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【シンエヴァ】私を世界から隔絶させる、ATフィールド・ピアノ・カヲル

ATフィールド・ピアノ・カヲル、またそれに加えてウォークマンやDSSチョーカー、これらが象徴していたものは何だったのか。
シン・エヴァンゲリオンを鑑賞して考察したことについて、実際の会話を文字起こししたものを、ささやかな解説としてお届けします。

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ATフィールド・ピアノ・カヲル、またそれに加えてウォークマンやDSSチョーカー、これらが象徴していたものは何だったのか。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を鑑賞して考察したことについて、実際の会話を文字起こししたものを、ささやかな解説としてお届けします。

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みなとピアノとATフィールドと…

松田:あとはウォークマンか。

みなと:そうそう。それとDSSチョーカーとカヲルくんについても、まとめて一気に話せればいいなと思ってるんだけど。

松田:はいはい。

シン・エヴァンゲリオン劇場版
Image: Amazon.co.jp

シン・エヴァンゲリオン劇場版 – Prime Video


私を世界から隔絶させるもの

みなと:前にアップした記事にもちょっと書いてたけど、ATフィールドとピアノとウォークマン…特にATフィールドは一番分かりやすいけど、これは自分から相手を隔てる壁なんだよね

太郎:はいはい。

松田:あとは…ヘッドフォンとかピアノとかATフィールドとかについてでさ、おれ1回目に見たときは「相補性」っていう言葉が出てきていることをあまり意識していなかったんだけど、その相補性を前提に考えると、ヘッドフォンもピアノもATフィールドも、あちらとこちらを対立させる…つまりそれをまたいでの融通を不可能なものにさせるものだと思っていて。

みなと:うんうん。

Source: commmon

c シン・エヴァンゲリオンの本質を、8つの観点から徹底的に解説します

みなと:例えばゲンドウの回想シーンでも出てきてたけど、「ヘッドホンが外界と私を断ち切ってくれる。無関心を装い、他人のノイズから私を守ってくれた」って言っているように、彼にとっては外界から自分を守ってくれるものがウォークマンだったわけだし…

松田:しかもピアノっていうのはさ、特定の鍵盤を叩けば特定の音が鳴る…つまりインプットに一対一に対応したアウトプットがあるという点で、演奏する人の思った通りになるというか、裏切られることがないもんね。まあこんなこと言ったらピアニストには怒られそうではあるけど。

太郎:笑

みなと:そこは象徴だからさ笑 でもやっぱり、ピアノっていうのは期待に100%応えてくれるもので、ゲンドウが忌避していた他人の不確実性とか蓋然性の低さとはまるで対照的だよね

太郎:うんうん。

がいぜん‐せい【蓋然性】

(probability)
①ある事が実際に起こるか否かの確実さの度合。
②確率。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

世界との融通へ向けて一歩踏み出したシンジ

みなと:でもそれこそウォークマンがそうだったように、シンジくんにとっては、そういうものは途中から必要なくなっていたわけじゃん

太郎:はいはい。

みなと:だからこそゲンドウに近づいたとき、ゲンドウの側からはATフィールドによって拒絶されたにも関わらず、「これは、捨てるんじゃなくて、渡すものだったんだ」って言って、ATフィールドを超えてウォークマンを融通していたわけで。

松田:そう、融通っていう言葉はキーワードで間違いないね。

ゆう‐ずう【融通】‥ヅウ

①融とけあって滞りなく通ずること。ゆずう。
②金銭の流通すること。また、金銭などをお互いの間でやりくりすること。
③臨機応変に事を処理すること。「―がきく」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

みなと:うん。融通って言葉は、自分にとっては不完全な他者を退け続けるゲンドウに対置されるシンジくんをすごくピッタリ形容している気がするし、それが最後の方でちょくちょく出てくる相補性っていう言葉にもつながっていくんだと思う。

太郎:はいはい。

そう‐ほ【相補】サウ‥

互いの欠けた部分を補いあうこと。「―関係」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

カヲルはシンジを救済する存在ではなかった

みなと:それで…じゃないんだけど、ここでちょっとカヲルくんについても話しておきたくて。

松田:うんうん。

みなと:その前提としてまずはDSSチョーカーについてなんだけど、DSSチョーカーっていうのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で、シンジくんがいきなり着けられていたやつなんだよね。それは彼が何かしら世界をぶっ壊したことに対する…

