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思索 食事

ほとんど初めて食事に感動したかも

3 years

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松田:前に京都に行ったとき、昼にその辺のレストランに入ってんけどこれがめちゃめちゃ美味しかってんやんか

中垣:はいはい。

松田:ランチのセットが飲みもんとサラダとメインとデザートで1,700円くらい、まあ普通の値段やねんけど、すごいいいなと思えてんな。

中垣:何料理のお店なん?

松田フランスの家庭料理らしいよ。もしあれが毎食出るんならおれはフランスに引っ越してもいいと思ったな。

c パリ留学記

中垣:笑

松田:まあなんて言うんかな、美味しかったというか、なんしかすごくポジティブに評価できる体験やってん

中垣:はいはい。

松田:あれが総体として何やったんか、まだ十分には一般化できていないねんけど、とりあえずどんな感じやったかについて簡単に述べるわ。まあまず味は美味しいよね。

中垣:うん。

松田:あとはね…どの料理も「なんやこれは?」みたいなところがあったというんかな? そもそも1,700円のランチってさ、丸の内とかのノリでいくと、分かりやすく想像できるサラダとパスタとケーキとコーヒーが出てきて「はいおしまい」まであり得るわけやんか。

中垣:あー、まあね。

松田:だから最初はそれくらいの気持ちでおってんけど、まずサラダからして結構凝ってたと思うねん。なんかいろんなマリネがのったりしてて、「具多くない?」みたいな

具…

中垣:はいはい。

松田:それにそれぞれの具がちゃんと美味しいし、変な見た目のやつを食ったらそれだけちょっと変わった風味になってて、全体に対するアクセントになってたりとかで。で、メインはポトフを選んでんけど…

中垣:ポトフやのに美味しいん? ポトフって言うたら肉じゃがみたいなもんやん。

DOLCH 京都 ポトフ
Image: dolch_kyoto/Instagram

restaurantDOLCH – Instagram

うちの中垣がすみません

松田:これがね、めちゃめちゃ美味しいねん。自家製ソーセージのポトフやってんけど、ソーセージの時点で2〜3種類くらいおるの。「うわ作んのめんどくせぇ」とか思って。

中垣:確かに笑

松田:それも美味しいし…てか、さっきから美味しかったとしか言ってへんな。だからなんて言うのかな、知らないものも含めて思ったより要素が多くて、それら全てがひとつの方向に向けて最適化されてる感じがあったな

中垣:はいはい…

松田最適化されている上に、さらに最適化の方向性そのものが知らん類のものである感じやね。ほんで最後にデザートやねんけど、これに関してはここまで食ってきてもなお、チョンチョンって切った感じのガトーショコラかなくらいに思ってたわけ。

ガトーショコラ Café&Meal MUJI
Image: Café&Meal MUJI

チョンチョン

ガトーショコラ – Café&Meal MUJI

中垣:まあそうね、普通はそんな感じやんね。

松田:そしたらこれもこれでまた凝ってるねん。お店の人がいろいろ説明してくれてんけど…まあその具体的な内容はともかく、それもやっぱり要素が多いねん。普段の食事と比べてはるかに高い解像度の興味を向けても堪えるくらい、材料も手順も多くて、その全てがやはり一つの方向に向けて最適化されてるねんな

中垣:はいはい。

松田:これはおれにとってはなかなか新鮮な体験やったね。ギャルソンのオムドゥでの、「この生地ちょっとすごくない? この混率でこんな感じなんの?」みたいな気持ちに近かった

c ギャルソンの服ちょっといいよな

中垣:はいはい。

松田以上のところが、ほとんど初めて食事で感動した話の概要やね。あまりに感動したから、今使ってるGoogleアカウントではマップにピン立ててなかったのに、初めてそのお店にピン立てたもん。

中垣:早くそのお店教えてや笑

DOLCH 京都
Image: restaurant DOLCH

restaurant DOLCH

松田:このDOLCHっていうお店やね。なんかそこのオーナーシェフは、若い頃に在ルーマニア日本大使館で公邸料理人をやってたとかで。

中垣:はいはい。

松田:ほんで日本に帰ってきてからお店をオープンさせたと。あと調べてみた感じではお店での仕事以外に、ケータリングみたいに呼ばれて行って作るみたいなことも結構やってるっぽいねんな

