松田:このあいだ、本屋に欲しい本がなかったからブックオフに行って適当に代わりの本をディグるっていうのをやってんけど、そのときに
中垣:はいはい。
松田:で、
中垣:笑
松田:ほんで、大学で哲学やってる他の先生達にその質問に答えてもらうっていう。
中垣:はいはい。
松田:その本が結構えらかってん。
中垣:はいはい。
松田:で、その質問の中に「
好きになることは、他者から与えられた規範性や価値に受動的に従うのではなく、自分で価値を定めることだし、自分の世界を作り、世界に自分だけのくさびを打ち込むことだ。好きになる対象にはこの世のほとんどすべてのことが含まれる。
Source: 野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社
松田:…っていうくだりがあってんな。
中垣:ほー。
松田:
中垣:確かにええな。
みんなもくさび打ち込んでる?
松田:これと似た話として「好き」について前々から思ってたことがあるねんけど、
中垣:はいはい。
松田:なんでかって、パートナー同士の関係性においてはお互いが相手を好きになったということが、そもそもの始まりであり前提なわけ。で、
中垣:うんうん。
松田:だからこそ、
中垣:うんうん。
松田:まあちょっと話がずれたけど、さっきの「くさびを打ち込むこと」っていうのにしても、
中垣:うんうん。
松田:好きって思ったら、それはもう好きやねん。
中垣:そうやんね。
松田:だから自分はこの不可侵な気持ちを軸に生きていきたいと思ったんだけれど、やっぱりそう考えると、
c 不誠実な中流根性
中垣:そうやなぁ。でも世の中の好きって大体そんなもんやしね、むずいけどね。
松田:まあそれは思ったよ。前に河東も言ってたやん、
c 上には上おり過ぎ
中垣:あー、そうそう。まさにそうやし、おれが音楽好きなのも、聴き始めた頃のそれはワナビーでしかなかったし。
wan‧na‧be /ˈwɒnəbi $ ˈwɑː-/ noun [countable]
informal someone who tries to look or behave like someone famous or like a particular type of successful person, because they want to be like them – usually used to show disapproval
Source: LONGMAN
松田:うんうん。
中垣:だからこの話では、きっかけがワナビーなのを否定はできないとは思うと。というかむしろ表現が間違ってるだけで、高校のときのおれは少なくとも音楽を詳しい自分にはなりたかったわけで、その
松田:なるほど。
中垣:で、前から洋服って特殊やなって思っててんけど、
松田:あー、はいはい。
中垣:「音楽が好きです」って言おうと思ったらワナビーだけでは通用せえへんねん。知識として詳しくないといけないし…っていうのがあるやん。
松田:うんうん。
中垣:まあほんまはそうじゃないねんけど、そう思っちゃうやん。でも服好きはワナビーでしかないねん。
松田:なるほどな。
松田の最近のワナビー
中垣:そうそう。
服は人に着用されることを通して、それを着る主体にとっての客体としてだけでなく、同時に自身と一体不可分な主体の一部としても現れるという点に、その特殊さがあります。
松田:確かにね。
中垣:
松田:でもそれを言い出すと、おれは別にワナビーじゃないねんけど服は好きみたいなところがあるねんな。これがこういうものとして好き、みたいな。
ステッチの感じが好きで買ったけど一回も履いていないギャルソンシャツのパンツ…
中垣:まあそうやな。
松田:でもワナビーだけでそれはもう服好きと言っていいんだ、みたいなところには完全に同意するな。
中垣:うんうん。
松田:音楽に関してはワナビーと好きとはちょっと違うもんな。そういう人になりたいだけって感じあるよな。
中垣:そうやねん。だからそこでやねんけど、
ロールスロイス乗りたいパークマンション住みたい!!!
