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カノコちゃんに叱られる!

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かのこ:私、今日はこれの話をしに来たんですよ

上野千鶴子(2020)『近代家族の成立と終焉 新版』岩波現代文庫
Image: Amazon.co.jp

c 上野千鶴子(2020)『近代家族の成立と終焉 新版』岩波現代文庫

松田:はいはい。これはどういう本なん?

かのこ:これは上野千鶴子先生の代表的な論文を集めたやつで…

みなとまずそれ誰?

松田:逆に上野千鶴子知らんとかある?

みなと:え、知らんよ…

かのこ:最近では、何年か前の東大の入学式の祝辞が話題になってたね。それで私はちょっと、commmon の結婚についての記事にイライラしてて…あれはなんなんだって。

c 結婚も実は悪くない説

松田:あー、はいはい。なんかすみませんホモソサークルで。

ちなみにサイト閲覧者の男女比は2:1です

ホモソーシャル – Wikipedia

かのこ:なんか…結果としてみんな「結婚良くね?」みたいな感じになっとったんが、私としてはもうなんなんこいつらって感じで

松田:はいはい。

かのこ:現代の教養を体現しようみたいなノリのくせにそこがそんな感じなのはどうなの?って。

言ってない

松田:はい。

かのこ:でも私は、なんで自分がモヤモヤしているのかについてうまく答えを出せなかったんですよね。で、その答えがこの本にあると。

松田:へー、じゃあ読もうかな。

かのこ:このうち…まあ『ファミリィ・アイデンティティのゆくえ』は微妙な論文なんやけど、例えば『夫婦別姓の罠』とかは結構分かりやすいかな

目次

Ⅰ 近代家族のゆらぎ
 一 ファミリィ・アイデンティティのゆくえ
 二 家族の臨界――ケアの分配公正をめぐって
 三 家族、積みすぎた方舟
 四 女性の変貌と家族

Ⅱ 近代と女性
 一 日本型近代家族の成立
  付論 「家父長制」の概念をめぐって
 二 家族の近代
 三 女性史と近代

Ⅲ 家庭学の展開
 一 「梅棹家庭学」の展開
 二 技術革新と家事労働

Ⅳ 高度成長と家族
 一 「母」の戦後史
  付論 戦後批評の正嫡 江藤淳
 二 「ポスト思秋期」の妻たち

Ⅴ 性差別の逆説
 一 夫婦別姓の罠
 二 生きられた経験としての老後
 三 「女縁」の可能性
 四 性差別の逆説――異文化適応と性差

参考文献
初版あとがき
自著解題
初出一覧
人名索引

Source: 岩波書店

近代家族の成立と終焉 新版 – 岩波書店

松田:細切れで読んでいける感じなんやね。

みなと:論文集なんだもんね。

かのこ:そうそう、あと上野千鶴子さんは全般的に読みやすいよ。「言ってみました」「殴りかけてみました」みたいな感じで。

みなと:ふーん。

かのこ:…それで私は何が言いたいかというと、結婚という制度をよく考えたときにさ、まず現代において結婚で階級上昇をするなんてほとんど無理で、だいたいみんな同じ学歴の相手と結婚して、だいたいは共働きになるわけやん

松田:はいはい。

日曜朝の広尾で言われても実感は湧かんけど

かのこ:それで専業主婦/主夫に対する控除って、どちらかの年収が103万円以下じゃないと受けられないわけ

松田:うんうん。

かのこ:だから結婚という制度のメリットは、夫婦のどちらかの年収が103万円以下のときにだけ生じるものなの。

みなと:なるほどね。

かのこ:それ以外のメリットって特になくて…だって子供は認知さえすればいいし、遺産は遺言で指示すればいいし。逆に夫婦は同性になるとか、めんどうな制度の方が多いわけ。

松田:はいはい。

かのこ:だから相手を専業主婦/主夫にしようと思わん限り、結婚という制度にメリットはないわけ。それを超えてなお結婚を良いっていうお前らは、法のもとに愛を誓わないと関係を持続できないんですか?って…

松田:いや、ちょっと待ってや笑 そういう話になるんであれば、あの文脈では別に結婚じゃなくてもええねん。

かのこ:あ、そうなん?

みなと:うん、そうだと思うよ笑

松田:あれはあくまで、異性とのパートナーシップを、一時の気分的なものを超えてある程度不可逆な形で結ぶということについての話であって…

自身が異性愛者であり、かつこれまでの話から、その場にいた全員が異性を性愛の対象とすると知っていたという前提のもとに「異性とのパートナーシップ」と表現しましたが、「でもそれだけでは、その場にいた人が同性を性愛の対象とする可能性は残っているよね」とか言われたらそれはそうだと思いますし、「そもそも他人と生涯にわたるパートナーシップを結ぶ上で性愛は必要条件ではないよね」とか言われたらそれもそんな気がしますすみません。

かのこ:それだったらさ、結婚の「婚」を「魂」にしてほしかった。

松田:なんやねんそれきっしょ。見たことも聞いたこともないねん。

みなと:笑

かのこ:いやいや…『あさきゆめみし』っていう源氏物語の漫画でも言ってましたよ。

松田:それもそれで知らんねん。

みなと:笑

大和和紀(2017)『源氏物語 あさきゆめみし 完全版 1』講談社
Image: Amazon.co.jp

大和和紀(2017)『源氏物語 あさきゆめみし 完全版 1』講談社

松田:だからあれは、別に結婚と呼んでもなんと呼んでもよかってんけど…まあ確かに、やや不正確な言葉の運用があったかもしれない。

みなと:あの文脈では、結婚について何かが言いたいかというよりは…永続的な関係性が保証されているような最も一般的な例として結婚って言ったんであって

かのこ:じゃあそれは明記しておくべきだよ、やっぱり。

松田:なるほどね。

なるほどね(だまれ)

