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学ぶ 生きづらさ

臨床心理における個別性と普遍性

3 years

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匿名
臨床心理士・公認心理士

普段からcommmonに参加している🐹のお母さん。大学の教員として、またカウンセラーとして活躍なさっています。
どういうお仕事なのか? どうして今の仕事を選んだのか? おすすめの本ってありますか?…悩むことについてはプロの我々が、本職の方にうかがいました。

松田:ずっと以前から気になっていたことについておうかがいしたいんですけど、前に河合隼雄の本を読んだときに、カウンセリングにはいろんな原則があって、例えばクライエントから物を受け取ってはいけないということが述べられていたんですね

河合俊雄編(2018)『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』岩波現代文庫
Image: Amazon.co.jp

河合俊雄編(2018)『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』岩波現代文庫

🐘:ああ、そうですね。

松田:なんだけれども、一方で「ここぞ」という勝負のタイミングでは、その原則を踏み越えることが必要な場合もあると

🐘:ああ、そうですね。

松田:それに関して「…いやどういうこと?」じゃないですけれど、どういった場合に踏み越えるという判断をしているのかというか、やや釈然としないなと思っていたんですけど…

🐘:まずはですね、やはり踏み越えることを原則にしてはいけないと思うんですよ。河合さんも書いていたかもしれませんけど。

松田:はいはい。

🐘:なんて言うのかな…でもそこでギリギリの迷いがあって、結局人間ってコンピューターみたいに考えるものではないですから、いざというときは賭けみたいな感じで、これはもうやるしかないというか…うーん、なんでしょうね

🐘:確かにそういうのってあるんですけど、でも私がカウンセリングしてきた中でも、そんなにたくさんあることではないですね。

松田:あー、そうなんですね。

🐘:迷いに迷ってやってみて…やっぱりよくなかった、ということもあるんですよ。賭けには敗れることもあるわけで。だから、そんなにかっこいいものではないのかな、という感じですね。

松田:うーん、なるほど。「えいや」で賭けに出て、敗れることもあればうまくいくこともあると。

🐘:ええ。

松田それって事例研究の場ではどういった扱いになるんですか? 一般化し得るものとして、つまり「これはこういうふうに説明できますよね」という扱い方になるのか、あるいはどこまでいっても個別具体的なもの、つまり「こういうことがありましたけれども、結局は賭けであって理論としては一般化できない」という扱い方になるんでしょうか?

🐘:それはやっぱり後者ですね。それこそ河合さんが書いていますけれども、事例研究っていうのはあくまでも個別性が大事で、その個別性が深くなることで普遍性に変わるって言うんですね。私は今の🐹くらいの歳でそれを読んで、なるほどと思って感動した覚えがあるんですけれども…

類似の記載が下記の本にあります

河合隼雄(2009)『心理療法序説』岩波現代文庫
Image: Amazon.co.jp

河合隼雄(2009)『心理療法序説』岩波現代文庫

松田:あー、はいはい。なるほどなるほど。

🐘:だから事例研究って、科学的な心理学を重んじる人達からすると「そのときだけの話だろう」って言われるんですけど、臨床的な心理ってどこまでいっても証明できるものではないんですよ。

松田:ええ。

🐘:科学においては再現可能性が重要になるわけですけれども、カウンセリングで起こることっていうのは、カウンセラーとクライエントっていう二人の個人がいて、それぞれが歴史を持っていて…っていうふうに、その人だからというだけでもなく、その人のそのときだからこそ二人の関係の中で起こることなので、そんなもの再現できるはずないじゃないですか。

リアリティ中のリアリティ

松田:ええ、そうですよね。

🐘:だからカウンセリングで起こることは決して科学的には証明できないし、この賭けでうまくいったからと言って、例え同じカウンセラーであっても次また同じ賭けをしても大丈夫かというと、それは違うんですよね。

松田:うーん、なるほど。

🐘:だからそこは、臨床的な人間関係だけじゃなく例えば夫婦関係とかでも、あくまで一般化できないことだとは思うんです

松田:はいはい。

🐘:ただ河合さんが言うには、たとえ個別的なものであってもその物語がいかに深くちゃんと語られるかっていうのが大事で、ちゃんと語られた…まあ何が「ちゃんと」なのかという話はあるんですけど、そういう物語であれば聞く人も感動すると

松田:うんうん。

🐘:再現不可能な、一般化できない話なんだけど、でもなぜか聞いて感動すると。その感動が、その人が次にカウンセリングするときの何かになるって言うんですよね。ここで言う普遍性っていうのはそういう普遍性なんです。

松田:うーん、なるほど。なるほど。

すごく納得できましたし、科学と対立するのもよく分かりました

🐘:ある意味では、素晴らしい映画を観たときの感動であるとか、素晴らしい音楽を聴いたときの感動にも通じるものかなとは思うんですけどね。それをもって「カウンセリングはアートだ」って言う人もいますね。

松田:はいはい。なるほど。

2020年9月25日
池袋 中国茶館

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