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思索

社会はn-1人による集合ではない

自分のみが疎外された全体を措定するという、社会を主題にするとき陥りがちな罠について言語化を試みます。

1 year

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なつき:留学してすごいよかったと思ってることがひとつあって、向こうの授業ですげえ強調されたんだけど、「君達は社会を変えられるから、大学での勉強を頑張ってほしい」って、教授がずっと言ってんの。

松田:へー。

なつきエンパワーメントする感じというか、学生たち頑張れよっていう雰囲気があって、それがすごいよかったなって。そういうことを日本の大学で言われる機会ってまあないじゃん。

松田:それは確かにいいな。

なつき:で、このあいだTwitterで見たんだけど、各国の調査で、「世の中を変えられると思っていますか」って質問に対して、欧米諸国では60%とか、高いところでは80%が「はい」って答えているんだけど、日本と韓国は…日本が18%で韓国が25%だったかな。

18歳意識調査 国や社会に対する意識
Image: 日本財団

日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査) – 日本財団

中垣:へー。

なつき:なんか、日本では若者が世の中を変えられると全然思ってないんだなって。その理由が何なのかはちょっと分かんないんだけど、でも確かにおれの周りの学生を見る限り、世の中を変えられると思ってるやつはちょっと変なやつなんだよね

中垣:確かに。

なつき:なんて言うか、意識高いと言われちゃうような感じ? だけど、例えばベジタリアンやってるような人って、ベジタリアンをやることで地球温暖化の防止とかに自分が貢献できると本気で思ってるんだよね。まあそれが正しいかどうかは別として、信じて行動に移すっていうのは、すごくなんか尊敬できるなって。

松田:はいはい。

c 「エコ」的なことへのみんなの疑問

なつき:で…世の中変えられると思っていますか、みなさん?

中垣:うーん…

なつき:もうちょい言うと…『現代思想の冒険』だっけ、あの本の中で、思想上の問題として社会の捉え方を考えたときに、例えばおれが捉えている社会のあり方は中垣のそれとは全く違うから永遠に共有し得ないって考え方もあれば、何かしらこう、同じ捉え方をし得るっていう考え方もあるって言っていて。

竹田青嗣(1992)『現代思想の冒険』ちくま学芸文庫
Image: Amazon.co.jp

竹田青嗣(1992)『現代思想の冒険』ちくま学芸文庫

なつき:で、絶対に相容れないっていう考え方の下では社会は変えられないってなるけど、そうじゃなくて、何かしらお互いに理解し合えることがあるんじゃないかっていう考え方の下でこそ、社会は変えられるんじゃないかって言ってて。

なつき:そういうのを踏まえて考えた結果、中垣は社会を変えられないって思ってんだろうなって話なんだけど笑

中垣:あー、なるほどね。でもそれは全然逆で、それこそ今言った、何かしら共通部分を見出せるかどうかについて前に建築の同期と揉めたことがあるねん。おれは何かしら共通の見方ができるはずだって言ってんけど、「それはエゴだよ」って言われてすごい揉めてん。だからおれは全然、変えられると思ってると思うで。

その内容がなんであれ、ある主題に対する立場の相違について揉めている限りにおいて、共通の見方を見出し得るという前提に既に立っていると言えるんじゃないでしょうか。

松田:まあさ、変えられると思っているかはともかくとして、相手を理解しようとするスタンスは中垣だってあるよな。

中垣:そういうスタンスやで。今まではこっちの言うことを理解させようというスタンスやったけど、最近ようやくそっちにスイッチできた

東山紘久(2000)『プロカンセラーの聞く技術』創元社
Image: Amazon.co.jp

東山紘久(2000)『プロカンセラーの聞く技術』創元社

c 『モモ』をきっかけに考える、一般化できないこころの話

松田:いずれにしろ、他者理解は原理的に可能やと認識してると。

中垣:そうそう、そこは信じてる。ただ社会を変えられるかどうかっていう話になると…社会を変えたいとは別に思ってない

松田:あー。

中垣:まあ分からへん。他者との間に共通の理解を見出そうとするのって結局社会を変えるってことじゃね?って言われると、それはそうかもとも思っちゃう。

なつき:変えられるけれど、変えたいとは思ってない?

