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イギリスとかいうクソ階級社会

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中垣:今読んでるのがさ、イギリスの階級社会についての本で、そんなめっちゃおもしろい本というわけではないねんけど…

新井潤美(2020)『〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで』講談社学術文庫
Image: 講談社 BOOK 倶楽部

新井潤美(2020)『〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで』講談社学術文庫

松田:はいはい。

中垣:いわゆる古典的な区分では、イギリスの階級は3つに分かれると。アッパー・クラスとミドル・クラスとワーキング・クラス。

Social class in the United Kingdom – Wikipedia

松田:うんうん。

中垣:この3つが何かって言うと、アッパー・クラスは貴族、要は働かなくても生きていけるやつ。で、ミドル・クラスは基本的にはサラリーマンで、ワーキング・クラスはいわゆるブルーカラー。

松田:なるほど。

中垣でも実はミドル・クラスはさらに3つに分かれてて、upper-middle と middle-middle と lower-middle があるって言うねんな。で、この lower-middle っていうのが結構クセもんで…

松田:はいはい。

中垣:まず upper-middle っていうのは、まあ言うたらおれらみたいなもんやねん、弁護士とか医者とかエリートサラリーマンとか。で、middle-middle は普通のサラリーマン、中堅くらいまでのサラリーマンかな。

松田:はいはい。

中垣:で、lower-middle は事務員とかバスの運転手とか…つまりブルーカラーギリギリくらいの仕事をしてる人

松田:うんうん。

中垣:そういう区分があって、イギリスではやたらと lower-middle がバカにされるらしいねんな。その代表格が事務員、特に弁護士事務所の事務員みたいな、upper-middle 以上と接する機会はあるけど自身はそうじゃない人達。

CAを白水と言ってバカにする、すごく美人な社会学の先生の授業を受けていたことを思い出しました

松田:あー。

中垣:で、この lower-middle っていうのがめっちゃいっぱいおって、彼らもワーキング・クラスと比べるとハイソではあるから、身なりもきちんとしてるし郊外にちゃんとした住宅も構えてるねんけど、そんなに生活にゆとりがあるわけではなく、upper-middle 以上の人達を真似している人々やねんな

松田:うんうん。

中垣:カツカツやけど真似してると。それは見栄を張っているという側面もあるし、社会的要請もあって、つまり例えばデパートの販売員って upper-middle 以上がお客さんやから、きちんとした身なりをしないといけないしマナーもちゃんとしてないとあかんわけ

松田:うんうん。

中垣:そういうのもあって、lower-middle はめちゃめちゃバカにされるらしねん。

その因果関係全然納得いかんぞ

松田:ほーん。

中垣:イギリスってまじでめんどくさそうやで。はっきりと階級が分かれてて、上のクラスは下のクラスとは違うんだってことを明確に示すための社会構造になってるねん。元々はアッパー・クラスの送っていた清廉潔白なというか、きちんとした暮らしっていうのが upper-middle の特徴で…

松田:うんうん。

中垣:upper-middle って、実際はほぼアッパー・クラスやねんな。ほんまのアッパー・クラスって血筋由来やから結構難しくて、upper-middle は昔の日本で言う三菱みたいな、要は社交界に参加できる人やねん

松田:はいはい。

中垣:そういう一流サラリーマンが upper-middle やねん。

松田:なるほどね。

中垣:で、彼らはアッパー・クラスと同じ清廉潔白で質素な暮らしをよしとすると。そうすると lower-middle がそれを真似しだすから、今度は逆に upper-middle が奔放になるというか、女性関係に緩くなったり、よく分からん前衛的な芸術を始めたりするらしいねんな

松田:え、だる過ぎるやろ。

中垣:そういうことをずっと続けてるらしい。なんかもう地獄やし、あまりにどうでもいいよな。「アメリカの方がいいです!」って感じ。

松田:笑

中垣:それで昔から気になってたことがあるねんけど、The Prodigy の一番有名なカニのアルバムの中の『Breathe』って曲にさ、「come play my game」っていう歌詞があるねんやんか。

松田:はいはい。

中垣:で、その game を [gaɪm] って発音するねんやんか

一般的には [ɡeɪm]

松田:あー。

中垣:これはなんやろう?って思っててん。労働者階級の英語なんかなって思ったらやっぱりそうで、Cockney って言うらしいねんな

コックニー – Wikipedia

松田:あー、うんうん。鶏のコックやんな。

中垣:そうそう。あとは h が抜けがちとか、なんかまあいろいろあるねん。それが典型的なワーキング・クラスの英語で、逆に一番綺麗な英語は RP って言われるらしいねん

容認発音 – Wikipedia

松田:へー。

中垣:BBC の発音とか、エリザベス女王の話し方とか、ボリス・ジョンソンの話し方とか。

BBC Learning English – Pronunciation

中垣:まあボリス・ジョンソンに関してはちょっとややこしいねんけどな。なんかいろいろ混血でオスマン帝国の末裔の血をひいてたり生まれがアメリカやったりして、いわゆる正統派のアッパー・クラスではないねんけど、まあ普通に血筋はいいしオックスフォードのいいカレッジ出身やから…

