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仕事 学ぶ 未来

心理職の50年後

4 years

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匿名
臨床心理士・公認心理士

普段からcommmonに参加している🐹のお母さん。大学の教員として、またカウンセラーとして活躍なさっています。
どういうお仕事なのか? どうして今の仕事を選んだのか? おすすめの本ってありますか?…悩むことについてはプロの我々が、本職の方にうかがいました。

松田:いかにも過ぎる質問で恐縮なんですけど、50年後ご自身の職業ってどうなっているとお考えですか?

🐘:あー…50年後ね。どうなってるんでしょうね。

松田:分かりやすい話だと、例えば何かに取って代わられるであるとか、取って代わられるではないにしてもやり方が全く変わるとか、あるいは案外そのままであるとか?

🐘:カウンセラーは「AIにはできない職業」のトップ10に入っているので、そこはまず安心していますね

AIにできない仕事
Image: PRESIDENT Online

バーテンダーの代替可能確率がもっとも低い点に我々の希望が見出せる気がしますね

AI時代でも「消滅せずに稼げる」職種10 – PRESIDENT Online

松田:はいはい。

🐘:どうかな…まあ全世界的なことはちょっと分からないですけど、日本に限って言うと、政治がどうなるか次第というところはあるんじゃないですかね

本文には一切関係無いですけど、自身の判断を無闇に一般化せず、そのリーチを判断の根拠が得られた範囲に留める態度、みんなもぜひ真似しましょう。

松田:あー、なるほど。

🐘:今、日本の子供の幸福度って先進国の中ですごく低いじゃないですか。そういうところがきちんと問題として認識されて、しっかりとテコ入れがされたら、カウンセラーの出番が少なくなることはあるかなとは思うんですけど…

子どもの幸福度 日本は先進国など38か国中20位 ユニセフ調査 – NHK

先進国における子どもの幸福度 – UNICEF Innocenti

松田:はいはい。

🐘:今のままだと虐待もあるし自殺もあるし…そういう意味では、この職業は残らざるを得ないんじゃないかなとは思っていて。

中垣:うーん。

🐘:あとは公認心理士の制度がどうなるのかもちょっと心配で、心理職が国家資格になったのはいいんだけど、そのことでクリティカルな思考を訓練する機会がなくなったり、国家資格の名の下で一定の枠内に役割が押し込められてしまって、効率的に仕事をこなすことだけが求められるようになるかもしれない。そうなるとカウンセラーという仕事はお金持ちのためだけの御殿医のようなものになってしまう、そういう可能性もあるかなというのは懸念してますね

確かに、僕が今まで受けてきたカウンセリングも行政や大学によって整備されたものであったためそれに費用が生じたことはありませんが、もし公的に整備される心理の福祉の範囲が、例えば簡易的な検査などにのみ縮小された場合、それ以上のサービスの費用は全て自身まかなわなければならず、そのためにはかなりの経済的余裕がなければならなかったと思います。

c 臨床心理士と公認心理士

松田:なるほどですね。

中垣:この手の質問って様々な職業に対してあり得ると思うんですけど、聞いていて特殊だなと思ったのは、ご自身の職業はなくなった方がいいと思っているんだなというか、やっぱりそうなんだなというか…

🐘:あー。

中垣:例えば弁護士が50年後どうなっているかという話になると、少なくとも彼らとしては、なくなってほしくはないわけじゃないですか。でもカウンセラーの場合、その職業への需要が増えるということは精神的に辛い思いをしている人が増えるということでもありますもんね

🐘:もちろん完全になくなるということはないと思うんですよ。カウンセラーという形ではなくても、宗教者とか村の長老とかが話を聞くというのはかなり昔からあったと思うので、そういうニーズが完全になくなることはないと思うんだけど、今は必要以上に増えている感じがしますね。