松田:はいはい。
中垣:ここで植竹のご登場やねんけど、あいつはワナビーでしかないわけ。ワナビーのくせに音楽を好きになろうとしてるねん。
松田:あー、はいはい。多分あれちゃう? その線でいっちゃんえらいのは『モテキ』の監督の…
中垣:
松田:そうそう。狙ってんのかは知らんけどさ、
大根監督が雑誌のデート連載で学んだ“女子との会話”のコツ – 文春オンライン
文中で言及されてるPOPEYEの連載、好きです
中垣:あー、分かる分かる。
松田:その辺結構アレやねんけど、それを素直に受け入れてるからさっぱりしてるというか。
中垣:うんうん。やっぱりさ、
松田:そうやんな。ワナビーを認めるとそうではない自分が矮小化されちゃうから、ワナビーを認める前提には自分に対する絶対的な確信が必要やんな。
中垣:あー、そういうことそういうこと。
松田:うん、そうねそうね。
中垣:でも本来ならばワナビー期間ってめちゃめちゃ長くて、
松田:うんうん。
中垣:まあ藤井聡太とかは知らんけど。
松田:笑
中垣:
松田:はあはあ。
中垣:前の河東の話を読んでるときもそのことを考えててん。「1920年代の作家は天才的で今の作家はクソだ」とか言ってる主人公が時代をどんどん遡ってくっていう話やねんけど、どこまで遡ってもみんな「この時代はクソだ」って言ってるっていう…
ミッドナイト・イン・パリ(字幕版) – Prime Video
松田:はいはい。
中垣:
人生の線グラフにおいて最も重要なことは縦軸の値ではなく、任意の地点で微分した際の値が常に正であることだと思います。
Source: commmon
c 上には上おり過ぎ
松田:うんうん。
中垣:
松田:でもそうやんな。好きっていうのは不可侵な気持ちだっていうことを考えてたときに、同時に
中垣:ほうほう?
松田:思想犯とかってさ、やめろと言われてやめられるもんじゃないわけよ。本人はあかんことしたなんて思ってへんし、なんならそっちの方がいいと思ってるわけやん。こういうのを良心の囚人って言うねん。
中垣:うんうん。
松田:みたいなことも考えるに、
中垣:はいはい。
松田:ワナビーもそういうことやん。とにもかくにもおれはあいつが羨ましい、ああなりたいって思ってるわけやん。思ってるもんは思ってると。
中垣:うんうん。
松田:ここで言う「なりたいと思ってる」っていうのは、ロジック詰めてとかじゃないわけよ。
中垣:うんうん。むしろ確信しかない、だって思ってんねんもん。
松田:そうそう。
中垣:
“The hardest thing to explain is the glaringly evident which everybody has decided not to see.”
– Ayn Rand, The Fountainhead
Source: Ayn Land(2005)『The Fountainhead』NAL
松田:そう、難しいことではないはずなんだけれども…なかなかね。
c 人生の蓋然性
中垣:まあとにかく植竹はさ、「中垣、〇〇って音楽知ってる? あれ超イケてるんだよ」とか言わずにさ、
松田:そうね笑
中垣:なーんか小賢しいこと言ってきて、常に「え、おれの方が詳しいよ?」みたいなことをやってるから…
植竹ごめん
松田:
中垣:そういうのやめたらいいのにとは思うねんけど、まあでも自分も結構そうやったし、なんとも言えないけどね。
松田:笑
2020年8月14日
Aux Bacchanales 銀座
ファッションスナップを15年にわたり掲載し続けている『The Sartorialist』からの一枚。ファッションスナップを紹介するブログのパイオニアであり、写真集として書籍化もされている。同ブログを運営するフォトグラファーのScott Schumanは2009年に、TIME誌による「世界で最もデザインに影響を与えた100人」の一人にも選ばれている。
『The Sartorialist』のページをめくりながら「あれ、この格好ちょっとしてみたいかも…」と思ったそのとき、それこそがまさに自分の中の服好きが頭をもたげた瞬間なのです。