ボリス・ジョンソン – Wikipedia

松田:笑

中垣:とにかくめんどくさいねん。東大行ったからオッケーとかじゃないねん。

松田:うーん、だるいな。

中垣「オックスフォードの…カレッジはどこ?」みたいな、そういう世界観やねんけど、なんしか彼らの喋り方は RP って言われる、綺麗な英語らしいねんな。

松田:なるほどね。

中垣:逆にサッチャーは lower-middle 出身やったりするねんけど、でもいわゆるエリートになると、コックニーを矯正したりするねんな。

松田:はいはい。

中垣:で、ベッカムも労働者階級出身やねんけど、YouTube にベッカムの昔の発音と今の発音を比較してる動画が上がってて…

Source: Eat Sleep Dream English/YouTube

松田:矯正してるんや。

中垣:そう、でも完全には矯正しきれてへんねん。

松田:まじかよ。でもさ、それ矯正するのそんなに難しいもんやねんな。

中垣:そう、ここでまたおもしろいのが、コックニーを矯正して発音しようとすると、逆にいらんとこに h をつけて発音してまうことがあるらしいねん

松田:あー。

中垣:例えば hardly ever [hɑːdli evə] やねんけど、これを [hɑːdli hevə] って言っちゃうらしい

松田:うーん…でもさ、例えばおれが東京の言葉を話すのってそんなに難しいことじゃないやん。それとは違うのはなんでなんやろうって。

中垣:おれらはさ、言うても標準語をいろんなところで耳にしてきたわけやん。でもイギリスの階級社会ってめっちゃ厳格で、周りにいる人も全員同じ階級やし、同じものをなんて呼ぶか単語単位で違ってくるし、食べ物もマナーも着る服も、全てが違うわけ

松田:なるほどね。

中垣:しかもワーキングクラスは、自分達がワーキングクラスであることに誇りを持ってたりするねんな。

松田:あー、逆にね。

中垣:なんしかイギリスはめちゃめちゃな階級社会で、それが残るだけの何かもあるらしくて。

松田:なるほどなるほど。

中垣:そもそもなんでこのことに興味を持ったかってさ、なんかビームスの誰かが、自分はバブアーは着ないって言っててんな

バブアー ビデイル ビューフォート
Image: Barbour

バブアー2大ベストセラーモデル「ビデイル」&「ビューフォート」を比較解説 – Babour

松田:はいはい。

中垣:その人がなんでバブアーを着ないかって言ったら、バブアーってイギリスの貴族が田舎に行くときに着るもんで、それを背景なしに着るのは気恥ずかしくてできないと。

松田:あー、なるほどね。

中垣:だから、ロイヤルワラントって言っても全てのものにはそれぞれのコンテクストがあるわけで、そう考えるとレンジローバーとかも…まあね、あれも今やビジネスやから別に乗ってもいいねんけど、とは言えその辺ちょっとめんどくさいよなって

レンジローバー
Image: LAND ROVER

2020 RANGE ROVER OFFERS STRAIGHT-SIX PERFORMANCE AND EFFICIENT MILD HYBRID REFINEMENT – LAND ROVER

松田:あれもそうやんな、郊外の別荘に泥道を通って行くときのスタイルやんな。

中垣:そうそう。で、それを「今日はハズしで街でもやっちゃうぜ」って言って着る服と乗る車やねん。

中垣:まあね、バブアーを古着屋で買って着るのは別にいいと思うねんけどね。それは日本の特異な服飾文化ってことで。

c 『AMETORA』に学ぶ、戦後日本のファッションシーン

松田:それはそうやな。

中垣:まあ単純に、イギリスのファッションって日本のそれとはずいぶん違うなというか、かなり階級社会と結びついたものなんだなって

2020年9月4日
Aux Bacchanales 紀尾井町


白洲次郎
HeaderImage: ARIMA COUNTRY CLUB

連合国軍占領下の日本で吉田茂の側近として活躍した白洲次郎。ハーバード大学を卒業し綿貿易で巨万の富をなした父のもとに生まれ、白洲家に寄宿していた外国人教師に英語を学び、旧制第一神戸中学校時代には父から買い与えられた外車を乗り回す、宝塚歌劇団の生徒とアレするなど、放蕩の限りを尽くしながら育った。その後ケンブリッジ大学クレア・カレッジに進学し、ベントレーやブガッティを乗り回しながらイギリス貴族のライフスタイルを身に付け、帰国後もそのスタイルを捨てることはなかった。
夕食の際にネクタイをしていないことを詫び、そちらも大概育ちのいい奥さんをして「勘弁してくれよ」と思わしめたエピソードはあまりに有名。