かのこ:だってあの記事、あのまま区役所に行って婚姻届を出すぐらいのノリやったやん。

みなと:笑

松田:そんなことはないよ笑 関係の将来にわたっての蓋然性を高める手段として、今のところは結婚しかないけど、それに限らずそういう構造は悪くないっていう…

かのこ:うーん…でもなんか私はね、「あ、やっぱ国家の下で愛を保障してほしいんやな」って思ったわけ。

松田:…この応酬、たぶんやけどかのこの方がきしょいで。

かのこ:そんなことないよ笑

松田:うがった見方過ぎひん?

かのこ:だってさ…サレ妻って言葉知ってる? 不倫をされた妻って意味なんやけど。

松田:あー、はいはい。

かのこ:私そういう人のブログがめちゃ好きでよく読むんやけど、ああいうのってどれだけ夫がやばいやつでどれだけ泥沼になっても、最高で慰謝料300万円くらいしか取れないの。

松田:へー。

かのこ:それに弁護士費用とか探偵費用とかも含めると、よくて100万円くらいにしかならないの。

松田:うんうん。

かのこ:…で、そこまでして結婚という制度を選択するのはなぜ?って思っちゃう。別に結婚してなければさ、話し合いで解決すればいいし、そんなに泥沼になることもないというか。

松田:なるほど。

かのこ:まあそういうモヤモヤだったので、これで今回ここに来た目的は一応達成されましたありがとうございました。

まじでこれを言うためだけに来た

松田:笑 とりあえずその本は買って読むよ。それにサイトで紹介したら買う人も多そうやんね。

みなと:そうだね。てか…この人のこと知らないのって、そんなにやばいことなのか。

松田:うん。2019年の東大の入学式の祝辞で有名になった…というか、もちろんもっと手前の段階で有名ではあるねんけど、その祝辞についてはYahoo!ニュースにも載ったくらい、世間でも話題になってん。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。

Source: 東京大学

平成31年度東京大学学部入学式 祝辞 – 東京大学

上野千鶴子 – Wikipedia

上野千鶴子の東大「性差別」祝辞を元東大総長らはどう聞いたのか – デイリー新潮

松田:でもおれもそれ以上のことはあんま知らんな。上野千鶴子ってどんな人なん?

かのこ:フェミニズムを…始めた人かな? もちろんそういう人は何人かいるけど、上野さんがフロントに立って「こんな領域もあるよ」っていうのをとりあえず開拓してきました、みたいな

松田:それは日本において?

かのこ:そうそう。海外ではもっと他にいろんな人がいて、ファミリー・アイデンティティとかがなんとなく研究されていたのを、日本でも上野先生がやりましたみたいな感じ。

松田:へー。

シモーヌ・ド・ボーヴォワール – Wikipedia

シモーヌ・ヴェイユ – Wikipedia

かのこ:偉大な方だと思いますよ。

松田:そう言えばあれ、前に教えてもらったお砂糖の爆発みたいな本、あれおもしろかったわ。普通に解像度を上げてくれたというか、どういう物差しが存在して、それをどうあてがったらいいのかが分かったね

かのこ:そうそう、あれは結構ハウツー本よね。

北村紗衣(2019)『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』書肆侃侃房
Image: Amazon.co.jp

北村紗衣(2019)『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』書肆侃侃房

松田:「あ、そういう見方もあるんですね」みたいな、素直にそういう気持ちになったわ。

かのこしかもすぐに実践できるっていうね。あれはいいよ、爆売れする理由が分かるわ。

『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』が発売されました – Commentarius Saevus

松田:しかもさ、いわゆる効力感を削がれるタイプの本でもないし。ほんまにそのまま、今日からやれるねん。

かのこ:そうそう笑

松田:ただあれやな、解像度が上がったことによるめんどくささはあるっちゃある。

かのこ女性キャラクターの表象が気になっちゃう…みたいな笑

松田:せやねん笑 今までなんとも思ってなかったのに「これはちょっとなぁ…」とか思っちゃうわけ。めんどくせーって感じ。

かのこ:ちょっとノイズではあるよね。

松田:まあでも、物を知るってそういうことやんなとは思ってるよ。

かのこ:だから今日のこの本も、ぜひ読んでいただきたいです。単行本が文庫化されてまだすぐだから、古本が出回ってなくてちょっと高いけど。

2021年4月18日
Caffè & Trattoria Michelangelo 広尾

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チコちゃんに叱られる!
HeaderImage: NHK

2018年4月からNHK総合で放送されているバラエティ番組、『チコちゃんに叱られる!』。
好奇心旺盛でなんでも知っている5歳という設定のチコちゃんが、素朴かつ当たり前過ぎてかえって答えられないような疑問を投げ掛け、解答者が答えに詰まると「ボーっと生きてんじゃねーよ!」の決めぜりふと共に叱られる、クイズ形式のバラエティ番組。

チコちゃんに叱られる! – NHK