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ファッション 思索

オタクのハットとファレルのハット

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中垣:昨日彼女と話してたときに、彼女がいじめてきてんけど…

松田:はいはい笑

中垣:そこでオタクハット問題が再燃したのね。つまり…街にいる10人中9人はまずしないだろう服装を考えたときに、それにはさらに2種類があると思うのね。

松田:うんうん。

中垣:その2種類は、オタクハットとそうじゃないやつやねんな。

松田:はいはい。

中垣:そうじゃないやつっていうのは例えば、ポパイのスナップ特集に載ってる、すごい変な色合わせしてるけどしっくりきてるやつとか…

サルトリアリスト
Image: The Sartorialist

Lapo Elkann, Florence – The Sartorialist

松田:あー、分かった。オタクハットとファレルハットってことやね

松田:ああいう服装にはさ、その人に限ってその服装がハマっている感じというか、そういう排他性、主体が明確な感じがあるやん。

中垣:そうやんね。

松田:あるいはファレルの服装とかもそうで、彼は確かにかっこいいねんけど、あの格好をしたからみんながああなれるわけではないやん。彼じゃないといけない服装を実践できてるわけ。

中垣:あの帽子とかもやばいもんね。

Source: commmon

c 【シリーズ】今日のファッション #4

中垣:そうそう、そういうこと。で、それに対する「ファレルはセレブリティだからそれが許されるんだよ」みたいな話はどうでもよくて。

松田:うんうん。

自分のことを凡人だと思い込むことで人生への責任に目を向けないやつ、超嫌い

中垣:だってファレルって、別に有名人じゃなくてもかっこいいし。

松田:あと心情的には、ああいうことができるからこそセレブリティになったっていう説明を支持したくもあるよね。

中垣:そうそう。で、おれは普通の格好がしたいときもあるけど、別に変な色の服は好きやし、そういう格好がしたいときもあると

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Image: PayPayフリマ

まじで一冬こればっか着てた

パタゴニア メンズ ライトウェイト シンチラ スナップT プルオーバー – PayPayフリマ

松田:うんうん。

中垣:だからファレルハットを目指してそういう服を着たいんだけど、彼女はそれをオタクハットだって執拗に言ってくるねんな

松田:あー、なるほどね。それは…ファレルハットの存在を原理的に認めていないってこと?

中垣:いや…まあその傾向もまずあるし、いずれにしてもおれのそれはオタクハットだって言うねんな。

松田:はいはい。

中垣:そもそも彼女自身があんま変な格好をしたがらないっていうのもあって、そういう意味ではファレルハットの存在を積極的に認めようとはしないし、「じゃあどうすればファレルハットになれるの」って聞いても、顔が外人で体型がどうのこうのみたいな、そういうしょうもないことしか言わへんのね

松田:なるほどなるほど。

中垣:そんなこと言われても…じゃあ山本耀司はどうなんの?みたいな話はあるし。

山本耀司
Image: WWD JAPAN

このあいだ目の前の席で茶しばいてた。やっぱかっこよかったよ

23歳の記者から山本耀司へ37の質問 – WWD JAPAN

松田:まあせやね。

中垣:なんか、すごく夢のない話をしてるというか、どうすればオタクハットを脱却できるかを知りたいのに彼女からは何も出てこない、みたいな感じで。

松田:はいはい。

中垣:もちろん彼女には彼女の言い分があるねんけどね。でもいかんせん言い方が意地悪やから、こっちも最初は大きな心で、何を言われても大丈夫ですって気持ちで聞いてるのに、なんかだんだん「なんでそんなこと言うん…?」みたいになってくるねんな

