってのもあるんですよ。これは本当にいい本

Daisetz T. Suzuki(2019)『Zen and Japanese Culture』Princeton Univ Pr

次郎:うんうん。

松田:だってさ、affirm やで? なんと言うか、まさにこう…「Just 是」って感じなわけ。

次郎:なるほど。

中垣:野矢茂樹の本にあった「好き」も結構近いかもね。

松田:あー、確かに。前に紹介した本やねんけど、その中で…

好きになることは、他者から与えられた規範性や価値に受動的に従うのではなく、自分で価値を定めることだし、自分の世界を作り、世界に自分だけのくさびを打ち込むことだ。好きになる対象にはこの世のほとんどすべてのことが含まれる。

Source: 野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社

野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社

松田:っていうのがあるねんな。これも結構、収容所で夕焼けを見て感動することにも通ずる、主体的に世界に焦点を見出す感じがあるよな

わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。では、この人間とはなにものか。人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ

Source: ヴィクトール・E・フランクル(2002)『夜と霧 新版』みすず書房

次郎:あー、そういうことか。

松田:まあまあ、『夜と霧』はおおよそそういう内容で、その教訓はかなり一般性が高く、彼に限らず同じようなことを言っている人もいるよというお話でした。

次郎:それは再定義なのか?というのは聞いててちょっと思ったかな。要は「今ここ」に豊かさを見出せるようになるには、たぶん収容所にいるよりは今みたいな安心安全な状況にいる方がいいし、自由とか自己実現みたいなのはリソースが前提というか、その上に立った上でこそ「今ここ」に集中できる環境が整って豊かになるわけじゃん。

松田:はいはい。

次郎:だからたぶん…なんだろうね、「今ここ」っていうのはどうしても個人レベルに委ねられているから、政策レベルで目指すべきなのは、できるだけ日々の生活に必要な費用を気にせずに今ここに取り組めるとか、たとえ転落しても生活保護があるとか、そういうことなのかなと思ったな。

国目線

松田:なるほどね。

次郎:一方で、みんなが「今ここ」に集中するための資源は社会的に与えられているはずなのに、なんかよく分かんないけど、「今ここ」に集中すべき個人が逆にその資源そのものにフォーカスしちゃってる…みたいなすれ違いが起こってるのかなとも思うな。

2020年9月18日
Aux Bacchanales 紀尾井町


ヴィクトール・フランクル
Image: VIKTOR FRANKL INSTITUT

オーストリアの精神科医、ヴィクトール・フランクル。第二次世界大戦中にナチスにより強制収容所に収容され、そこでの経験をもとに『夜と霧』を発表した。戦後は精力的に活動し、多数の著書はその多くが日本語にも翻訳されている。