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ファッション 思索 未来

ポリコレ時代のカルチャー像

3 years

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中垣:エコとかサステナビリティとかSDGsとかって、社会課題系でよくあるトピックだと思うんですよね。今だとハイブランドもそういう動きをしてるじゃないですか、エコレザーとか

ステラ マッカートニーはベジタリアンブランドとして、レザー、ファー、羽毛を一切使用しません。このような立場を取ることで、すべてのものにとって、つまり、動物、人間、環境のいずれにとっても優しい、美しい高級製品の製造が可能であることを証明しています。

Source: Stella McCartney

ベジタリアンレザー – Stella McCartney

明石:ヴィーガンレザーとかね。なんかもう、クラッときちゃう言葉ですよね笑

太郎:笑

中垣:ただハイブラのそれは、さっき話したような課題解決の文脈とは違うやり方を取るような気もしていて。さっきの話では、これまでは正義っぽいイデオロギーを伝播させることでムードを作って…って言ってたじゃないですか。

明石:例えばですけどここ2〜3年、女性取締役がいないスタートアップは出資を受けられない、というような流れが急に出てきたんですよ。いずれ近いうちに、女性取締役を入れておかないといい感じに上場ができない、みたいな状況になるだろうとは僕自身ひしひしと感じていて。

中垣:はいはい。

明石:そうなったときに、じゃあ企業としてはフェミニズムないしジェンダーにまつわる様々な問題について関心が強いから女性取締役を増やしているかと言うと必ずしもそうではなくて、そうしないと投資が受けられないというディスインセンティブのもとにそうしているわけですよね。

中垣:いや、そうですよね。

明石:これはフェミニストや問題の当事者からすると不本意なことかもしれないけれど、やはり割合としては後者の方が多いはずなんですよ。だから結果として当初の想いのようなものは失われて経済のゲームに組み込まれてしまっているんだけど、でもそのやり方がジェンダーギャップの理解や課題解決に最も貢献するということのジレンマですね。

Source: commmon

c 社会を変えるのは制度でも信念でもない

太郎:そうだね。

中垣:それがファッションの世界だと、例えばシャネルが本革を廃止するって言った場合、それを正論として突き付けるのではなくて、「エコレザーはクールだ」みたいな価値観を乗せてくるんじゃないかと思っていて、それは見ものだなと。

いまんとこ毛皮とエキゾチックレザーが対象みたい

「シャネル」がエキゾチックレザーや毛皮の使用を廃止 – WWD JAPAN

明石:あー、はいはい。

中垣:それは結構参考になるなというか、平和な気がしてるんよね。そのやり方やったら戦争は起きないやん?

太郎:フェミについても「フェミってクールじゃね?」っていうブランディングをしないと、なんかモヤモヤが残るよね。

中垣:そうそう、not フェミをぶち殺すんじゃなくて「フェミの方がクールでしょ?」っていうのを示せたらいいなと。それこそNetflixとかは既にやってるのかもしれないけど、そういうテーマの映画とかドラマが、それを一番浸透させやすいと思ってて。