松田:ペナルティとしてね。

みなと:そうそう。で、あれ自体は罪の象徴みたいに描かれていたと思うんだけど、あれはより一般的には、自分以外の他人から押し付けられる枷というか、ある意味ではレッテル貼りのようなものなのかなとも思って。

松田:はいはい。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q – Prime Video

みなと:その上でQに出てきたカヲルくんを観直して思ったんだけど、ピアノとかATフィールドとかウォークマンって、Qでもかなりポイントになっていて。

松田:うんうん。

みなと:まずピアノはすごく分かりやすいよね、連弾するシーンがずっと続いてたし。

太郎:そうだね。

みなと:で、そのピアノはさっき言ったように、自分の期待に100%応えてくれる、自分と共に内向きの世界に存在するものだって考えたときに、カヲルくんも同様に、シンジくんの世界の内側にいたい人というか…

太郎:あー、うんうん。そうだよね。

みなと:彼はシンジくんの閉じた世界の内側に一緒に入ることで、彼を救済したいと思っている人なのかなって。改めてそう思ったな。

松田:はいはい。

みなと:DSSチョーカーにしたって、シンジくんに押しつけられたそれを、カヲルくんが外して引き受けてくれたじゃん。そうやって同じものを背負おうとする感じというか、誰かの課題を奪い取ることで相手を自分の庇護下に置く感じがあったというか

松田:いやほんまに。ああいうのよくないよな。

みなと:さらに言えば同じATフィールドを持っていて同じエヴァに乗ってるっていう設定もあったしね他にも、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の時点で壊れていたヘッドフォンを直してくれたのもカヲルくんだし、そうやって外側の世界からシンジくんを…一見すると守ってくれていた人が彼なんだよね。

太郎ピアノも教えてくれたしね

みなと:そうそう。

松田:だからカヲルくんは…エゴがすごいパターナルフレンドって感じかな。

毒親っぽいよね

みなと:うんうん笑

松田:一見すると他者に対してすごく親切ないい人なんだけど、
自分の庇護下に置いて思い通りに影響力を行使しようとしている点において、結局その動機は非常にエゴいところにあるのよね。

みなと:うんうん。

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
Image: Amazon.co.jp

哲人 もしも子どもが「勉強しない」という選択をしたとき、その決断によってもたらされる結末——たとえば授業についていけなくなる、希望の学校に入れなくなるなど——を最終的に引き受けなければならないのは、親ではありません。間違いなく子どもです。すなわち勉強とは、子どもの課題なのです。

青年 いやいや、まったく違います!そんな事態にならないためにも、人生の先輩であり、保護者でもある親には「勉強しなさい 」と諭す責任があるのでしょう。これは子どものためを思ってのことであって、土足で踏み込む行為ではありません。「勉強すること」は子どもの課題かもしれませんが、「子どもに勉強させること」は親の課題です 。

哲人 たしかに世の親たちは、頻繁に「あなたのためを思って」という言葉を使います。しかし、親たちは明らかに自分の目的——それは世間体や見栄かもしれませんし、支配欲かもしれません——を満たすために動いています。つまり、「あなたのため」ではなく「わたしのため」であり、その欺瞞を察知するからこそ、子どもは反発するのです。

Source: 岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社

松田:ただそれ、カヲルくん自身も分かってはいたというか、最後の方でなんか言ってたよね。なんやったっけ…

みなと:加持さんが指摘してたのかな。「それはあなたの幸せだったんです。渚司令。あなたはシンジ君を幸せにしたいんじゃない。それにより、あなたが幸せになりたかったんです」って言ってたよね。

うーん、名言

太郎:あー、確かに言ってたね。

松田:そうそう。だから、一見するとカヲルくんとシンジくんはお互いに向き合って融通無碍な感じがあるんだけど、その外向性は二人だけの閉じた世界においてのものであって、その実は非常に消極的な内向きのものなんだと思う。

みなと:うんうん。

シンジの全てを肯定し、叩けば思った音を出すピアノを一緒に教えてくれ、同じエヴァに乗ったカヲルは、厳密な意味での他者ではなく、シンメトリーなエヴァ13号機の座席が象徴するように、同質・対称的な自己の鏡のような存在です。シンジが「君の13号機、処分しようと思う」とカヲルに告げたのは、内向きのモノローグを止め、世界と向き合う決意を固めたからなのです。

柄谷行人(1992)『探究Ⅰ』講談社学術文庫
Image: Amazon.co.jp

しかし、私は、自己対話、あるいは自分と同じ規則を共有する者との対話を、対話とはよばないことにする。対話は、言語ゲームを共有しない者との間にのみある。そして、他者とは、自分と言語ゲームを共有しない者のことでなければならない。そのような他者との関係は非対称的である。

