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howより大事なwhy

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松田「なんで?」って聞くとき、その内容はwhyの場合とhowの場合があるって話やねんけど…

中垣:うん。

松田:例えばさ、前にもみちゃんが来たときに「なんでこんなことしてるの?」って言ってたけど、あれはwhyというよりむしろhowだったなと思うわけ。

c STATEMENT

中垣:はいはい。

松田「なんで?」って、一見すると動機が問題になってるわけやん。whyやん。

中垣:まあそうやね。

松田ただ普通、人は行動するにあたって明確に動機を意識するわけではないやん。判断のための基準や価値観っていうのはかなりの部分が内在化されていて、それを無批判に適用することで、認知資源を節約してスムーズに行動を選択している部分があるわけやん。

c ダニエル・カーネマン(2014)『ファスト&スロー』早川書房

中垣:うんうん。

松田:例えば「なんで転職するの?」っていう質問の場合、その答えは「コンサルはもう3年やったし、今度は事業会社でもっと手触りのあることをやろうかなと思って」とかなわけやけど、ここでは職をホッピングしてサラリーマンとしてのスキルを獲得して成長していくという価値は内在化されていて、それをどのようにして実践するか、達成するかのみが問われていると思うねんな

「コンサル飽きたわ。国際機関でグローバル企業の規制考えたいわ」とかが聞きたいの

松田:もちろんwhyとhowの境界は必ずしも固定的なものではないから、コンテクストが明確な、つまり共通の所与の価値がある状況では、さっきのやり取りをもってwhyが問われていると理解することもできるんだけど…

why how what ゴールデンサークル
Image: DISRUPTIVE ADVERTISING

Why, How, What, In That Order: Using The Golden Circle To Improve Your Business & Yourself – DISRUPTIVE ADVERTISING

中垣:あー、はいはい。なるほど確かに。

松田:whyの意味で「なんで」が使われるときって、もっと内的な動機までが問題になり得るんだけど、世間的にはそんなことが主題になることはほぼなくて。

中垣:うん、理解した。

松田:まあこれだけで理解されるとコンテンツにならないんで、もうしばらく話は続けるんですけど…

中垣:笑 なんかスケベ質問に近いなとは思うね。「なんで」っていう一見すごくニュートラルな疑問詞に、いろんなことを託し過ぎというか。

松田:うんうん。

中垣:確かにそうやな…whyそのものではなく、それをどう実践しているかを聞いている、そんな気はする。そうやなぁ。

松田:おれは「なんで」って聞かれたらwhyをきちんと説明しようとするねんけど、たぶんみんなが聞きたいのはそこじゃないねん

「どうやって食べていくつもりなの? こんなことしててお金になるの?」って聞きたいんでしょ

外から見れば、あいつはいい気なやつだと思われたりする。だが見えない裏での絶望的な闘いはきびしい。言いようがない。しかし貫くのだ。  
もちろん怖い。だが、そのときに決意するのだ。よし、駄目になってやろう。そうすると、もりもりっと力がわいてくる。
食えなけりゃ食えなくても、と覚悟すればいいんだ。それが第一歩だ。その方が面白い。

Source: 岡本太郎(2017)『自分の中に毒を持て』青春出版社

中垣:それこそ「なんで転職するの?」って聞かれたとき、確かに「~だから」って言えば話は終わるねんけど、相手が期待してる答えは…ちゃうよな。うん、すごい分かる。

松田:「なんで転職するの?」って聞かれたら、みんなが答えるのはhowについてやねん。でもそのhowが奉仕しているサラリーマンとしてのステップアップっていう価値は、内在化されているだけで決して所与のものではないねん

中垣:はいはい。

松田:野矢茂樹のキッズの質問本あったやん。あれで「なぜ生きてるんだろう」みたいな質問があってんな。

野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社
Image: Amazon.co.jp

野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社

c 「好き」の不可侵性とワナビー

中垣:はいはい。

松田:それに対する答えで、人生は全体であって、それに目的や理由はないって言ってるねんな。

「生きている」ことは、「学校に通う」ことや「勉強する」こととは違って、それらも含めて、ありとあらゆることを包み込んだ一つの全体です。だから、その全体(生きていること)の外側に、別の何らかの目的や理由を探すことなんて、できない相談なのです。

Source: 野矢茂樹編(2013)『子どもの難問』中央公論新社

中垣:はいはい。

松田:これはもっともやん、人生が主題ならそれでいいねん。別に人生に意義も動機もクソもないから。それは完全にhowの問題やねん

c 人生の意味ってなんなん

中垣:そうやな、それはその通り。

松田:ただもっと日常的な身の振る舞いの話になると、そこではむしろwhyの方が大事なのに、それが既に与えられているものかのように想定して、howだけを追求している人が多いんじゃないかなって

中垣:そうやね。なんか「なんで」にいろいろ託し過ぎな気がするな。「なんで転職するの?」って聞くとき、実際に聞きたいのはwhyじゃないやん。なんて言うんやろう、お前の転職前後の状況が、もしおれにとってうまみのあるものなら教えてくれたまえっていう、それだけの汚い話を「なんで」に託してるっていう。

松田:うん、それもそうやな。

中垣:でも「なんで」って往々にしてそういうふうに使われへん? 🦒が上司に詰められたときの「なんでこうしたの?」っていうのも、whyじゃないよね

c 新卒即リモートはほんまあかん

松田:あー、そうね。

中垣:こんなやり方してくれやがって、と。お前がどれだけアホか確かめてやるからおれにその背景を教えろ、っていう意味での「なんで」やん。

松田:そうねそうね。

中垣:でもなんかさ、正確な言葉を使うのってすごい大事やし、同時に結構むずいなと思うねんな。

松田:はいはい。

中垣:特に「なんで」ってかなり慣用的に使うから、自分では気付かないことも多々あるし。

松田:しかもさ、『影響力の武器』の「だから」の話と同じで「なんで」も、それを使うことで話が理路整然としているかのように正当化されちゃうから、なおのこと濫用されるよな。

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』
Image: Amazon.co.jp

ロバート・B・チャルディーニ(2014)『影響力の武器』誠信書房

中垣:うんうん。

2020年8月21日
Aux Bacchanales 紀尾井町


HeaderImage: TED

motivational speakerのサイモン・シネックによるTEDのスピーチ。「何のために」から始めることを説くゴールデンサークル理論を、アップル、マーチン・ルーサー・キング、ライト兄弟らを成功例として挙げながら説明している。