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ことば 思索

「自分は姿勢が悪い」と思ってるやつはなんなの?

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松田:姿勢の話しとこか。

中垣:はい。

松田:姿勢ってさ、「姿勢がいい」「姿勢が悪い」って言うやん。これって結構特殊やと思うねん

中垣:うん。

松田:つまり、人の姿勢を言語的に指示しようとしたら、価値判断をもってするしかない。前判断的に姿勢を認識することはできないねん。

し‐じ【指示】(シシとも)

①それとゆびさし示すこと。
②指図すること。「―に従う」

Source: 新村出編(2008)『広辞苑 第六版』岩波書店

中垣:あー、「あの人の姿勢は75°タイプ」みたいなのがないってこと?

松田:そうそう。「彼はstraightだ」とか「彼はbendedだ」とかがないわけ。

英語で言いたいのならuprightだぞ

pos‧ture
/ˈpɒstʃə $ ˈpɑːstʃər/ ●○○ noun

1 [countable, uncountable] the way you position your body when sitting or standing
good/bad etc posture
Poor posture can lead to muscular problems.
her upright posture

Source: LONGMAN

中垣:そういうことね。

松田:これって結構特殊やと思うねん。もちろん似た例としてはさ、頭がいい/悪いとかもあるねんけど…

中垣:でもそれはそういうものやん。長さの長い/短いと一緒で。

松田:そう、定量的なものやからちょっとちゃうねん。でも姿勢のいい/悪いは、事態の客観的な認識とそれに対する判断が不可分になってて…だからまあ、自分は姿勢が悪いと思ってるやつは頭がおかしいって話やねんけど。

中垣:あー、なるほどね。理解した。

松田:まあこれやとまだ言葉が足らんから、もうちょっと丁寧に説明したいねんけど…

中垣:例えばさ、性格とかならいい/悪いとも言えるし、穏やか/激しいとも言えるやん。

松田:うんうん。

中垣:もちろん賢さとか長さみたいに定量的な評価しかできないものもあるんだけど、定量的にしか評価できないものは、そもそもそういうものとして規定されているものがほとんどで…

松田:そうそう。

中垣:でもなんで姿勢はいい/悪いしかないのかが問題で、それは結局、「姿勢はよくあるべきである」っていうのが前提としてあるわけやんな

松田:だからさ、自分の姿勢が悪いと認識したらその場で直せよって話やねん。姿勢って自分だけで完結してるし、秒で直せるやん。もちろん24時間ずっといい姿勢であろうと思ったら簡単ではないかもしれんけど、今この瞬間にいい姿勢になることは簡単やん。どういう状態がゴールかは分かってるし、そのために何をしたらいいかも分かるやん。

中垣:あれでしょ、自分の姿勢を悪いと呼ぶのなら直せよって話やし、そうは思わないのであれば悪いとは言うなよってことやろ?

松田:まあそういうこと。

中垣:それって姿勢の形容がいい/悪いしかないだけで、ただの言葉遊びな気はするけどね

松田いやー、そんなもんじゃないよ。そういう表現をするってことがどういうことなのか、みんな分かってないねんって。

言霊方面にスピっちゃいそうで危なっかしい

中垣:つまり自分は姿勢が悪いと思ってるやつって、自分の姿勢が世間的に悪いとされるとは知っているけど特に気にしていないというか、「姿勢が悪い」だけであって、姿勢が自分にとって「悪い」のではないわけやん。

松田:そういうラベリングしかないってことやろ。

中垣:うん。そういう話な気がする。

松田:まあ難しいところでさ、それを指示する言葉がいい/悪いしかないから、言葉にしようと思ったらそう言うしかないっていうのはそうやねんけど、一方で例えば、辞書でgetを調べたらいろんな意味が出てくるわけやけど、それは便宜的なものであって、あくまでgetはgetであるっていう見方もあるわけやん

中垣:え、どういうこと?

松田:同じgetでも意味内容にグラデーションがあるから、それらを分類してgetには複数の意味があるとすることはもちろんできるんだけど、でも、あくまで言語的なラベリングは同じなんだから、それらは全部同じものであるっていう見方はあり得るやん

例えばWikipediaで「多義語」の項目を見ると、全く異なる意味を持つ語として漢字の「経」が挙げられ、
・縦糸(用例:東経、経緯)
・治める(用例:経営、経済、経綸)
・平常(用例:経常)
・通る(用例:経由、経過)
の四つの例が出ているが、この四つだって大概同じニュアンスだし、やっぱり経は経だろって気持ちになる。

中垣:あー、はいはい。分かった。

松田:だから自分の姿勢を悪いと表現することは、潜在的にであれそれに対するネガティブな評価を伴わずにはあり得ないじゃないかって

もし、これはよくないと頭では思っていながらそれが実際に行動に反映されていないとすると、それを放置しておくのは自身の人生に対しての効力感を損なうから、意識して避けた方がいいってことが言いたいんじゃないかな。

中垣:え、でもgetはあくまでgetって、そういうことじゃなくない? いろんな使用例があるけど何かしら同じニュアンスがあるってことやろ?

