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学ぶ 思索

三島由紀夫入門

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中垣:この前テレビで三島由紀夫が没後50年って言っててんな

松田:はいはい。一昨日にあの全共闘の映画? あれが新文芸坐でやってたみたいやね。

映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』公式サイト

中垣:あー、それおれ知らんわ。おれはNHKの特番を観てんけど、せっかく太郎が来てるしと思って。

太郎:まあおれが中高時代にもっとも影響を受けたのは三島だね。

中垣:おれは何も読んだことがないから、太郎にとって三島の何が刺さったのかを改めて聞きたくて

太郎:おれは三島を読むまでシンプルに読書習慣がなかった中で、「世の中ってこうなってるよな」って思ってた世界の輪郭を、日本語でしっかりと描いてくれてる感じがあったというか。

中垣:はいはい。

太郎:すごく細かいところで言うと、ある小説では、中学校一年生か二年生の男の子の「おれは世界についてなんでも知ってるぞ」っていう感じで臨む態度、それをすごく上手く描いていたりね。

中垣:はあはあ。

太郎:中高生ながらに感じていた、「こういう人間ってこういうときこうするよな」とか「人間ってこういう状況でこう考えがちだよな」みたいなことを、しっかりとした言葉でかつレトリックを織り交ぜながら言ってて、こんな人いるんだっていう純粋な感動から入ったって感じかな。

中垣:はいはい。言葉っていうと…作品が好きなん? それとも三島本人が好きなん?

太郎:彼自身の生き様が素晴らしくて…というのはあんまりなくて、基本的には作品だね。世界の切り取り方というか、おれがぼんやりと見ていた世界をこの人はこんなに鮮明に見てるんだと思って

中垣:はいはい、なるほどね。

松田:おれもね、太郎に言われてからちらっと文章を読んでんけど、確かになんか、世界に対する解像度がすごい高い上にそれを過不足なく言葉にのせるから…言うたらニューオータニのサツキのスーパーモンブランみたいな感じやね。めっちゃ濃くて、要素全てが一番いいやつやねん。

ニューオータニ SATSUKI スーパーモンブラン
Image: The New Otani

あらゆるパラメーターを全振りしたモンブラン、3,300円

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中垣:あー、なるほどね笑

太郎:そうそう。だから「うっ…」ってなる人がいるのもよく分かる

中垣:なるほどね。

太郎:でもその濃いのがいいって人にとっては、それが気持ちいいんだと思うし。

中垣:なんかさ、その番組では彼本人は結構コンプレックスが…って言っててんけど

祖母の強い希望で三島は初等科から高等科まで学習院に通った。多感な時期を過ごしたここでの時間が、三島の内面に劣等感を植え付けることになったと佐藤教授は分析する。

「乃木希典(陸軍大将/日露戦争を指揮)が院長をやっていたことの影響が学内に長く残っていたということを、三島自身も後に書いています。つまり『質実剛健』なんですね。戦前の学習院は皇族や華族が通い、平民でも高級軍人や高級官吏の息子たちが通ったわけですが、華美な学校ではなく『質実剛健』という気風のため、体の弱かった三島はコンプレックスを抱かざるを得ないところがあったはずです」

Source: NHK

三島由紀夫没後50年 研究者が語る新たな実像 – NHK

太郎:うん、彼はコンプレックスの塊だね。

中垣:筋トレをするのもそれだとか言うやん? コンプレックスを認めた上でそれが原動力になるのはすごいと思う一方で、自分はちょっと…と思うところもあるのね。

太郎:うんうん、分かるよ。彼は結構特殊な環境で育ってて、おばあちゃんに囲われて俳句を読まされたり、演劇を無理矢理観に行かされたりって感じだったみたいだし、あとは病弱だったっていうのもあって…

松田:なんか言うてたよな、恋を知る前からあらゆる恋を描写できたって

c インテレクチュアルとフィジカルの乖離

太郎:あー、そうそう。

松田:そんなん地獄過ぎるで。

太郎:笑 で、成長するにつれ実際の人生の経験が言葉のレベルに追いついてきてそれに当惑する、みたいな感じだったらしい。それはいろんなエッセイで言ってるね。

中垣:そのNHKの番組で彼の書いた文章の一説が引用されててんけど、昔は病弱で神輿を担げなかったんだけど、30歳かなんかになって担ぐ機会があったと

太郎:うんうん。

中垣:で、これまでは神輿を担いでやいやい言ってる連中の気持ちが全く分からなかったんだけど、担いだときに「あ、これなんだ」というか、まあシンプルに楽しかったっていうことを綺麗に言ってて。

太郎:うんうん。

中垣:「あっ…」みたいな。要は神輿担いでる人ってクラブに行ってる人やん、それを冷めた気持ちで見てたけど行ったら楽しかったって話やろ

松田:そうやな笑

彼ほどの言語能力もパリピほどの素直さもないので、一生茶をしばきながら偉そうにのたまうことしかできません

c 視野狭窄インテリピープル

中垣:「そうかあ…」とか思ってさ。

太郎:青白い文学少年だったときの自分は運動部のやつらを馬鹿にしてたけど、結局肉体を通じてしか見られない世界があるっていうのがボクシングとか剣道を通じて分かってきて、おれは間違った感じで育ってきたのかなと思うにいたったということを、今の説明よりはるかに綺麗な表現で言っているね。