Source: 柄谷行人(1992)『探究Ⅰ』講談社学術文庫

柄谷行人(1992)『探究Ⅰ』講談社学術文庫


ピアノとウォークマンを克服した先で

松田:でも…そう考えると確かにみなとの言う通りで、カヲルくんは、ATフィールド・ピアノ・ウォークマンと並んで、自分と外の世界との行き来を妨げるものとして理解できるね。

みなと:やっぱそうだよね。あとはカヲルくんって何度もやり直してるじゃん。円環の物語の中で何回も何回も失敗をして、その度に同じことを無限に繰り返しているわけでさ。

松田:ド輪廻かよ。

りん‐ね【輪廻】‥ヱ

①〔仏〕(梵語saṃsāra 流れる意)車輪が回転してきわまりないように、衆生しゅじょうが三界六道に迷いの生死を重ねてとどまることのないこと。迷いの世界を生きかわり死にかわること。流転るてん。輪転。宇津保物語俊蔭「―しつる一人が腹に八生宿り」。「―生死しょうじ」↔涅槃ねはん。

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

みなと:そうそう笑 でも彼は今回、ある意味では解脱できたと言えると思うんだよね。それはなんでかって、シンジくんがリアリティの中で立ち直って、自分の足で立って歩けるようになるのを見ることで、自分がシンジくんに幸せを押し付けていたことに気付いたわけじゃん

太郎:うんうん。

みなと:「僕は君の幸せを誤解していた」って言ってたしね。

松田:でもそうやんね。だってこの間のシンジくんの成長にはさ…なかなかちょっと、すごいものがあったと思うねん。

みなと:そうだよね。Qでは優しくしてくれたカヲルくんへの執着がすごかったというか、良くない意味でお互いの境界がなくなっちゃってるような、共依存っぽい感じがあったもんね

太郎:あー。

みなと:でも『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、初めてカヲルくんが出てきたのは回想シーンだと思うんだけど…なんて言うのかな、あそこでは既に、シンジくんにとってカヲルくんは客体化された存在になっていたのかなって。

松田:そうそう。QにおけるシンジくんはDSSチョーカーをはめられて困っちゃってて、カヲルくんに対してもすごく excusing やったやん。でもシンでは、あれだけ止められたのにそれでもエヴァに乗ったもんね。

みなと:それも、DSSチョーカーを自分から装着してね。彼はもう、必要であればそれを自ら選ぶこともできるようになってたわけで

松田:確かに。

みなと:それでシン・エヴァの話を松田としたときに言ってた、シンジくんがクルーに撃たれそうになっても乗るって言って聞かないあのシーンとか、あれはまさしく勇気の問題だなって。

松田:うんうん、それは間違いないね。

みなと:確信していることをやる勇気というか…誰になんと言われようと、それも引き受けた上でやる勇気というか、もちろんその結果何が起こるかは分からないんだけど、それでもやるという覚悟というか。あるいは中垣のよく言う言葉だと「確信」とか「信念」とかにも近いのかもしれないけど。

松田:うんうん

みなと:それを表すのに、個人的には勇気っていう言葉がしっくりくるんだよね。

Source: commmon

c 「Aを選ぶ人生じゃなくてXを見出す人生を選べよ」

みなと:で、最後カヲルくんは加持さんに促されるんだよね。「後は、彼に引き継いでもらってもいいでしょう」みたいに言われて、そうだねって言って退場していくっていう。

太郎:うんうん。

みなと:あそこはなるほどなと思えたし、すごく分かりやすいシーンだなって。

松田:うーん、でもそうやね。てかさ、そう思うとQのシンジくんは結構やばかったよね。あと一歩でカヲルくん沼にはまって、不可逆に闇堕ちするとこやったもんね。

みなと:そうそう笑

2021年11月6日
commmonの部屋


HeaderImage: 株式会社カラー khara inc.official / YouTube

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で孤独になったシンジに優しく接し、仲を深めた渚カヲル。シンジと共にエヴァ第13号機に乗り、フォースインパクトのトリガーとなった際、13号機の覚醒を検知したDSSチョーカーの作動により死亡した。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のマイナス宇宙のシーンではその出自が明かされた。何事にも秀でて優しいカヲルは、シンジにとって保護者としての理想の人物像であった一方で、そのエゴイスティックな庇護はシンジを骨抜きにしてしまう。カヲルの死のあと、シンジは真の強さを獲得する。