中垣:まあそうね。変えたいと思ってないから、そもそも変えられるということを意識したこともないけど…社会を変えられるのならそれはよろしいんだけど、それよりもまず自分が幸せになりたいっていうか

松田:もうちょっと器用に言えばいいのに笑

中垣:だから…うーん、人は何かしらの違和感をきっかけに行動するのだとすると、その違和感の原因を社会に求めるのか自分に求めるのかって話で、おれは自分に求めちゃうな。

松田:あー、はいはい。

中垣社会を変えるより、どうすれば自分が社会にフィットできるかを検証する方が好きやから、あまり社会を変えるというふうに思ったことはない。もちろん、そこで言う社会がどういう社会なのかにもよるねんけど…

きむ:まあまあ。

中垣:手の届く範囲で影響与えたいというか、自分の周りの人を変えていきたいとかいうのは全然あるよ。それはあるけど…社会っていうと分からんな。

なつき:ちなみにおれも、どちらかと言うと社会は変えられないと思ってて。だから投票とか興味無かったんだけど、でも今なら…

中垣:え、そういうこと? 違うよ、それはなんか薄っぺらいよ。むしろ世界を変えたいとか思ってたら、別に投票なんて行かなくてええねんって。

なつき:いやいや…

中垣:いや、これはまじで。社会を変えるって言って投票行くやつは一生そうやってろって思うね。そんなやつ、仮に80年代に生きてたら、CMで見たもんそのまま買ってたような人間やで。

確かに、それで社会が変わると思って選挙に行くやつはアホだと思います。しかしもちろん、それで社会が変わるかどうかに関わらず、選挙に行くことは非常に意義ある行為だと、全く別の理由から思いはします。

匿名:東浩紀っているじゃん。彼のやってるサロンで高校生が、「社会は変わらないんじゃないか、何を希望に持っているんですか」っていう質問をしていたんだけど…

東浩紀 – Wikipedia

中垣:うん。

匿名:それに対して彼は、自分は歳を取っているから社会は変わらないって分かってるけど、若い頃は社会が変わるっていうことを希望に思想をやっていた、そうじゃないとここまでは来られていないって言ってて

【 #ゲンロン友の声 】なぜ日本を良くしたいと思うのですか? genron – note

中垣:はいはい。

匿名:で、別に哲学科とかの人間が社会を変えられないなんて、周りから見たら分かるじゃん。それでも抽象的なモチベーションとして、自分が何か影響を与え得ると信じたいのかなって。

中垣:それ、そもそもそういう話なんかね? まあそういう話ならそういう話でよく分かるねんけど…

松田:実際そうじゃないと分かっててもって…なんか、ただのダブルスタンダードに思えるねんけどな。

中垣:実際世界を変えられるかどうかに焦点が当たっているんではなくて、変わる希望を持てるかどうかっていうのがその人の言ってることじゃないん。

松田実際に変わるかどうかが分からへんのになんで希望が持てるの?

中垣:結構そういうことってあるくない?

松田:なくない?

匿名:彼のアドバイスとしては、自分としては変わらないと思うけど、お前は変わると信じろっていう言い方になるって言ってた。

きむそれは無責任じゃね?

松田:ね、ちょっとよく分からへん。そもそも社会が変わらへんって話からしてよく分からへんしな。変わるやろ。

中垣:それはそうやね。

きむ:社会が変わるって何?

中垣:まあ東浩紀がなんて言ったかはどうでもいいねんけどさ、そこで興味深いのはあれじゃないん、そこまで賢い人間、何かに対して誠実に思考しようとする人間がさ、唯一自分のモチベーションに関しては自分に嘘をつくというか、変わらへんって思ってても変わることに希望を持っているというか…

匿名:現代思想が本当に社会を変えると思ってやってたんですよ、って話じゃないん?

