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人生 思索

【教えて舐達磨】おれはどうしたらよかったん?

4 years

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松田:舐達磨さぁ…

中垣:舐達磨ね、はいはい笑

なつき:その話はなんなん?

中垣:先週、舐達磨の話をおれがめっちゃしててん。最近ちょくちょく名前を聞いてはいたけど、それ以上にはよく知らなくて。

なつき:はいはい。

中垣:やねんけど、大麻吸いながらインスタライブをやってる動画がYouTubeに上がってるのをたまたま見て、こいつらまじかよとか思って。

なつき:笑

「朝からインディカ吸わねぇだろ普通。大丈夫かお前?」

中垣:で、それってすごいなって話をしてたの。世の中には、明らかに悪いことをやってて本人もそれを自覚してるのに綺麗に済ませようとする人達もいるけど、一方では堂々と大麻を吸ってるラッパーがいて、その対比がなかなか痛烈というか、こっちの方がよっぽどまともやんなって話をしてたのね。

c 市場原理の競走馬の話

松田:せやねん。彼らについて知るにつけ、中学生のときの、知らん制服の着崩し方してるやつを見てハッとなるみたいな気持ちになってんな。「それもありか…そうか、まあありやんな」みたいなさ。

中垣:うんうん。

松田:あの日あの後、彼らの動画を観ながら考えるところは多かったよ。まあひとつにはさ、ああいう文脈のジュエリーを身に着けたいという話があって、そのリファレンスにしていたというのもあるし…

c 持ってるジュエリー全部飽きました

中垣:はいはい。

松田:言うとくけど、彼らが着けてる金のネックレスってめちゃめちゃ重いからね。たぶん300gとか400gとか平気であると思う。

なつき:笑

松田:あとそういう興味に加えて、中垣がその話をした日の昼間、なんか電車で意味分からんやつに絡まれてちゃってて、そのことについても考えててさ…

中垣:あ、そうなんや。でも松田ってよくトラブるし、その度におれが謝罪してるよね。

松田:まあそう。

なつき:笑

松田:で、そのときは山手線で席に座っててんけど、そこが優先席やったのね。ほんで途中の駅で、杖ついた脚悪い風の…まあ40歳くらいのおっさんが乗ってきて、ほんで隣に座って、いきなりおれの脚を蹴りよったわけ

中垣:おお…

松田:だから「うわもう最悪やん…」とか思いながら、イヤホンを外して「なんですか」って聞いてん。そしたら彼は「お前の席じゃねえんだよ」って言うわけ。

中垣:あー、はいはい。

松田:まあそもそもが結構アレなやつやったというか…その彼はたぶん、脚が悪いということにすがって生きてきたせいで、いつの間にか超卑屈になっちゃったやつなんやと思うねん。自分は社会的に弱者であって、そのことで健常者に対してエクスキューズを請求する権利があると思っているというか

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
Image: Amazon.co.jp

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アイン・ランド(2014)『肩をすくめるアトラス 第一部 矛盾律』アトランティス
Image: Amazon.co.jp

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中垣:なるほどね。

松田:で、そのエクスキューズを寛大にも受け入れることで自身の慰めとしているような、そういう精神構造の持ち主やったと思うねん。

中垣 ピー やね。

松田:まあまあ、まあそういうこと。要は ピー ってことやね

中垣:笑

こらこら…

松田:で、最初は「そんなんどうでもいいんですけど、あなた蹴りましたよね?」「知らねえよ」みたいなやりとりをしててんけど、ヘラヘラしてるししらばっくれとるし、なんか途中から「でもやっぱ腹立つなぁ」とか思えてきて、それで立ち上がって正面に立って、相手の胸ぐらを掴みながら「ええ加減なこと言うてんとちゃうぞこら」とかやっとってん

みなと:笑

松田:相手もそういう感じになるとは思ってへんかったのか、顔を背けてこっちを見ようとせんねんけど、それも腹立つからその度に頭掴んで無理やりこっち向かして、相手が持ってた杖も蹴り飛ばしてその辺に転がってもうてて。

中垣:はいはい。

松田:まあとは言えさ、別に躊躇なくどつくとかそういう感じじゃないし、そんなことできるわけもないしで、最終的には相手が「悪かったよ」みたいなこと言うて、途中の駅で降りていって話は終わったのね。で、その日家に帰ってClubhouseで中垣から舐達磨の話を聞いて、やっぱりおれは躊躇なく手を出すべきだったんじゃないかっていう、逆良心の呵責に苛まれてたわけ

なつき:笑

松田:あそこでそれができたら新しい地平が開けていたのではないか、とは言えそれができた気はしないし…みたいな。

中垣:あー、なるほどね。

松田:しかもね、言うたら今の僕には失うものとかもないんですよ。何日勾留されても一向に問題ないわけ。

中垣:確かに。

みなと:笑

c 【助けてください大森さん】人生ドン詰まりなんですけど

松田:ただ実際にその場では「この山手線、新型車両やから防犯カメラ付いてるし、あのカメラ結構広角やったよなぁ…」みたいなことを考えててんな。

山手線に防犯カメラ、19日から – 日本経済新聞

なつき:笑

松田:あとは手を出したら出したで、相手は絶対に警察に行っただろうし、防犯カメラに全てが写っててSuicaの記録も残っているし、一瞬で身元が特定されるのもほぼ間違いないのね。