松田:必要以上に増えているというのは、つまり需要があまりに大きくなり過ぎているということですよね。

🐘:そうですね。

松田:それはつまり…というか、カウンセラーが社会の福祉のある種の防波堤になっているというような認識なんですか? 制度の取りこぼしたものをカバーする感じというか…

中垣:あー。

🐘:うーん…それに関してなんですけれど、私このあいだ、自分のやっていることはすごく小さいことだなと思ったことがあったんですよ

中垣:はいはい。

🐘:社会学者の宮台真司っているじゃないですか。友達になりたいタイプではないですけれど、でも彼のことは学問的には尊敬しているんですね。それで、彼の言っていることはすごく大きなことだなと思う一方で、私がやっているのは、彼ならクズだとか言いかねない人達を…

中垣:歩留まりの悪い人達笑

宮台真司 – Wikipedia

🐘:そうそう笑 でもそういう人達も、一人一人話をしていくとちょっとだけクズじゃなくなるんだよ…ということを私はやっているんだなと思って。

中垣:はいはい。

松田:なるほどですね。

🐘:それって日本全体が良くなることから見ると本当に小さなことなんだけれども、でも誰もそれをやらないとその人達は不幸なままじゃん?っていう、そういう仕事なんだなって思っています。もちろんそういったクライエントさんばかりなわけではないんですけれどね。

松田:うんうん、なるほど。

🐘:だから防波堤っていう言葉は、私にはちょっとしっくりこないかな。確かに小さいんだけど、でも大きな仕事でもあるわけです。それがクライエントの人生にとって大きければそれでいいのかなって。

松田:うんうん。いやー、失礼しました。

🐘:だから、そういう種類の仕事が市民権を得られるような社会であれば生き残れるだろうし、もっと機械的にさばいていくことが求められるようになると、一部のお金持ち向けのサービス業のようなものになってしまうのかなという気がします。

松田:うんうん。やはり、あるスケールから見るとすごく小さな仕事である一方、個人のスケールで見ると非常に大きな仕事なんですね。

今まで散々世話になってるのに謎に他人事

🐘:そうですね。

🐹:研究の話をするとさ、今後50年で心理一般の研究ってどれくらい進むと思う?

🐘:臨床心理の研究が?

🐹:うん…でもそれも結局、人の心がどうなっているかが問題になっているというか、「病んでる」ということの原因が明らかになれば対処できるわけで、言ったらカウンセリングっていうのもひとつのアプローチに過ぎないわけじゃん。

🐘:うんうん。

🐹:だからその辺りがどれくらい解明されるかによってカウンセリングの手法が変わってきたり、それこそある程度機械ができるようになったりするのかなと思うんだけど、そういうことも踏まえるとどう?

🐘:私、認知行動療法系の研究はガンガン進むと思うんですよ。

松田:うんうん。

認知行動療法、雰囲気的には「心💕」って感じなのに実際はストイックな科学でビビる

🐘:科学的なエビデンスをとって定量的に処理をして…っていう研究は着実に進んでいくだろうなって思うんだけど、さっきの『情動はこうしてつくられる』の本の話にもなるんだけど、要するに感情っていうのは、その人の歴史の中での経験とその時々の文脈が組み合わさって何らかの身体反応が起こって、その経験に基づいて予測をして、それに概念として「悲しい」「苦しい」っていう名前をつける…そういうモデルなので、結局、人間の心の悩みに名前をつけるのは簡単だけど、ひとつひとつのそれはどこまでいっても違うわけで、それは学問では捉えきれないんじゃないかと私は思っていて

リサ・フェルドマン・バレット(2019)『情動はこうしてつくられる 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』紀伊國屋書店
Image: Amazon.co.jp
リサ・フェルドマン・バレット(2019)『情動はこうしてつくられる 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』紀伊國屋書店

c 臨床心理における個別性と普遍性

松田:うんうん。

🐘:だから、そういう意味では臨床心理の研究はなかなか進まないんじゃないかなって。あと私がちょっと心配しているのは、今の世の中、何事も単純化してしまってむしろその認識に引っ張られてしまうという人が多くなっていて、そうすると複雑で細やかに見ていくっていうことは嫌われていって、臨床心理が逆に衰退していくんじゃないかっていう、それはすごく怖いなって思いますね。

2020年9月25日
池袋 中国茶館

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