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人生 思索

上には上おり過ぎ問題

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松田:別におんぶに抱っこさしてもらうつもりではないけれど、いざというときのセーフティーネットとして、やっぱり彼女は太い方がいいよな。

河東:そうやな、ほんまに。けど松田、服好きな子じゃなくてほんまにいけんの?

服好きな子は貧乏とかいう偏見

松田:それは全然いける。

河東:おれ無理やねん。

松田:あ、そうなんや。

河東なんか嫌じゃない? 横にダサい子がいるの

婉曲を知らない男である

松田:別に大丈夫やで笑 河東はそうなんや。

河東:なんやろ、おれはプレゼントとか好きやし、自分のあげたもののウンチクを理解してほしいとかではないけど、やっぱりそれなりには喜んでほしい。貰ったものの頭の中ではてなマークいっぱい、みたいなんは嫌。

松田:あー、それはちょっとあるかも笑 おれが去年のクリスマスに買ってあげたTシャツ、彼女2~3回しか着てへんねんな。

河東:どこのTシャツ?

松田:ギャルソンのプレイ。別にプレイをありがたがってほしいとかじゃないけど、持ってる服の中で一番着る頻度低いんは事件やろ。

Comme des Garçons Play Tシャツ
Image: SSENSE

その後喧嘩したときに破って捨てられた

河東:Tシャツやのに着いひんって、よっぽど嫌いやん笑

松田:でもそれでも別に、服好きな相手じゃなくてもええな。だって変に服にコミットしてる相手やとさ…例えば、休みの日に彼女がCT70履いてたとするやん。おれやったらそれ見て、「CT70を履いたくらいで何かを達成したと思うなよてめえ」みたいな気持ちになっちゃうと思うもん

河東:あー、なるほどね。そういうことね。確かになぁ。

松田いかなる文脈においても、相手を自分の下位互換やと思いたくないねん

河東:なるほどな。けどおれは、ちょっと服好き、みたいな子で全然ええねん。中垣とかとも話すねんけど、おれが思うに「上には上おり過ぎ問題」っていうのがこの世にはあって

松田:ほう。

河東:なんか、大学のときに教科書で買った行動経済学の本を今でもたまに読んだりするねんけど、その本は「人は相対的にしか価値を見出さへん」みたいな話やねん。要するに、自分が何を欲しいかなんて人は知らんけど、誰かが車に乗ってるのを見て自分もあの車に乗りたいって思って、初めて自分がどの車に乗りたいかが分かるわけやん

松田:はいはい。

河東:こんなスローライフをしてみたいっていうのも、スローライフをしてる人を見るから初めて気付くわけやん。全くのゼロの状態で「おれはスルーライフがええ」とはならんわけやん。結局誰かがおるから、それが自分も欲しいことに気付くわけやん

みんなもこれ読んでcommmonに行きたいって思ってくれよ

河東:そう考えると、理屈の上では全員がそうなってるわけやん。全員の「自分はこうなりたい」っていうのがさ。みんな何かに対してwanna beやん。ほんで最終的に到達したのがミュージシャンでもなんでも、めっちゃ偉くなるやつにも絶対wanna beがあるわけやん

河東:もちろん、そいつらが最初に憧れたんが誰かは知らんで。きっと昔の人、もう死んでる人やろうけどさ。そうやって時代を遡りまくると、もはや動物とかに憧れているやつに行き着くんかは分からへんけど、どこまで遡るんかは分からへんやん。みんなのwanna beがどこから始まってるのかはさ

あらゆる人類の欲望は、マンモスの力強さへの羨望から始まった! 的な。フェラーリもマンモス、タワマンもマンモス

松田:うんうん。

河東:ってなったときに、「〜が好き」みたいに名乗ることへの恐怖がやばい

松田:あー、なるほどね。そういうことね。

河東:要はこの世には上には上がおり過ぎるねん。ベートーベンとかにも、きっかけになったwanna beはおるやろうし、どんだけファッションコンシャスなスーパーデザイナーにもやっぱりおって、その上にもおって、おって、おって…ってなったときに、「〜が好き」みたいに言うのがほんまに怖い。

