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ことば 思索 食事

ご飯はセックスと同じだと思う

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松田:なんかさ、外で食事してるとセックス見られてるみたいな気持ちにならへん?

なつき:笑

松田たぶんおれにとっての食事って、セックスと同じくらいプライベートなものやねん。だから他人と食事するのも基本的には好きではない。食事はこう、かなり個人的で一般化できない体験であるというか…どう?

c 僕らが好きなのは一般化可能性の高い体験です

中垣:まあ言ってることは分かるよ。

松田:理屈の上では一応のところ言えそうなことではあるやん、でも結構まじでそう感じてるねん。

中垣:程度問題ではあるよ、1%くらいなら分かるけど…

匿名:人目を気にせずに食らいたいってこと?

松田:いや…うーん、というより味覚は一般化可能性が低い点が問題だというか、なんぼ美味しくてもその味覚体験はおれにしか分からないわけで、そういう前言語的な経験、一般化できず共有し得ない経験がパブリックな場に晒されているっていうのが気持ち悪い

同じ理由で自分の見た夢の話をする人が超嫌いです。夢を見た人にとってそのリアリティは100中100である一方、その話を聞かされる人にとっては、夢の内容がどうであれそのリアリティは「彼/彼女がそう言っている」以上のものにはなり得ません。そのためそれを話題にあげることは、全く不誠実であり非生産的です。

中垣:うん、理屈はまあ分かるよ。

松田:理屈はでしょ。

中垣:「給食とかどうしてたんかなこの子…」とは思った。

松田:ただ一方でな、赤坂のエイトで食うチャーハン、あれは別にいいねん。あれはそもそもが乱行パーティーやねん

化調ドバドバの大盛りチャーハンが300円でいただけるお店があってですね…

中国茶房8 (エイト)赤坂店

匿名:笑

中垣:絶対それ言いたかっただけやん笑

松田:あれはさ、みんながみんな化調まみれの味覚のEDMを享受してる感じで、そういうコンセンサスもあるやん。だからエイトはまあいいねんけど、松屋でシンプルに朝食とか食ってるとき、あれはまじで早く帰りたいと思ってる。いつも思ってる。

中垣:あー…それはセックス見られてるみたいな感じがあるってこと?

松田:そうそう、「すんませんこんなとこで食事なんてしてて…」って感じ。青姦っぽいよ。

なつき:二郎も乱行パーティー?

ラーメン 二郎 三田本店
Image: Wikipedia

東京飲食シーンのコカイン

ラーメン二郎 – Wikipedia

松田:あれもそうやね、みんなキメてるって感じ。

中垣:なつきはどう? その感じある?

なつき:うーん…まあ今の話で言うと、欲を満たすみたいなことをパブリックな場でしたくない、人前で寝るのが憚られるみたいなのと同じことなのかなって

松田:まあそうやね。あるいは例えばドレスコードのある店での食事、あれは仮面舞踏会やで

中垣:あー…

松田:一丁前にかっこつけながら、感覚的に快なインプットのことを考えてるねん。

中垣:…確かに、なんかちょっとありそう。

松田:でしょ?

匿名話自体はやたらしっくりくるんだよな笑

中垣:理解はすごくできてるねん、できてるねんけど…どうやろうな、食ってて恥ずかしいか。

なつき:それはあれなの? マナーとかを見られるのが恥ずかしいって話ではないの?

松田:全然ちゃうよ。もっと生々しい、晒したらあかんもんを晒している感じがあるねんって。裸でおるみたいな感じやで。

中垣:まあ恥ずかしいっていうのは分からへんけど、その気持ち悪さは分かるかもな。自分の「美味しい」がこの公共空間のどこに位置付けられるかがよく分からへん感じはあるな

松田:そうそう。マナーが気になるみたいな、そういう話は特にはないかな。

どうでもいいけどご飯食べるのに靴履かなきゃいけないの絶対おかしくない? どちらがよりファンダメンタルかという観点からは、ご飯のために服着なきゃいけないのは主従関係が逆転してると思う

中垣:おれはそれもある…けど、逆にちょっと嬉しかったりするねんな。「今この場で一番美味しいと思えてるのはおれ」みたいな。

松田:あー、まあそうやね笑

匿名:一番美味しい? どういうこと?