みなと:まあそれはそうだよな。

松田:それは、まあ避けられるものなら避けたいに決まってるやん。でもその後ニートtokyoのBicの動画を見て、そういう人生もあるのかとか思ったり…

「4〜5回くらいあったんですけど…全部傷害ですね」

中垣:笑 まあでも…やっぱり、長い目で見ると手を出すべきやったとは思うね

松田:うん。あそこで手を出すことの妥当性は、少なくともその場で自分が思っていたよりははるかに大きかったね。

なつき:それは、自分的にしっくりくるためにってことだよね?

松田:そうそう。あれはおれにとっての『ファイト・クラブ』が始まるかどうかの分かれ道やったね。でも始められへんかったわ。

中垣:確かにね笑

映画 ファイト・クラブ
Image: The Guardian

Fight Club at 20: the prescience and power of David Fincher’s drama – The Guardian

Fight Club (字幕版) – Prime Video

c 人生の蓋然性

なつき:でもさ、胸ぐらに掴みかかっただけで大概にすごいんじゃない? 別に普段そんなことしないでしょ?

松田:それはそうやねんけどな…

中垣:だから程度というよりは、最終的には踏みとどまったっていうところが問題なわけやろ

松田:まあそうなんかな。

みなと:ナイフで刺したいと思ったのに殴っただけだったみたいな、そういうことだよね。

なつき:あー、なるほど。

例が物騒過ぎる

松田:ただ…また一方で手を出したとしても、それについてどういう気持ちになったらいいのかはよく分からんよな。

みなと:まあ一時的にすっきりはするだろうけど、結構無責任な行動にはなるよね

Whatever may be open to disagreement, there is one act of evil that may not, the act that no man may commit against others and no man may sanction or forgive. So long as men desire to live together, no man may initiate—do you hear me? no man may start—the use of physical force against others.

Source: Ayn Rand(2005)『Atlas Shrugged』Signet

Ayn Rand(2005)『Atlas Shrugged』Signet

松田:もちろん一般的なことを言うとさ、こんなんかなり例外的なイベントやし無視するのが賢明だとは思う…というか、そういう例外まで織り込んで行動原理を設計するのって、コストの掛け方としてあまり賢くはないと思うのね。

中垣:まあそれはそうやんな。

松田:いやー、でもまじで分からんね。ほんまにどうしたらよかったんやろう

中垣:でもまあ…おれなら瞬発力で謝るよね。前に藤沢で松田が絡まれたときも、おれが代わりに一瞬で謝ったもん。

松田:あれはすごかったよな。「偉いわぁ…」とか思って見てたわ。

みなと:笑

中垣:それか commmon のステッカーを貼るのは? 「ふざけんなよ…ペタ」みたいな。

欲しい人は言ってくれたら差し上げます

松田:え、やば。

みなと:でも、そういうポジティブな方向に変えるっていうのはあるよね。

松田:なんかおれさ、卑屈なやつに恨まれることが少なくない気がするねんな。

中垣:うん、でもあると思うで。

松田:おれが誰にもエクスキューズをしそうにない顔をしてるのが、そういう人からしたら気に入らんのやろうな。もうちょっと申し訳なさそうな顔してた方がええんかな

“The question isn’t who is going to let me; it’s who is going to stop me.”

― Ayn Rand

Source: goodreads

Quote by Ayn Rand – goodreads

みなと:でも確かに、なつきが相手ならそういう絡み方する人っていなさそうだよね。

なつき:笑

中垣:だからさ、松田も『異邦人』読んどいてや。まじでそういう話やから

カミュ(1963)『異邦人』新潮文庫
Image: Amazon.co.jp

カミュ(1963)『異邦人』新潮文庫

c 一億二千万分の一の自分と、一分の一の自分

松田:うん、帰ったらすぐ読むわ。まあなんて言うんやろうな、おれの行動原理が負けたというか…行動原理にバグを見つけたって感じやねんなぁ

2021年3月21日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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舐達磨
HeaderImage: GQ Japan

埼玉県熊谷市を拠点とするラップグループ、舐達麻。メンバーのうちBADSAIKUSHとDELTA9KIDの2人は、金庫破りからの逃走中に警察とのカーチェイスになりその事故で仲間を亡くすなどし、少年院や刑務所に入った過去を持つ。
また大麻を吸っている様子をインスタグラムのライブやストーリーで日常的に配信しており、先述の2人は大麻取締法違反での逮捕歴もある。

4組のインディーズ・アイコンが登場!──まつろわぬ者たち【舐達麻編】 – GQ Japan