中垣:あ、そういうことなん?

松田:やってた限りにおいてはそうなんやろ。

匿名:正直に答えるなら今はそうは思ってませんって話でしょ。

松田:でも今も現代思想をやってんねんやろ、なんでなん?

匿名:若い頃は社会を変えることをモチベーションにしてたけど、今は別のものがあるってことでしょ。

松田:まあそうか。

きむ:今は普通に、それが生理的な生活の一部になってるんじゃない?

お腹減るとかトイレに行くみたいに現代思想をやる、いいですね

中垣:なんかそれでも、狭い意味でも社会を変えるっていうのは、常にモチベーションであり続けると思うねんけどな。むしろそういう意味で社会を変えるっていうのが、唯一のモチベーションであると思う。要は…

きむ:モチベーションというものの唯一の由来だと。

中垣:そう、おれはそう思ってる。

匿名:学会で発表するとかも、言ってしまえばそうだよね。

中垣:おれは、自分は自分以外のものにはたらきかけられると信じていることだけが、何かをするモチベーションだと思っているから、そういう意味で社会を変えることはいつまでもモチベーションであり続けると思う。ただ多分、若い頃に東浩紀が考えていた社会を変えるっていうのは…

匿名:最初になつきが言っていたような意味だよね。おれも別にそういう意味で社会を変えられると思ったことはないけど、でもなんだろう、別に国によってはそう思っている人もたくさんいて、哲学科の人間みたいに、側から見るとあまり実際的じゃないように見えても、そういうことをモチベーションにやってる人もいて…

中垣:うんうん。

きむ:その人は実際的じゃないとは思ってないんじゃない?

中垣なんか、社会を変えるって言うとむずいね。ここで環境問題が…とか言い出すとまた違う話になっちゃうし。それこそなんか、自己効力感みたいな話に絞って言うならすごく素敵な話やと思うねんけど。

When you grow up, you tend to get told the world is the way it is and your life is just to live your life inside the world. Try not to bash into the walls too much. Try to have a nice family life, have fun, save a little money.

That’s a very limited life. Life can be much broader once you discover one simple fact, and that is – everything around you that you call life, was made up by people that were no smarter than you. And you can change it, you can influence it, you can build your own things that other people can use.

The minute that you understand that you can poke life and actually something will, you know if you push in, something will pop out the other side, that you can change it, you can mold it. That’s maybe the most important thing. It’s to shake off this erroneous notion that life is there and you’re just gonna live in it, versus embrace it, change it, improve it, make your mark upon it.

I think that’s very important and however you learn that, once you learn it, you’ll want to change life and make it better, cause it’s kind of messed up, in a lot of ways. Once you learn that, you’ll never be the same again.

Source: Wikipedia

Think different – Wikipedia

松田:そうやね。

中垣:なんか、社会を変えるって言って地球環境とかそういう話になるのなら、それは結局、本当は自分を変えたいのに社会を変えるっていうのを言い訳にしてるんじゃないか、みたいなことをおれは思っちゃう。

きむ:いやー、それは違うんじゃない? なんだろう、純粋な社会に対するフラストレーションみたいなものが行動に結びついてる人は多いと思うよ

中垣:社会に対するフラストレーションってさ…どういう感じなん?

きむ:例えばアフリカの起業家の話なんだけど、その人は元々公務員を目指してて試験を受けたんだけど、公務員試験の結果が家に届かなかったんだって。本当は合格してたのに、郵便インフラが無いために合否が分からなかったと。

中垣:ほう笑

きむ:だから自分で郵便を作ったらしい。それはさ、そうじゃん。

松田:えっらい。

中垣:うーん、そうなんかな。別にそれを社会に対するフラストレーションから…って言ってもいいけど、彼は単純に、自分の生活を便利にしただけなんじゃないん?

きむ:あー、そういうことか。

中垣:おれはそう捉えるな。おれがそれをするなら、そういう動機においてやる。

きむ:あー…例えばじゃあ、ボランティアに行くのも褒められるために行ってるじゃないかみたいな、そういう話?

