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心の問題の顕在化の過程

3 years

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匿名
臨床心理士・公認心理士

普段からcommmonに参加している🐹のお母さん。大学の教員として、またカウンセラーとして活躍なさっています。
どういうお仕事なのか? どうして今の仕事を選んだのか? おすすめの本ってありますか?…悩むことについてはプロの我々が、本職の方にうかがいました。

🐹:これは長年の疑問なんだけど、「心の病気」って言うけどさ、それを病気だと判断する人がいて初めて病気になるというか…

松田:はいはい。

🐹:心の中で何かがごちゃごちゃとしていて、それを解きほぐさなければいけないことって確かにあると思うんだけど、そこの判断はどうしているのかなって

🐘:その基準は本人が困っているか、その周りの人が困っているか

🐹:うーん…

🐘:同じような状況にあって、一方の人は全然困っていなくてもう片方の人は困っているって場合、困っている人はクライエントになるし、困っていない方はならない

🐹:あー、そういうもんなの?

🐘:そうそう、そういうもの。ただ逆に…まあこんなこと言うと失礼なんだけど、「それくらい自分で解決できないの?」みたいな内容で、カウンセラーにすごく高いお金を払う方もいらっしゃって…

松田:はいはい笑

🐘:それはその人の判断なんだけど、あまりにも「これはカウンセラーのところに来るような問題じゃないでしょ」って場合、私はやったことはないですけど、もう亡くなっている土居健郎さんっていう精神科医の方は なんとかかんとか

土居健郎(2007)『「甘え」の構造』弘文堂
Image: Amazon.co.jp

土居健郎(2007)『「甘え」の構造』弘文堂

土居健郎 – Wikipedia

松田:笑

🐹:おおお…

🐘:そういうのもあるみたいですね。

松田それはだいぶ大胆なことですよね?

🐘:だいぶ大胆なことだとは思いますよ。でもその後の経過を見ると、やっぱりそうやって頑張らせてよかったってこともあるみたいですね

🐹:へー。

松田:さっきおっしゃっていた、本人かその周囲が困っていたらそれは問題だという、このことについて疑問があるんですけれども…

🐘:はいはい。

松田:例えば本人が困っていたら、その人は自発的にカウンセラーのもとにやって来てクライエントになるし、その周りが困っていてもそれによって問題が顕在化して、やはり介入するきっかけはできると。

🐘:はい。

松田:で、もし本人も困っていないしその周りも困っていないのであれば、それは…まあ心理には関係無いというのか…

🐘:笑 まあ私達は関与しない、ということですね

松田:そうですよね、うんうん。

🐘:でもそういうのって結構あると思いますけどね。

松田:いやぁ、そうですよね。じゃあ例えば、ある一人とその周囲の人との関係が非常に特殊な状態であったとして、でも本人もその周囲の人も困っているとして声を上げることがない…この場合、介入するきっかけはないと思うんですけれど、その事態をどう判断するかは別ですよね?

🐘:うーん、そうですね…

松田:つまり、もし介入するきっかけさえあればこうした方がいい、こうなった方がいいという判断は行い得るというか、介入は難しいけれども問題を抱えている、そういう状況はカウンセラーにとっての主題にはなり得ますよね?

個別具体的なケースに個別具体的にのみ向き合っているのか、ある程度一般化された社会課題にも理論的に向き合い得るのか、直接だけでなく間接的に介入することもあるのか、その辺りが気になりました

🐘:そうですね。その典型的な例は虐待だと思うんですけど、子供は困っていてもそのことを言語化できなかったり、あとは「分からない」って言うこともありますよね。

松田:はいはい。

🐘:で、親は当然否認していると。でも側から見て「ちょっと子供がしんどそうだな…」と思ったら、例えば学校の先生が児童相談所に通報するとか…まあこれは心理ではないですけど、そういうことはあります。

🐘:でも難しいところなんですよね。例えば時々あるんですけど、家族の中で変なバランスみたいなものがあったときに、その親戚が「私の姪の家族がちょっとおかしいんだけど、なんとかしてください」って言って来られることもあるんですけど、それは私達には引き受けられないんですよね

🐹:そうなんだ。

松田:うーん、なるほど。

🐘:もちろん相談に来られた本人のカウンセリングはできるんですよ。ご本人がその親戚の家族に対してどのように悩んでるとか、あるいはむかついてるとか、そういう落ち着かない気持ちをなんとかしたくて…っていうお話を聞くことはできるんだけど、それこそ虐待みたいな事実があれば別ですけど、その家族の中に立ち入ることは基本的にはできないですよね。

松田:それがもし…例えば夫婦間でDVがあって、でもなんだかんだで共依存の関係にあるみたいな状況のとき、これはもうどうしようもないということですよね。

🐘:そうですね。

松田:うんうん、なるほど。あとですね、問題が病気として顕在化するにあたってなんですけれど、いずれにせよ本人が困っていたら、それをなんと呼ぼうがとにかく対処しなければいけないというのは前提としてあるじゃないですか。