松田:そうやな…例えばさ、何かを雑誌で見てかっこいいと思ったら、それの真似から入るやん。ほんでやってるうちにちょっとずつアレンジ加わってくるじゃないけどさ、そういう、最初は小さな差やろうけど、それが積もり積もって最終的にはオリジナルとはずいぶん違ったものになるかもしれへんわけ。でもそれを初めから「〜が好き」ってラベリングすると、その限りで一般化されちゃうというか、それだけで終わりの話になっちゃうよな

僕はインディアンジュエリーが好きなんですけど、別になんでもいいわけではなくて、例えば日本で人気のアーニーリスターはあまり興味が無いし、厳密にはインディアンジュエリーではない日本のディーラーのオリジナルブランドも好きだったりします。なんならストイックなインディアンジュエリー好きなら見向きもしない、クロムハーツとかのワックスキャストのジュエリーも超好きだし。
でもこれを初めから「僕はインディアンジュエリーが好きです」って言っちゃうと、「やっぱアーニーリスターは通っとかないと」とか「クロムハーツなんてワックスキャストの量産品でしょ」とか言っちゃって、自分なりの審美眼なんて一生育たないと思うわけ。「〜が好き」じゃなくて、好きなもんが好きでいいんですよ。そういう話。

河東:その微細な差の集合が今の自分、みたいな話なんかな。でも言葉にすんのはむずいけどさ、その微細な差がオリジナルとの差になっていくけど、その過程でも「あれを見たから」「これに憧れたから」みたいな話が出てくるわけで…

河東:さっきの彼女の話に戻るけど、ちょっと服好き、みたいな子やったらさ、彼女的にはちょっとオシャレと思ってるであろう靴を履いてても「お前その程度で?」みたいになっちゃうやん。けど上には上がおるから、なんであれ極めるみたいなことはあり得ないのに、でも人より上におると思ってるやつは「到達した風の顔」をしてまうわけやん。その到達した風の顔をしてるとき、人はすごいダサいと思ってて。

松田:うんうん。

河東:ってなったとき、「私全然おしゃれとかじゃないけど、服は結構好き」って言ってる彼女って、すごい前向きやなって

松田:あー、なるほどね。

匿名到達した風の顔になることがないよね

人生の線グラフにおいて最も重要なことは縦軸の値ではなく、任意の地点で微分した際の値が常に正であることだと思います。

河東:そうそう。だから自分のあげたプレゼントにも喜んでくれるし。

松田:確かに。

河東:そういう前向きなアティチュードがある「〜が好き」がよくて。

松田:現時点での到達がどの程度であれ、前向きならええっちゅう話やんな。

河東:勝ち負けになってない人がかっこいいというか。だって比べ出したらさ、どうしても謎の勝ち負けがチラつくやん。これはもうなんでか分からんけどな。でも勝ち負けを気にしてるそいつの先には、勝ち負けを気にせずそこにおるやつがおってさ

松田:そいつは勝ち負けを気にしてないからこそ、そこにおるんやろうな。

河東とは言いつつ、そのさらに上のやつのことだけは気にしてるんじゃないか…みたいな気もするやん。知らんで、確かめたことないから。だからまあ、おれは「ちょっと好き」くらいでも十分ええねん

松田:「服が好きなんです〜」とか言わずに、嬉しそうな顔で服着てんのならそれでええよな。

河東ただこの話の弱点は「じゃあピースフルな人ならなんでもよくない?」みたいになっちゃうとこやねん。優しい人、前向きな人ならそれでいいじゃん、って。でもそう言いたい気持ちもさらさらないし。

松田:それはそう、間違いない。

河東:むずいよね、世の中は。commmonにおったらしんどなんねん。悩んじゃうの、ここに来たら。なんなんって感じやで

2019年10月25日
東京ミッドタウン


ヴァシュロン・コンスタンタン リファレンス 57260
HeaderImage: HODINKEE

史上最も複雑な機械式時計である、ヴァシュロン・コンスタンタンの「リファレンス 57260」。2826個のパーツからなり、4種類のカレンダーを含む57の複雑機構を有している。3人の時計師からなるチームが8年の歳月をかけて開発した。
時計の中のパーツのひとつには、ヴァシュロン・コンスタンタンのモットーである「Faire mieux si possible, ce qui est toujours possible.(常に最善を尽くすこと、それは常に可能である)」が刻まれている。