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したいこと 思索

カニエ・ウェストになるには

3 years

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中垣:昨日さ、カニエ・ウェストがすごいって話を河東としててん。

松田:あ、そうなん。やっぱすごいん?

すごいです

中垣:なんか改名してん。イェって名前になってん

太郎:へー。

カニエ・ウェスト、正式に「Ye」に改名。 – Vogue Japan

中垣:ブラックカルチャーの神様になろうとしてるねん。まじで。

松田:へー。

中垣:いや、まじで。で、まあそれはいいねんけど、なんて言うんやろう…一分の一の自分とか言うけどさ、自分ではそう思えていたとしても、次に人からもそう思われる、つまり他と比較できる何かではないって思われることって大事だなというか

commmon では、具体中の具体に根ざした衝動や確信を、そのままでは一般化されない一方でそのことによって否定することはできないものとして、一分の一などと形容したりします。

松田:はいはい。

中垣:カニエはヒップホップアーティストとしてどうこうとかじゃなくて、カニエはカニエなわけ

松田:はいはい。

中垣:あるいは松本人志とかもさ、松本人志という芸人とかじゃないやん。松本人志は松本人志やん。あるいはビートたけしもそうやん。

松田:はいはい。

中垣:そういう one of one な人っているわけで…まあそういう人ってすごいよねって話やねんけど。

河東:うん、やっぱ昨日の話はめっちゃしっくりきたな。

中垣:まあ今はここではさらっと話しちゃったけど、そういう話に至るまで結構いろいろ考えててん。「カニエってすごいよね。他にこういう人っているかな」「…松本人志じゃない?」みたいな。

松田:はいはい。

中垣:でもやっぱりアメリカ人ってそういう人多くてさ、テイラースウィフトもそうやし、ジャスティンビーバーもそうやし。

松田:なるほどね。

中垣:日本やったら…あとは田中角栄とか? すご過ぎて、あるジャンルの人って感じじゃもはやなくなってるようなさ。

太郎:あー。

中垣:まあなんかね、そうなりたいって話というよりは…自分の中で一分の一を見出した先で、それが彼にとってかけがえのないものだということを他人にも認めてもらう、そのことってすごい大事やと思うねん

松田:あー、うん。

(そうなりたい以外の動機でこの主題って生起するかな…)

中垣:例えばアート作品とかってそうやなと思うねん。アート作品においては何が大事かって、そこには作家の内的な何かが込められてるわけだけど、それを尊重する、あるいは理解するに値するものだって思わせる力があるわけやん

だからもうあれよ、Twitterでバズるような“““割り箸使ってすげーの作りましたアート”””みたいなやつ、あんなんクソだからな。

太郎:うんうん。

「あら、いいわね」
「しゃれてるじゃない」
「まことに結構なお作品」
 なんて言われたら、がっかりだ。こちらは自分の生きているアカシをつき出している。人間の、本当に燃えている生命が、物として、対象になって目の前にあらわれてくれば、それは決して単にほほ笑ましいものではない。心地よく、いい感じであるはずはない。

Source: 岡本太郎(2017)『自分の中に毒を持て』青春文庫

岡本太郎(2017)『自分の中に毒を持て』青春文庫

松田:…それさ、まあカニエはすごいねんけど、今言ったことは大事なん? それは結果としてそうなるものであって、目標として目指すものでは原理的にないから、そう説明したところで明日からの行動が変わりはしなくない?

中垣:あー…

松田:つまり、スティーブ・ジョブズに憧れてるやつって絶対そうはなられへんやん。

太郎:うんうん。

中垣:フォーブスを読んでもイーロン・マスクにはなれないわけよ。なろうと思ってなるもんじゃないから…だからおかしいんよね、あの雑誌の存在自体が矛盾してるんよ。

三津谷:イーロン・マスクがフォーブスを読むかって言ったら、それは読まないでしょ。

松田:せやねんな。

中垣:それがもう気持ち悪くて。

Source: commmon

c 何かをするためには、何者になろうとしてもいけません

松田何かに唯一無二性を感じたとして、それを一般化して説明した時点で、もう当初のそれとは違ってくるわけやん。だから結果としてそうなる何かがあるとすれば、それは今は誰も見出していない価値にフルコミットするでしかないんじゃない?