🐘:ええ。

松田:で…こういう言い方が適切なのかという話はありますが、心の中で何かしら決着をつけたいモヤモヤがある場合の一般的な心情として、診断至上主義じゃないですけれど…つまり、診断が下りたということを心の支えにする、みたいなものがあるような気がするんです。

🐘:はいはい。

松田「発達障害と診断されました」系の本とか、あるいは最近流行っているHSPとかいう言葉があるじゃないですか

🐘:あー、はいはい。

松田:もちろんラベリング以前から何かしらのモヤモヤはあったわけですけれども、そこでああいうラベリングに容易に飛びつくことによって、自身の課題の生々しさや具体性が損なわれて、それに真正面から取り組むことができなくなるんじゃないかというふうに思うことがあるんですね。それについてはいかがでしょう?

本質つまりラベリング、これに先立つところの実存を自身の素手で掴むことなくしては、本当の生きる意味を知ることはできないのです…みたいなことを鈴木大拙が言っていました

鈴木大拙(1987)『禅』ちくま文庫
Image: Amazon.co.jp

鈴木大拙(1987)『禅』ちくま文庫

🐘:それは必ずしもそうとも限らなくて…あとその前に、私達心理は診断はしないんですよ

松田:あ、そうですよね。すみません。

そこの境界がザルだと怒られる、そういう回です

🐘:よくあるのは、子供が問題を起こすのは自分の育て方が悪いからだと周囲から言われたり自分で思っていたりする場合に、ラベリングをもらうことで「あ、これは発達障害だったんだ。だからこんなに散らかすんだ」って思えて、それでほっとする、みたいな効果がある場合もありますよね。

松田:あー、なるほど。

🐘:ただ今おっしゃったみたいに、生々しさがなくなっちゃうというか、本当は向き合うべき問題から逃げちゃう、みたいなこともあるとは思いますね。

松田:うんうん、なるほどですね。

🐘:鬱とかっていうのはあくまで医学的な診断で、実際にはどこか人間関係でゴタゴタしていて、そこをなんとかしたいのにできなくて苦しんでいるのを、鬱って名前がついてそれでおしまいってなっちゃうと、問題解決がストップしちゃうってことはありますかね。

松田:なるほど。先ほど、子供が散らかすのを悩んでいるところに発達障害の診断がおりると「なるほどそういうことか」と思える、つまりそこをゼロポイントにして物事を考えられるようになるとおっしゃっていましたけれど、そういう…つまりラベリングによって積極的に次の一歩が踏み出せるようになる例っていうのは、これは結構あるものなんですか?

🐘:そうですね。ラベリングって言ってもただラベルがつくだけじゃなくて、それに加えて対処法が見つかるというのもありますから

松田:確かに、その名前のもとで情報が体系化されていますしね。

名前が分かって初めて、こういう本を手に取れるのです

小野次朗・上野一彦・藤田継道編(2010)『よくわかる発達障害 - LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群』ミネルヴァ書房
Image: Amazon.co.jp

小野次朗・上野一彦・藤田継道編(2010)『よくわかる発達障害 – LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群』ミネルヴァ書房

🐘:そうそう。具体的には、今までは学校の先生も苦労してたけど、発達障害の専門のところに行ってみましょうって話になってそこで適切なケアを受けたり、学校の先生や親御さんが関わり方についてのヒントをもらったり、それを通して子供の適応が良くなるっていうこともあって

松田:うんうん。

🐘:ただラベルを貼るだけじゃなくて、それに応じた対応をするってことが目的ですからね。

松田:そこから始めて道筋を立てるということから切断されたラベリングというものには…

🐘:意味が無いし、あと私が嫌だなと思ってるのは、本当はそこまでじゃないのに鬱とかっていうラベリングすることで、投薬っていう不適切な治療に繋がっちゃうっていうこともあって

松田:はいはい。

🐘:ここからは医者の悪口なんですけど…

松田:笑

🐘:お医者さんは誤診をすることも結構あるわけですよ。で、鬱の人に統合失調症の薬を処方すると本当におかしくなっちゃったりするんですよね。そうやっておかしくされた患者がたくさんいるっていうのを、私はある病院について聞いたことがあって。

あっ…

松田:へー。

🐘:それはまあ極端な例ですけど、ばかな診断をしてばかな治療をするみたいに…それこそさっき、医者は心理に変なことをされたくないと思ってると言いましたけど、医者だって変なことをすることはあるんですよ

c 臨床心理士と公認心理士

松田:はいはい笑

🐘:そういう話はありますね。

2020年9月25日
池袋 中国茶館

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