松田:「お前らはしょうもないこと気にしてて、目の前の料理にフォーカスできてへんやろ?」みたい話でしょ。

中垣:そうそう。

匿名:あー、ならおれは美味しく食べられてないな。

松田:おれは味覚体験を追求するあまり手で掴んじゃうまである。そっちの方が幸せ。

匿名:そっか、おれは松田みたいな人に負けてるんだな。

松田:笑

中垣:でも確かに、少なくとも食事をすることが想定されている場所じゃないと、食事をとるのって恥ずかしいよね

松田:そうそう。コンビニのイートインスペースとかってそういう危うさあると思うねん。

中垣:そうやんね。おれも前の常駐先におったとき、オフィスビルの地下にあるコンビニの前の通路で、なんかポストがあったからその上に買ったもん置いて立ったままおにぎり食べてたけど…

松田:それはたぶん、もっと手前の段階で恥ずかしいやろ。

匿名:笑

中垣:あれは結構恥ずかしかった。そこで変なことをしている恥ずかしさもあるねんけど、それ以上に飯を食ってること自体の恥ずかしさがあったね

松田:まあでもそういう話やと思う。あとは電車の中でパン食ってると恥ずかしいとかね。あれも食事っていうことが特にポイントやと思うねん。

中垣:あー、そうやね。

松田:あの感覚を、おれは普段の食事でも結構感じてるねん。

中垣:しかもさ、じゃあ電車でみんなが何か食ってたら恥ずかしさが軽減されるかと言うと、それはそれで違和感があるよね

松田:そうそう。

中垣:それこそなんか乱行パーティーっぽいよね。確かにな…

匿名:飛行機とかは?

中垣:まあ飛行機のご飯はわりとそういうのを感じにくい内容やし…

松田:あとはさ、機内ってそもそもの時点で制約が多過ぎて、「いろいろとまあしゃあないやん?」っていうコンセンサスが暗黙のうちに取れていると思うねんな。言い出したら機内で寝てええんかとか、靴脱いでええんかみたいな問題もあるわけで、そこはもう全部ひっくるめてしゃあないってことになってるんやと思うねん。

匿名:うんうん。

中垣:まあ飛行機でもちょっとは感じるかもな、あんま気にしたことはないけど。でもそう考えるとあれやんな、セックスというよりはトイレに近いかもな

松田:まあそうやね、生理的な欲求という話ではそうも言えると思う。

中垣:入れてるか出してるかが違うだけで…

こらこら

なつき:それで言うとさ、家族と家で食事するのってどうなの?

松田:おれは嫌いやで。まあそこはファミリーの紐帯みたいな話もあって一般的にはそちらが上回るんやろうけど、でもおれは家族であっても一緒に食事したくはないよ。

中垣:紐帯笑

松田:高校生のとき、休みの日に家族でダイニングを囲めるみたいなシチュエーションでも、一人だけリビングで食ったりしてたもん

なつき:それは反抗期とかじゃないの?笑

松田:ちゃうねん、なんかみんなで食ってるのが居心地悪かってん。

匿名:またやばエピソードじゃん笑

松田:前にすごい疲れてる日があって、そのまま家に帰っても、ちゃんと掃除して決まったやり方でシャワー浴びて寝るのは絶対に無理やな、ってなってんな。

中垣:はいはい。

松田:でもそれを守らないと部屋の秩序が崩れるわけ。

河東:うんうん。

松田:「どうしよう…」って思って、家から歩いて5分のビジネスホテルに泊まった。

中垣:笑

Source: commmon

c 強迫ピープルの生態

中垣:あとはなんかさ、電車で音楽を聴いててそれがハマっちゃったときとかも恥ずかしいよね。別に行動に現れるとかではないねんけどさ。

松田:あー、なるほど。

匿名:おれはそうなるのが嫌だから、そもそも電車で音楽聴かないな。

中垣:で、そこでちょっと気になるのが、クラブってどういうことなん?っていう。クラブに行って楽しいと思えるやつは、別に外で飯食ってても恥ずかしくないんじゃない?