中垣:あー。

松田:なんかそれって…これは完全な想像やけど、大使館って料理の内容も規模も幅広く臨機応変に提供することが求められるやん。それが活きている感じなんかな?とか。

中垣:うんうん。

松田:あとはお店での貸切パーティーも着席から立食まで幅広くやってたり、全部セットになった持ち帰りの料理もやってたりで、単にコースを食べにお店に来て食べてくださいというよりは、食事を通して多様なエクスペリエンスを提供させていただきますってノリなんかなって。まあ言うたら一人でやってるオーバカナルみたいなもんやんな。

オーバカナル 紀尾井町
Image: The New Otani

だいたい何でもある

BRASSERIE AUX BACCHANALES – The New Otani

中垣:はいはい。

松田:あとはそれこそおせちもやってて、これもなかなか、インスタのフォロワーは数百人とかやのに3日くらいで売り切れたっぽいねん。

中垣:顧客がそれだけおるんやろうな。

松田:そうなんやろうね。だから言うたらアテリエみたいに、太めの顧客が過不足なく、でも十分磐石なくらいにはおって、その人らに対して臨機応変にサービスを提供してるって感じでやってるんやと思う

ATERIER HISTORIC INSTRUMENTS

松田:ただ…別にこれはお店が悪いわけじゃないねんけど、御所の近くっていう場所柄もあってか、周りのお客さんがまあスノッブもスノッブやったのは気になったな。

中垣:御所の周りなんてね、あんなん「真の京都人は私達です」って思ってる人らやねんから。

松田:いや、ほんまにそんな感じやねん。「京大の誰々先生が~」とか「誰々さんのとこは息子さんが幼稚舎で~」みたいな。いや、なんで京都来て幼稚舎の話聞かなあかんねん。おれが入ったときには既にコーヒー飲んどって、そのままおれが出るまでずっとそんな話してんねんで。

中垣:前に話した料亭、そこにもそういうオバハンはおったわ。そういうやつってどこにでもおるんやろうな。

c 食事の健全な楽しみ方

松田:まあ具体的な話はこの辺にして、おれとしてはこの体験をできるだけ一般化していきたいねんな

ここからが commmon です

中垣:うん。

松田:要はこれって、知らんものが出てくる楽しさとか、「あ、これはこういう意図でこうなってるのね」みたいな発見とか、そういう理知的な感動が、最終的に「美味しい」っていう否み難い味覚体験によって磐石に補強される感じであったと言えると思うねん。

中垣:はいはい。

松田:そういう次第やから、それは例えば「岐阜屋」で食う中華とは全然違う美味しさなわけ。知っている見た目の料理が、既に知っているものと比べて同種のより良い味覚体験を提供してくれるというよりは、知らん料理が知らん意図のもとに出てきて、その全く新規的で新鮮な体験が味覚によって前言語的に補強されるって感じなわけ

岐阜屋 新宿
Image: dancyu

dancyuのこのエッセイを書いた石田ゆうすけさん、彼がアウトドア雑誌に見開きで持っていた連載に、中学生のときに掲載してもらったことがありますね

「岐阜屋」で出会った僕の東京ラーメン。 – dancyu

岐阜屋 – 食べログ

中垣:はいはい。

松田:だからここでの味覚は、体験全体を担保するためにのみ補助的に存在しているって感じで、同じような役割を果たすのであればそれは必ずしも味覚じゃなくてもよかったんやとも思う。まあ言うたらね。

中垣:うんうん…いや、もう一回言ってくれへん?

松田:笑 つまり岐阜屋で食う「木耳と玉子炒め」は、結局は美味しいかどうかが全てなわけ。化学調味料が入ってるのかは知らんが、なんしか口が美味しいって言ったらそれでOKねん

中垣:はいはい。その場での味覚的経験が全てということやんね

松田でもさっきのDOLCHでの体験は、その体験を肯定的に評価する根拠のうち、味覚が占めてる割合がかなり低いねん。味覚だけの仕事じゃないし、味覚にしかできない仕事でもないわけ。

結局頭でしかご飯が食べられない

中垣:あー、そういうことやんね。

松田:ただもちろん、味覚って前言語的…要は「美味しいもんは美味しい」わけで、そういう感覚的確信で経験全体を回収しているっていうのはかなり大事な点やと思うで。

中垣:はいはいなるほどね。それで言うとおれさ、食事に関しては完全に「今ここの幸せ」派やねん。

c 進歩主義的価値観と今ここの豊かさの対立

松田:はいはい。

中垣:今の話で言うなら、おれにとってはその場での味覚的経験が全てやねん。でもそれこそ落合陽一はね、なんか鮎がすごい好きらしいねんけど、地球を食ってるような複雑さが感じられていいって言うねんな。じゃりじゃりモソモソしてて、美味いかは別として「ああ…食った」って感じが好きだと。