Followers…

中垣:で、おれは直接見てなくて友達から聞いた話やねんけど、年始にやってた逃げ恥スペシャルが今の世相をすごく反映してたらしくて。

太郎:あー、おれも聞いたわ。

中垣:子供の名前をつけるときに「将来女の子になるかもしれないから…」みたいな。しかもそれがかなり自然だったって。

明石そっかぁ…

中垣:ちょっと待ってくださいよ笑

明石:いや僕も見たんですけど…なんだろうな、すごく直接的でしたよ。別にクールとかそういう感じではなく。SNSでバズらせにきてるな、って意図が透けて見えてしまった

中垣:あー。

明石:ただ、そういうことがないと世の中のムードは変わらないから…っていうさっきの話の意味では、もちろん肯定的な立場ではあるんですが。

太郎:はいはい。

明石:それと中垣さんの言った「エコレザーはクールだ」って話で僕が感じるのは、エコレザーを着るぐらいだったら、もうそういう服は着ないってなると思うんですよ。

中垣:個人的には僕もそうっすけどね。

自分どっちやねんな

明石:それを標榜されると冷めちゃう問題。

中垣:あー…でも、それはたぶん僕らが年寄りだからですよ。そこまで価値観が仕上がってないティーンエイジャーとかだと、案外そこはコロッと変わるんじゃないかって。

中垣:だってそれで言ったら、本革こそがクールなんて誰が決めたんだって話で。かつてはビニールがなかったから、風を通さない、かつ耐久性がある素材ということで革しかなかったわけじゃないですか。そういう経緯でただただ革が続いてきただけだから、別に本質的に本革こそがクールだとは言い切れないのかな、とも思いますけどね。

エコレザーのクラックに情緒を見出せるのか、我々は試されています

明石:かつてNikeのAir Wovenってスニーカーが世に出たとき、それがめっちゃ流行ったんですよ。プレミアがついたぐらいに。

Nike Air Woven
Image: Nike

Nike Air Woven – Nike News

明石:製造の過程で出た端材を編み込んで靴の形に仕上げるというのがコンセプトで、当時としてはかなり先進的な試みだったんですが、ティーンだった僕はそのコンセプトは知らず、ただかっこよかったから欲しかったし履いてたわけですよ

中垣:はいはい。

明石:だから、みんなそういうことをやってくんねえかなという思いがあって。

太郎:確かに。

明石:もしかしたら当時とは時代が変わって、きちんと表明しないと売れないようになったのかもしれないですけど。

中垣:うーん、でもそれは今でもそうあるべきだと思いますよ。正しさを説明する前にクールである必要があるというか…

commmon もそうありたいとは思っています

明石:やっぱり「正しいからクール」じゃなくて「クールでかつ正しい」なんですよ。

中垣:うん、絶対そうです。

まさにその通りで「エコレザーはクール」だと“““エコレザー”””という記号が先行しています。本当に目指すべきは、クールだなと思って製品表示タグを見たらエコレザーだった、つまりStone Islandでよく経験するアレです。

Stone Island

中垣:でも、それこそハイブランドならそれができそうじゃないですか?

明石:なるほどね、どうなんだろう…

中垣:まあとりあえず、Allbirdsは滅びろってことです。

ごめんなさい各位

明石:あー、そう。Allbirdsはおれも…ほんとに履けない笑

ごめんなさい各位

Allbirds

中垣:でも界隈だと多いんじゃないですか?

明石:多いっすよ。それにフラットに考えたら、Allbirds履けないって言ってるおれの方が悪人ですよね。

中垣:まあ別にね、そんなことはどうだっていいっすけどね。

明石:あと言いつつなんですけど、そもそも僕レザーの服着ないんですよね、洗濯できないから

自分どっちやねんな

c 自分の服は全部自分で洗いたい

中垣:動画の世界でも、似たような話とかないんですか?

明石『パラサイト』とかはそうですよ。あれって撮影現場がめっちゃホワイトでみんな定時で上がってたんですよ。普通は映画の製作現場って超ブラックでもはやブラックじゃなきゃいい作品は撮れない、みたいな感じなんですけど。

パラサイト 半地下の家族(字幕版) – Prime Video

中垣:映画に限らず、クリエイティブ畑ってそういうイメージはありますね。

あれ? 汐留方面から何か聞こえてくるゾ…

明石:例えば黒澤明とかって、いい作品はたくさんあるんですけど現場はブラックオブブラック、もう漆黒なんですよ。いい夕日が出るまでひたすら待つ、とか。

太郎:笑

ベンタブラック BMW
Image: BMW

超低反射塗料で塗られたBMW、絶対に公道に出るなよ

漆黒の怪物:地上で最も黒い黒、 『VANTA BLACK』のBMW。 – BMW

明石:そういう世界だったところを『パラサイト』の撮影では子役の体調にもめっちゃ配慮したりで、携わる人みんなが健やかな環境で過ごせて、なおかつアカデミー賞までとったからすごいんですよね。でもホワイトな環境だったどうこうは関係なく、おもしろいものはおもしろいじゃないですか。