中垣:いや、別にそこまでうがった見方はしないけど…例えば彼が、同じような環境にある他の国に行って「やっぱりよくない」って言ってそこでも状況を変えようとするのなら、それはもしかしたら社会を変えようとしてるのかもしれんけど…

きむ:うーん…まあ確かに、最終的に全てのモチベーションは自分に対するものとして帰着するとおれも思うんだけど、でもなんか、それを言ってしまうとキリがない…って話でもない?

中垣:あー…うん、ちょっと違う気がする。結局回り回って自分のためでしょ?ってことが言いたいんじゃないねん。そういう話ではなくて…シンプルに、おれには分からないねん。

きむ:うん。

中垣:おれは社会に疑問を持ったことがないねん。自分のせいではないのに不快な思いをしたことはもちろんあるけど、それの主語を社会にしない。それを「社会が〜」とは思わない。

きむ:うーん、じゃあ何だと思うの?

中垣:うーん…

松田:なんとなく中垣の言いたいことは分かるけどな。

きむ:社会じゃなくて教育とか政治とか、そういうもうちょっと具体的な話題に置き換えられるから、だから社会ではないって話…?

中垣:いや、じゃなくて…

松田:じゃなくて、社会のあり方はシーンのバックグラウンドとしては描かれるけど、そこでの主語は自分ってことやろ。こうこうこういう背景で僕は不都合を感じた、って。

きむ:あー。

みなと:さっきの郵便の例で言ったらさ、「郵便が無かったせいで〜」じゃなくて、「郵便があればおれはもっと〜」って説明する、そういう話じゃないの?

松田:社会って言うとさ、主語がn-1になっちゃうやん。

中垣:そうそう、そうやねん。まさにそう。

松田:自分と自分以外が1とn-1に分断されちゃうというか。社会っていう言葉は本来は全体であるn人を指すんだろうけど、社会を変えたいって言うと…いや、お前はなんなんだ?ってなるやん。お前も含めての社会だよ、って。

中垣:そうそう。

きむ:あー、なるほどね。はいはい。

松田:なんで一般化しちゃってるんだって話。

c 「有能」って言うやつの欺瞞

きむ:うん、その説明はすごいしっくりくるな。

松田:だから社会を変えたいみたいなことを言いたいのであれば、「私はこういう世界に住みたい」って言うようにすればいいんじゃないかな

きむ:なるほど、そりゃそうだわ。

松田:お前の話じゃなかったっけ?って。

中垣:だからあれやね、マイノリティーに関してのべき論をTwitterで披露する前に、身の回りでちょっと窮屈そうにしてる人に優しくしたらいいんじゃない?って。

みなと:笑

それによって目に見える形で世界が変わっているかどうかはともかく、我々は日々世界を決定していると考えてみるのはどうでしょう。
例えばある日のお昼にあなたがマクドナルドで食事をとったとして、あなたが実際にどう思っているかには関わらず、その行動の限りにおいてあなたはマクドナルドの存在する世界を肯定しています。もちろんその行動によって目に見えて世界が変わることは、それが単純な現状の肯定であるという点においても、あなた一人の力がわずかであるという点においてもないと言えるでしょうが、いずれにしてもマクドナルドが存在する(マクドナルドが商売として成り立つ)方向に世界を決定したとは言えますし、あるいはもしマクドナルドには絶対に行かないということを実践していれば、もしかすると遠い因果の先で、非人間的な食事のない方向に世界が変わるのに影響を与えていたのかもしれません。
いずれにせよ、それがいかなる類の行動であっても、それ以外の一切に影響を与えることなく何かを実行するのは不可能です。そう考えると、「社会を変えることはできるのか」といういまいちしっくりこない主題とその答えは、我々は日々の一挙手一投足を通じて世界を決定しており、その限りにおいては大いに責任を持っていかなる些事も決定しなければならないというふうに言い換えられるのではないでしょうか。

2019年12月6日
代々木上原 Airbnbの一室