比良山荘で鮎と鰻と熊と猪と鹿を食べながら大地の複雑性に感謝している. 落合陽一 – note

松田:はいはい。

中垣:あるいはカップ麺を食うときは、お湯の量をちょっとずつ変えてどれが一番いいか…とか、なんかそういう感じみたいなのね。だから彼にとっての味覚っていうのは、どちらかというとある種のセンサーで、どこからどこまでの幅で感受性があって、どんなインプットに対してどんな感覚があるのかとか、なんかそういうテストをずっとやってるっぽいねん。

松田:はいはい。

中垣:おれも食事以外に関してならそういうことはするけど、こと食事に関してはほぼそれがなくて

松田:うんうん。

中垣:なんかね、シンプルに物足らんねん。舌を通して新しいことを経験するよりも、美味しくてお腹いっぱいになって満足することの方がはるかに大事やねん

松田:あー、なるほどね。そう考えると確かにおれは、王将が好きな中垣よりも鮎が好きな落合陽一に対しての方が共感しやすいな。

中垣:そういうことやんね。

松田:だって思うねんけど、岐阜屋的な味覚体験ってどこまでいってもラッセンなわけ。あるいはsacaiのハイブリッドの服やねん。

Denim Mix Blouson – sacai THE store

モードブランドの服を着てると、裾があと3cm長かろうが短かろうが、それ以前に指摘するポイントがいっぱいあって、細かいところが問題にならへんわけ。モードっていうのは完全に新たなイメージを作るゲームで、それはそれでもちろん楽しいねんけど、おれらとしては微妙な差分でどっちがいいかを迷いたい、この1cmをどうするかみたいな、そこを楽しんでるねん。

Source: commmon

c 余白のある服が好き

中垣:そうやんね、結局EDMやもんね。おれも味覚に関してでなければそういう気持ちって分かるねんけど…味覚だけはそれが無いんですよ。

松田:そうなんや…まあ薄々気付いてたけどな笑

中垣:例えばさ、中途半端に50点の物を買いまくるより、100点の物か、それが買えないなら0点の物を買った方がいいやん?って話ってあるやん。

松田:はいはい。

中垣:これを食事に当てはめると、落合陽一みたいに、普段はカップラーメンでいいけど週一はええ食事をするし、別にカップラーメンもそれはそれとして楽しむ、みたいな感じになると思うねん。

松田:うんうん。

中垣:でもおれはそれ絶対に嫌やねん。

松田:笑

中垣:おれは一日の食費は3,000円っていうのが一番幸せで、それが傾斜をつけて平日と休日に配分されたりしたら困るねん。絶対に毎日3,000円がいいねん…というか、そもそもそれ以上を求めてないねん

松田:うんうん。

中垣:この点に関しておれはBMWとか豊洲のタワマンとかっぽいねん。おれもちゃんと美味しいもん食べてきてるはずやねんけど、なんかそういうのは全然覚えてないねん。

中垣:豊洲のタワマンに住んで、サ高住に入って…

倉留:人生頑張ったで賞笑

中垣:まじでどうでもいいよな。そんなん、生まれてこなくてよかったやん。

松田:メゾンカイザーを朝食に食べることが豊かな人生だと思っている人達。

倉留:二子玉川。

Source: commmon

ほんとすみません口だけ立派で…

c 自分を過小評価してはいけない

松田:笑

中垣:もちろん、いわゆるええ食事が美味しいのは分かるし、頭で考えたらその複雑さを楽しむこともできるねんけど、おれの偏光板は最終的には純粋に味覚的な経験しか通さないねん。「はい王将の勝ち」みたいな。

松田:笑 なるほどね。

中垣美味しさ以外の要素がほんまに頭に残らへんねん。まあもしかすると、歳とって量を食べられなくなると変わるんかもしれんけど…

松田:じゃあひとつの実験的な試みとして、毎食絶対にプロテインを飲むようにして、空腹感があまり無い状態で食事に向き合うってことをやってみるといいかもしれん。

DNSとスニッカーズとコーヒーだけで生きていく

2020年12月18日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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DOLCH 京都
HeaderImage: Uber Eats

京都御所南のフランス料理店「DOLCH」。フランスの家庭料理をベースにリーズナブルにというコンセプトで、ランチ・ディナーのコースのほか、ケータリング、おせちなど幅広いフランス料理を提供している。
オーナーシェフは在ルーマニア日本大使館での公邸料理人の経験があり、DOLCHでは東欧の伝統料理を添え物や調味料に活かしている。

レストラン ドルチ Restaurant DOLCH – Uber Eats