中垣:そうですね。

明石:また一方で、そういう背景を後から知ったときにふと思うのが、「…じゃあもし、労働環境に一切配慮せずに全力で撮っていたら?」っていう。

中垣:もっと良いのが撮れたんじゃないかと。

明石:そうなんですよ。

中垣:いやー、ほんとそうっすよねぇ。ポリコレが進むとお笑いなんてなくなるって話がありますけど、それに近いっすよね。

明石:そうそう。それで言うと、NYのスタンドアップコメディアンのアジズ・アンサリって人がめっちゃ好きなんですよ。彼はインド系アメリカ人の二世で、自分がマイノリティだからこそ言えるようなブラックジョークでのし上がった人なんですね。

アジズ・アンサリ – Wikipedia

中垣:はいはい。

明石:これは日本だと、マツコさんならいろいろ言っても許されるみたいな話と同じで、彼はWASPが言えば確実に炎上するようなことを、マイノリティとして言うことである種の笑いに昇華していて

中垣:うんうん。

明石:ところがそのアジズ・アンサリが、#MeTooの中で叩かれたんです。これに対しては世論も分かれたんですが、結局彼は一度休業したというか、表舞台から姿を消したんです。

明石:その後復帰はしたんですが、休業前にマディソンスクエアガーデンを埋め尽くしたときのコメディと、復帰後のものを見比べてほしいんですよ。どちらもNetflixにあるので。

アジズ・アンサリ: マディソン・スクエア・ガーデン・ライブ Netflix
Image: Netflix

アジズ・アンサリ: マディソン・スクエア・ガーデン・ライブ – Netflix

アジズ・アンサリの"今"をブッタ斬り! Netflix
Image: Netflix

アジズ・アンサリの”今”をブッタ斬り! – Netflix

明石:大変申し訳ないけど、やっぱり休業前の方がおもしろい。復帰後は明らかに、何かに遠慮しながら、あるいは怯えながらコメディをやっていて。

こないだ徳井さんにも同じこと思った

c ルールを守れない人は悪なのか

中垣:以前に似たような話をしたときは、ポリコレ的に不適切であることを承知した少数のメンバーだけが見られる、ある意味エッジの効いたサービスがクラスタごとに生まれていくんじゃないか、みたいな見通しを立てたんですよ。

太郎:うんうん。

中垣:公衆の電波では、本当に味気ない、言ってしまえば放送大学みたいなものしか流れない。だからみんな「これなら自分は傷つかない」と思えるポリティカルにインコレクトなチャンネルに課金すると。かなりディストピアっぽいですけどね。

太郎:それってパーラーがそうだったんじゃない?

明石:あー、確かに。

中垣:パーラーって何?

ちゃんとニュース見ような

太郎:トランプ支持者が、大手SNSだと取り締まりを受けるから我々だけのソーシャルメディアを作ろうって言って作った、フェイクニュースばっかり流れるメディアがあって。この前サービスが停止されたんだけど笑

Launched in 2018, Parler has proved particularly popular among supporters of US President Donald Trump and right-wing conservatives. Such groups have frequently accused Twitter and Facebook of unfairly censoring their views.

Source: BBC

Google suspends ‘free speech’ app Parler – BBC

中垣:ディストピアっぽいな。

明石:パーラーのユーザーは言論の自由を掲げているけど、それを規制するのが以前のような政府ではなくてプラットフォームっていうのもディストピアっぽいんですよね

中垣:うーん、たしかに。

2021年1月17日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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Nike Air Woven
HeaderImage: Nike

2000年に誕生したナイキのスニーカー、エア ウーブン。現在のFlyknitシューズの先行モデルにあたる。エラスティックとポリエステルのリボンを手で織った構造のアッパーは伸縮性が高く、またミッドソールにはAirクッショニングを内蔵している。

Nike Air Woven – Nike News