松田:あー…まあ確かにあるかもな。

中垣私が食べててみんなも食べててハッピートゥギャザー…みたいな。

匿名:その例では、クラブで音楽にのるっていうのが個人的で生理的な体験ってこと?

中垣:そうそう。

松田:ただ一方でさ、クラブってみんな同じ音楽を聴いてるわけやん? それをどう経験するかは別にしてインプット自体が全く同じものっていう点は、さっきまでの話とかとはちょっとちゃうんちゃう?

中垣:あー、まあ確かに。でもじゃあ給食は?

松田:だから給食もそういうところはあるんちゃう? みんなが決まった時間に決まったもんを食べてるから、ある程度経験を一般化しやすいというか

匿名:分量とかも同じで、かなり機械的な感じはあるもんね。

松田:そうそう。パーソナルで一般化可能性の低い生理的体験っていう感じは軽減されそう。

中垣:まあでも確かに、クラブってパーソナルというよりは、むしろシェアしてる感じがあるもんね

松田:それで言うならサイレントディスコとかは、普通のクラブよりも危うさがあると思う。

サイレントディスコ 銭湯
Image: AFROMANCE

サイレントディスコって何が楽しいの? – AFROMANCE

中垣:あー、そうやねそうやね。そうなるとさ、前にご飯は一人で食べる方が美味しいみたいな話があったけど、人と一緒に食べる方が美味しいって人はクラブと同じ感覚なんかな? 自分と同じ美味しいっていう感覚を相手も持っているに違いないっていう…

c ご飯は一人で食べるのが一番美味しい

松田:「みんなも美味しいよなぁ?」ってね。

なつき:笑

中垣:なんかそれな気がするな。そして我々はそこが鈍いんやと思うよ。

c 他人に共感ができなくて困っています

匿名:それで言うとライブも無理だよね。

中垣:ライブも無理やで。…でも一概に鈍いわけでもない気がするな。今こうやって話してるのも、何かしらのポイントを移動しながら会話が展開していてそれが共有されている感覚が楽しいわけやけど、逆にこの感覚が無い人も結構いると思うねん。だからまあものによるとしか…

松田:やっぱあれちゃう? 感覚的なインプットと言語的なインプットのどちらにより感受性が高いのかみたいな話なんちゃう?

中垣:あー、まあそうなんかな。

松田自分の経験したインプットを一般化可能、つまり共有可能であると認識するにあたって、そこにどれだけ言語的な精緻さを必要だと思うかってこと

中垣:そういうことか。でもこれデジタルネイチャー的な文脈ではどうなん? 前言語的な喜びを共有可能なものとして認識できないのは弱みじゃないん?

松田:あー…まあ確かに。計算機群に任せた方がいい部分を、どうしても自分でやらないと信じられないっていう。

中垣:そうそう。

いやというより、「言語と現象、アナログとデジタル、主観と客観」の二項対立が存在しているからこそ我々は困っているわけだから、デジタルネイチャーによって「計算機と非計算機に不可分な環境を構成し、計数的な自然を構築する」ことで、なーんかしっくりこないんだよなァとか言って真面目にInstagramに取り組めない我々は、むしろ救われるんじゃないですかね。

デジタルネイチャーとは、生物が生み出した量子化という叡智を計算機的テクノロジーによって再構築することで、現存する自然を更新し、実装することだ。そして同時に、<近代的人間存在>を脱構築した上で、計算機と非計算機に不可分な環境を構成し、計数的な自然を構築することで、<近代>を乗り越え、言語と現象、アナログとデジタル、主観と客観、風景と景観の二項対立を円環的に超越するための思想だ。

Source: 落合陽一(2018)『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』PLANETS

落合陽一(2018)『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』PLANETS

2020年12月18日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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中国茶房8
HeaderImage: Uber Eats

都内には赤坂、六本木、新宿などに店舗がある「中国茶房8」。税抜き298円のチャーハンに始まり、ひたすらに安く価格にしては十分に美味しい()。
写真中央の料理は「ベルト麺」、見た目も名前も誰かに怒られそうなそれだが、やはり美味しい()。

中国茶房8 赤坂店 Chinese Café Eight Akasaka – Uber Eats