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ことば 思索

言語と現象の狭間の葛藤

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中垣:でもさ、それこそ松田のジュエリーみたいなものを究極的に愛でるには、もう無菌空間にパッと置いとくしかないわけやん

松田:うんうん。

c 部分と全体の罠

中垣:おれはね、それが嫌やねんな。なんて言うんやろうな…嫌というか、それが苦しいところやなと思うねん。逆に松田の言う、土臭いものを部屋に置きたくないっていうのにも通ずるなとは思うねんけど。

松田:はいはい。

ジャンヌレは汚い論者

かのこ:その無菌空間に置きたいっていうのって、作品をホワイトキューブに置くのか家の中に飾るのかの違いでもあるなと…思うのですが

1929年に開館したニューヨーク近代美術館(MoMA)が導入し、展示空間の代名詞として用いられる。かつては王侯貴族や宗教者が富や権力の象徴としてコレクションを邸宅内のギャラリーや宗教空間に展示したが、近代社会の到来とともにコレクター層が変化し、美術作品の社会的なあり方や作品そのものも変化した。公共性に支えられた近代の美術館制度が制度としての「美術」を存続させるためには中立性を担保する象徴的空間が必要であり、何もない空間ゆえの可変性と柔軟性を特徴とするのは、近代美術が鑑賞体験の純粋性を追及したゆえである。

Source: artscape

ホワイト・キューブ – artscape

中垣:うんうん。まあホワイトキューブ的な話っていくらでも言われてきてるけど、とは言え結局ホワイトキューブのままやんね。

かのこ:そう…やね。その流れは変わってないというか、まあ芸術祭とかをやってはいるけど、それはそれって感じ。

中垣:でもさ、作家が「この額縁の中が僕の作品です」って思ってるんなら、それはホワイトキューブに置くのがいいんやろうし…だからなんて言うんやろう、別にホワイトキューブ的な発想って自然ではあるよね

かのこ:うん。

中垣:それにそもそも難しいというか、じゃあホワイトキューブじゃないとして、額縁の中だけじゃない部分も含めてある種インスタレーション的に経験を提示したいんだって言い出しても、そんなん無理なわけやん。

みなと:笑

かのこ:そうやね。

松田:それ言い出したらね、「僕がこの心象風景を抱いていた幼少期のようにお腹を空かせて観てください」みたいな、そういう話になってくるよね。

中垣:要はたぶん、血中のなんとか濃度とか次第で美味しい味って変わってくるやん。だからそれに合わせて一番美味しく感じられる味を出すとか、あるいは事前に何かを食べさせることで別の何かを食べたいと思わせるとか…

松田:ドレスコードみたいな感じで、前日はこれしか食うたらあかんみたいなのを指定しとく。健康診断の前日みたいな感じ。

中垣:それいいな笑

松田:「こういう感じに身体を仕上げて来てください」みたいなね。あとは直前まで歩いてると血圧がどうこうなので、絶対に店の前まで車で来てくださいとか。

中垣:店を予約したら野菜が送られてくるとかね。事前にこれを食べて来てくださいって。

松田:あー、いいね。ほんで朝は便秘薬も飲むよう指示される。

中垣:本来はそこまでやってほしいよね。

Source: commmon

こんなん無理なのである

c 僕らが好きなのは一般化可能性の高い体験です

中垣:そうそう、でもそうなるとキリがなくなるわけやん。例外はいくらでも発生して、全てをコントロールなんてできるわけないんだから。で、それを逆手にとって「アンコントローラブルも含めて~」とか言い出したら、それはもう作品とかじゃなくて…地球でいいやんってなるやん

地球
Image: NASA

Earth From Orbit – NASA

かのこ:笑

みなと:ほんと、もう世界そのものでいいじゃんって話だよね。

中垣その世界に対してガイドラインなりグリッドなりを引いて、どこに関してどう考えているかっていうのを言ってほしいのに、アンコントローラブルも含めてって…それは地球やし既に知ってるしっていう。

みなと:笑

中垣:だから基本的にはさ、絵画なら額縁の中だし彫刻なら3Dのオブジェクトに収まってて、インスタレーション…はちょっとややこしいよね。あんまよく分からへん。

かのこ:そうね、難しいよね。まあなんか、作品をコントロールして単独で自立するものにして、それ以外の文脈が入ってくるのを排除したいという欲望はモダニズム的というか…

中垣:はいはい。

かのこ:50年代くらいのアメリカ?がそういうことをやってて、とは言えどこに展示するかとか誰が買うかみたいな情報まではコントロールできないから、そういうのはもうやめましょうみたいになったのかな。