松田:そうやで。だからいい/悪いって言っている以上、意識されなくてもそこには判断的な態度は含まれているんじゃないかって。

中垣:同じ言葉でもいろんな意味を持つって話やと、getみたいに似たニュアンスの意味がたくさんあるタイプもあれば、coolみたいなタイプもあるやん。「やばい」とかと同じで、元々の意味が逆転しちゃってるタイプのさ。

松田:あー、はいはい。

中垣:coolって元々「冷めてる」みたいな意味やのに、逆にhotの意味で使われて「かっこいい」みたいな意味も持ってるわけやんか。

松田:あー、なるほどね。

中垣:元々は「イケてる」って意味のときはhotって言っててんけど、それを逆にcoolって言い出したのがその意味の始まりやねんな。

うーん、まさにcool

松田:はいはい。

中垣:そういうのってよくあるやん。日本語の「やばい」もそうやし、英語でもnoって言ってyesを表現することもあるし。

松田:あー…

中垣:それはgetとかhaveみたいな、基本的な動詞やからいろんな意味を含んでいったっていうのとは違うやん。そういうひとつの方向性を持った意味のファミリーじゃなくても、いろんな意味を持つ言葉っていうのはあるわけやん。そういうタイプやと、coolはcoolとは言えなくない?

松田:なるほど…でもさ、hotがcoolで置き換えられるのってまあ分かるねん。だって全く真逆の意味やからさ。

中垣:うん。

松田:それって要はさ、Aとそれと背反なĀは記号的には同じと言っていい…つまりAって言ったときにはĀが暗示されていて逆もまたしかりであるみたいな話で、coolを裏返して使うのはcoolの元々の意味ありきなわけやから、coolに全く方向性の違う別の意味が付与されているとは言えないんじゃない?

中垣:あー、まあまあ。

松田意味の正負が逆になってるだけやからさ

松田:…ていうかこのテーマ、ちょっと扱いづらいな。

全員思ってた

中垣:まあまあ。とは言えたぶん、「自分は姿勢が悪いんだよな」って思いながらほんまに直そうと思ってるやつってそんなにいない気もしていて。

松田:うんうん。

中垣たばこは身体に悪い、とかと一緒なんじゃない? 悪いっていうのは知ってるけど、別にやめる気はないみたいな。

それで言ったら身体に悪いという認識があるかはともかく、積極的な理由を見出していないのに吸い続けているとしたらそれはやめた方がいいんじゃないかな。

松田:うーん、でもたばこはよくないって言ってもさ、それとトレードオフな積極的なよさはあるやん。かっこええとか休憩の口実になるとか…

中垣:確かに。まあそれも分かるけど…でも全面的に悪いと思っててもやめる気はない、みたいなのもあるんじゃない?

松田:そんなんおかしない?

中垣:どうなんやろ…でも姿勢が悪いのは楽やで。

松田:まあそうやな。それはそう。

中垣:だからまあ普通の話なんじゃない?とは思うけどね。

松田:うーん。

中垣いやでもどうやろ、おれは姿勢がよくないけど、そもそも自分にとって姿勢が主題にはならないというか、別に自分は姿勢が悪いとか言わへんし…

松田:そうそう。

中垣:もちろん自分の姿勢がいいと思うかって聞かれたら悪いって答えるけど。だから、もし自分の姿勢が悪いと思ってるやつがいて、わざわざそれを自分から言い出したら、それはちょっと変かもしれへん

そいつはもっと手前の段階で変なやつな気がする

松田:なんでこの話をこんなに言うかって、おれ高校生のときめっちゃ姿勢悪かってんやんか

中垣:あー、そうやんね。

松田:おれそのときは自覚なかってんけどな。

中垣:歩き方がヤンキーやったもんね。

松田:そうやんな。で、高校の先生に言われて気付いてん。「松田お前ヤンキーみたいやな」って。あ、ほんまに?とか思って、ほんでガラスの横通るたびに見てみたら、確かに結構ひどかってん。

中垣:ほんまにひどかったよね。

気付いてたんなら教えてほしかった

松田:ほんでおれは意識して直してんな。で、姿勢いいよねって言われることが今もたまにあるねんけど、その度におれはむかついてんの。中垣だってさ、「いい大学出ていい会社に入ってて羨ましいな」とか言われたら、それはちょっとむかつくやろ。

中垣:あー、なるほどね。分かる分かる。

松田じゃあてめえもやれよ、って。

中垣:なんていうか、「ちゃんと育ちがよくて姿勢がいいんだね、でも私はそうじゃないんだよな」みたいな…

松田:そうそう。

中垣:「いや、自分で努力したことやし」って。もしその評価軸にコミットするのならお前もそれを目指すべきやし、それに興味が無いんなら姿勢いいんだねとか言うなよって話

松田:そうそう。この話の始まりはそこやねん。

中垣:そういうことね。

松田:とりあえずのところ、今回の話はそういうものとして着地させといて。

中垣:まあね、マジレスしちゃうとただの日常会話やねんけどね。

松田:とは言え「中垣くんはアート系なんだね」とか言われたら、それはやっぱムカつくやろ

c サラリーマンの矜恃なんかより大事なこと

中垣:まあそうやんな。

2020年7月3日
Aux Bacchanales 紀尾井町