まあ必要条件ですけど

中垣:まあそれはそうやね、確かに目指すものではないね。

松田:だからなんやろ、唯一無二性を感じるものって「普通こんなんせんやろ」「ちょっとおかしいやろ」って感じの何かなわけやん。質においてか量においてかは知らんが、それに取り組むのはちょっと普通じゃないようなね。

中垣:うんうん。

松田:そういう具体中の具体を突き詰めた結果、それが非連続的に究極の一般に転じるみたいな…まあなんか、そういうものやとおれは思うかなって。

歴史の干物、「時」の影ぼふしを随喜渇仰して居る人々は、「過去」に膠着して一歩も前進し能はぬのである。干物はどうしても蘇息せぬ、影ぼふしはどうしても自分で動き出し能はぬ。それ故、彼等には現在も未来もない、また主観を飛び越えるほどの元気もない。彼等はいつも過去の影を背負つて居るので、而してその影の重きに堪へ得ないので、過去をぬけ出て、現在にはひることが出来ぬ。ましてそれから未来への飛躍を試みんとする意気に至りては、露ほどもない。本当の歴史は飛躍の連続である、非連続の連続である。独尊者はいつも現在の刹那において過去から未来へ躍り出る。彼は現在の一刹那において黒暗暗の真只中を切り抜ける。此一飛躍の中で所謂る「過去の歴史」なるものが、溌剌たる生気を取り返すのである。独尊者の巨歩は実に此の如く堂堂たるものである。何ものの閑人ぞ、敢て彼を干乾しにはせんとする。又何ものの「現実」主義者ぞ、彼を「過去」の棺桶の中に封じ去らんとする。

Source: 鈴木大拙『時の流れ』

逆に金払ってでも読んでもらいたい

鈴木大拙 『時の流れ』

中垣:うん、それはそうやんね。相対的な目標のために絶対的なことをやるっていう、それは意味不明なことになるよね。ただ…テクニカルな話として、一分の一を目的化してしまうっていうのがあり得る気がするのね

松田:はいはい。

中垣:例えばカニエは2000年代に、唯一無二な曲を結構出してたと思うねん。

太郎:うんうん。

中垣:で、その辺のタイミングで一分の一性をかなり意図的に補強していったと思うのね。それの是非はおれは知らんが、でもそういうものってあると思うのね。

松田:なるほど。

中垣そういうふうに仕立て上げることで初めてかかるレバレッジってあると思うねん。それはある意味では手段が目的化してるみたいなところはあると思うんだけど、でもそこはあまり非難はできないというか、だからと言って別に何かを見失ってるわけではない気がするのね。

松田:はいはい。

中垣:村上隆とかってそういう感じあるやん。そもそも社会と接続する以上、そこを分けては考えられないというか…だから、生きていく上では何かしらの譲歩はあるわけで、仮に自分が確信してる何かだけを突き詰めて、それが結果として評価されるかは知らんって言ったら、それはどうなんというか

松田:うん。

中垣:まあそれでいいんだって言うんであればそれでもいいと思うんだけど、でもそれではよくない気もしていて。

松田:はいはい。

中垣:そう…だからあれやね、結局のところ人に伝えて初めて価値を生むわけやん。まあ言い方はむずいねんけど。シンプルにコミュニケーションって大事やん、いいと思ったらそれは伝えたくなるもんやん。

松田:うん。だからやっぱいいと思ったら伝えたらいいし、そう思えている以上、そこに理想と現実の二元的な乖離みたいなんはないと思うねんけどな

中垣:うーん…まあ上手くは言えないねんけど。

松田:まあ認められなければいけないって言うとバグってくるねんけど、認めさせなければいけないって言うと個人的にはしっくりくるかな。

太郎:うんうん。

c おれらがフェラーリ乗ってたら、ちゃんと話聞いてくれる?

松田:ってなったときに、その目的のためにテクニカルな手段を講じるのはおおいにあり得ると思うし、別にそこに“““本当にしたいこと”””との矛盾なんて感じないと思うけどね。

中垣:まあそうやんね。だってカニエがさ、「今回こんなアルバムを出してんけど、でも実際のところ別の案もあって、結構悩んでんけどやっぱこっちかなと思って」とかツイートしたら絶対にあかんやん。

松田:笑

中垣:「これや」って言うだけ、それが大事やん。でもそれって結構テクニカルなことだと思うのね。そういうことというか。

河東:うんうん。

2021年10月3日
commmonの部屋

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カニエ・ウェスト イェ
HeaderImage: Billbord

Kanye West Has Officially Changed His Name to ‘Ye’ – Billbord