中垣:でもなんでさ、個としての作品を評価しましょうみたいなのがモダニズムなん? だって…ゴッホの『ひまわり』だってあれは独立してるやん。「これを描く」って言って描いたものが客体として存在するんだから、それをそれとして評価しようって言うのはごく自然なことかな、とも思うねんけど。

かのこ:そやねそやね。ゴッホ…はちょっと分からんねんけど、いわゆる狭義の、絵画におけるモダニズムっていうと、本当に絵の具だけでやりましょうみたいなやつで…

中垣:あー、ジャクソン・ポロックね。

ジャクソン・ポロック MoMA
Image: MoMA

403 Action Painting I – MoMA

ジャクソン・ポロック – 美術手帖

かのこ:そうそう。『ひまわり』はひまわりっていう概念が夾雑物として入っちゃってて、絵画として自立してないからって言って…

松田:なんやねんそれ、あほちゃう。

かのこ:笑 だから「絵の具だけでやりましょう」「絵の具からのみ感じ取れるものを作品の価値にしましょう」っていうのが、いわゆる狭義のモダニズムなんだけど。

中垣:はいはい。とは言えそれもさ、キャンバスの上で作品として提示せなあかんわけやん。

かのこ:そうそう。それだけになるとすぐにどん詰まりですよね?っていう話もあって。

中垣:まあそうやね。だから絵画に限らずあらゆるモダニズムがそうやと思うねんけど、結構解像度低いというか、近代に触れ始めた人のお遊戯感というか…

人間の豊かさっていうのを無視してるよね

松田:笑

かのこ:ただの言葉遊びみたいなね。

中垣:当時とはいえ「よくそんなことかしこぶって言えてたな笑笑」って感じはするよ。

かのこ:そうだね笑

中垣メタボリズムとかもね、結構やばいこと言ってるもん。まあそれが逆に可愛らしいよねっていうのが今の目線な気はするけど。

これをいいって言う人、中央線臭くて嫌いです

黒川紀章の『中銀カプセルタワービル』築47年の部屋が生み出す“不動産”以外の価値 – 朝日新聞デジタル

1960年代、メタボリズム・グループによって展開された建築運動。メンバーは評論家の川添登を中心に、建築家の菊竹清訓、黒川紀章、大高正人、槇文彦、デザイナーの栄久庵憲司、粟津潔らで構成されている。建築や都市の計画において、メタボリズム(新陳代謝)という時間的な概念を導入することで、可変性や増築性に対応した建築・都市空間を提示した。

Source: artscape

メタボリズム – artscape

かのこ:ポロックを評価する人もね、結局はそれを家に飾るわけで…いや矛盾じゃんって。

中垣:「額縁はこの色が合うかな」とか考えるわけでしょ。本当なら舐めるとかかじってみるとか、そういうのをやらないと

松田:やらないと笑

中垣:でもまあ結局は表裏があると思っていて、例えば絵の具の質感がとか、そういうことも大事なんだろうしそう言うんだろうけど、でもそれをひとつの完結した作品として観たときに「なんかいいね」「おしゃれだね」と思えるようなディテールの作り込みだとか色彩感覚だとか、それは彼らのセンスの問題として別に必要だと思っていて。

かのこ:うんうん。

中垣:だからどこまでいっても言葉だけでは作品は作れないというか、一応のコンセプトとして「こうこうこうなんです」って言うし、買う人も「こうこうこうだから」って言って買うんだけど、実は「(いい感じの色合いで描きました)」「(いい感じの色合いなので買います)」っていうような、その2つが同時に走っているっていう。

かのこ:めっちゃ分かる。だから最低限の作品としてのレベルは担保しておいてほしいというか…

中垣:で、コンセプトの裏で走ってるそれっていうのはゴッホのひまわりと一緒で、それがないと人は買わないわけ

かのこ:そうそう。

中垣:そこがね…まあ虚構っぽいなと思いつつ、それはそれで好きなんやけどね。だから結局ファッションと一緒やね。

かのこ:分かる分かる。なんか私超嫌いな人がいて、 ピー っていうポルトガル人なんだけど、前に同じような話になったときにドヤ顔でノートの裏にササッて何か書いて「君はこれもアートって言うのかい」って…いや、言わねえよ

カノコちゃんに叱られる

みなと:笑

中垣:それは…何の人なん?

かのこ:語学のサマースクールで一緒やった人。フェイスブックで調べたら出てくると思うよ

松田:なんやねんそれ笑

中垣:素人ならまあよくない? 学者みたいなやつがそういうこと言ってたらさすがにきついけど…

かのこ:でもほんと死ねって思ったよね。

2021年4月18日
Caffè & Trattoria Michelangelo 広尾

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ジャクソン・ポロック MoMA
HeaderImage: MoMA

403 Action Painting I – MoMA