松田:笑 そこまで緻密かつ自在に言葉を扱えてなおそうなんだから…

中垣:いや、そうやで。

太郎:そうねぇ。とっかかりはどれがいいだろう、軽く読める小説があんまないんだよな。

中垣:それこそ『スポーツ論集』やったっけ、あれは読んでみようかなと思ったけど…

佐藤秀明編(2019)『三島由紀夫スポーツ論集』岩波文庫
Image: Amazon.co.jp

佐藤秀明編(2019)『三島由紀夫スポーツ論集』岩波文庫

太郎:ああ、あれもまあいいと思う。

なつき:エッセイの方がいいの? 小説の方がいいの?

太郎:うーん、どうだろう。それは読む人の読書遍歴にもよるかな、小説を読むのに慣れていれば小説でいいと思うんだけど。

なつき:なるほどね。

太郎一番手っ取り早くエッセンスを吸えるのは『午後の曳航』かな。簡単に言うと12歳とかの少年が主人公で、自分にとって憧れの対象だった船乗り、世間から隔絶して海と対峙しているように思っていた人間と母親が恋をして、憧れとして見ていた対象がどんどん俗っぽく見えてきて「こいつなんなん」ってなるっていう。

三島由紀夫(2020)『午後の曳航』新潮文庫
Image: Amazon.co.jp

三島由紀夫(2020)『午後の曳航』新潮文庫

中垣テーマの設定が上手過ぎるねんな笑

松田:笑

太郎:で、最後に復讐を果たすっていうストーリー。まあストーリー自体はどうでもいいんだけどね、おもろいよ。

なつき:なんか『金閣寺』を読んだんだけど…あれは自分のアイデンティティーを他者との関係性の中にしか見出せないっていうことを理解しつつもそれが嫌で、みたいな内容なの?

三島由紀夫(2020)『金閣寺』新潮文庫
Image: Amazon.co.jp

三島由紀夫(2020)『金閣寺』新潮文庫

太郎『金閣寺』…はおれもよく分かってないかもな。あれはおれの中で明確に位置付けられていないかもしれない。

なつき:知り合いのおっちゃんには「こんなの学生が読む本だよ」って言われたんだけど笑

太郎:まあそれはそれでいいけど…でも学生が読む本ってねぇ?

なつき:「生き方に悩むのは学生までだよ」って、そういうテンションだった。

太郎:うわー、だるいな。

中垣そんなこと言ってるからお前らは…って感じやな。

太郎:そんなの死んでるのと一緒じゃん。

松田これに関しては秒で足並み揃うな笑

太郎:笑 でもそう思ってるやつっているよね、「人生に迷う時代は終わった」とか。なんなん?って感じ。

なつき:あー。

中垣:「それが結婚」とか言いそうになった笑

c 結婚は自由と背反なのか(たぶんそんなことはない)

太郎:まあ結婚したとて、必ずしもその精神は死なないんじゃないかとも思うけどね。

松田:いずれにしてもそれと背反な形で結婚したいとは思わないよね。

孤独は最高のラグジュアリー、理由のない単身赴任が理想の結婚生活

太郎:うん、おれは結婚しても commmon は続けられると信じているよ。

中垣:でもむしろ本当にそういう悩みが無いのかは気になるというか、勝手にそういうことにしてしまったとて、それで悩みが解決するわけでもなくて…

松田:でもずっとそういうことにしてると、いつの間にか忘れちゃうんじゃない?

たぶん悪いことするやつって、 最初ちょびっと悪いことして、ううって思って、でも慣れて、もうちょっと悪いことして、慣れて、最後にはめっちゃ悪いことするねんけど、「まあでもこれはこれで自分なりに正義やし」とか思うようになるわけやん。

Source: commmon

c みんなどんな人生にしたいの?

中垣:そうなんかな。ただ「悩むのは学生のうち」とか言ってるやつは、まだ悩んでるよな

太郎:笑

松田:確かに笑 主題としてあげた時点で負けてるよな。

中垣:ね。

なつき:ただ、俯瞰的な視点を持たないっていうのは羨ましくもあるけどね。モヤモヤしたときに「なんかよく分からないけど」に留めておけるというか。俯瞰視点を持ってる自分がいるって気付いた時点で、そこから始めるしかないじゃん?

中垣:まあねぇ。

松田:とは言えさ、最初から主客分離の知的な営為が無いのであれば、それはやっぱり犬畜生の生と同じなわけやし。知性を乗りこなせないからってそれを捨てるのも違くない?

c Let’s 禅

2020年11月27日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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三島由紀夫 東大全共闘
HeaderImage: GAGA

1969年5月13日に東大駒場キャンパスの900番教室で行われた、三島由紀夫と東大全共闘との討論会。TBS が保管していた映像をもとに『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』として映画化され、2020年3月20日に公開された。

映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』公式サイト