松田:そんな言うん?笑

中垣:言う言う。それで、これは「ストレートも投げられないのに変化球を投げようとするのはどうなのか」みたいな、そういう話にも近い気はしていて。

松田:はいはい。ストレートを知った上での変化球はファレルハットで、そうじゃない変化球はオタクハットって感じやんな。

中垣:そう。それで今まで、あまりにも天邪鬼やから変化球ばかり投げ過ぎてたわけ。だから、ちょっと前まではストレートを投げる練習をするように心がけるっていうスタンスでおってんけど…

松田:コモリとオーラリーね。

倉留:中垣もそれ言ってたな。河東とかタカは全部通ってきてるから、おれもいったんは全部通ることにするって。

河東:ミーハーなもんを避け過ぎてたって話やろ。

松田:あー、なるほどね。

倉留:本人いわく、今はオタクがハットを被ってる状態らしい。

Source: commmon

c 【シリーズ】今日のファッション #5

中垣:そうそう笑 まあその2つは買ってはないけど、でも今着てるコートとかは結構ストレートやと思うのね。

セレショ別注のバブアー

松田:確かに、しかも毎日着てるしな。

中垣:…って思っててんけど、でもそれはそれで本当なのか?というか、ストレートを投げられるようになって初めて変化球を投げられるわけではない気もするというか、別にストレートを投げられなくてもファレルハットなやつはいると思うねんな。

松田:うん…確かに、今言ってたような理屈って一般論としてはあるねんけど、個人的には6~7割くらいまでしか納得できてないな。

守破離って考え方、どちらかと言うと嫌い

中垣:そうやんね。

松田:もちろんさ、オタクハットはそもそもファッションに対する解像度が十分に高くなくて、ストレートがあってそれはカーブとは違うっていうことさえ知らず、変態魔球みたいなやつを「小粋テク」くらいに思って実践しちゃってるわけやん

秋葉原の彼らって服のことが全然分かんないから、おしゃれにコミットしようとしても細かい参照項が見出せず、いきなりわけ分からんハットとか被っちゃうんですよね。側から見たら頭おかしいんだけど、本人的にはあれくらい甚だしい物を身に着けて初めて、それまでの自分との違いを認識できるんだと思うんです。

中垣:うんうん。

松田:だからそれはちょっと別として、その上でストレートがあるのも、それがカーブとは違うのも知ってる人が、とは言えストレートは気に入らないからってカーブに邁進するとき、これは果たして妥当なのかっていう話やんな。

中垣:そうやねんな。もちろん、頭で分かっているのとそれを自分の服装として体現できているのってまた違うことだなとは思ってはいて

松田:はいはい。

中垣:例えば宮田先生の服装とか、まあいろいろ分かっててやってるとは思うねんけど、でもあれはオタクハットぽいやん。そこが難しいというか、やっぱり実際にストレートをやり込んだ経験があることが重要な気もするし…

スーツ・オブ・ザ・イヤー2020で着ていたポール・スミスのスーツとグランドセイコーの時計、頼むから自分で選んだものではないと言ってほしいです

スーツもデータも一人ひとりを輝かせるもの – NIKKEI STYLE

松田:うんうん。ただそもそもの話をすると、別に中垣はオタクハットっぽいとは思わへんよ。

中垣:あ、ほんまに?

松田:うん。ただ一方で、中垣がストレートを投げる練習をとことんやり込んだかと言うとそうでもなくて…ってなったとき、中垣と宮田先生の違いはどこなんだろうというか

中垣:そうやんね。松田の言うおれがオタクハットじゃないっていうのも、言うたら感覚的な判断というか、個人の好みとしか言えないものかもしれないし。

松田:うんうん。

中垣:まあそれで言うとね、彼女がおれのことをオタクハットだって言うのは偏見な気はするねん。

松田:笑

中垣:彼女がこれまで生きてきた環境からすると、おれなんてただのインテリクソ野郎で、ちょけてしかるべきキャラでもないのに変な色の服を好んで着てるもんやから、「普通の格好をしてたらいいものを、服の知識をつけちゃったがゆえに変化球投げようとしてミスってんぞ」みたいな、そういう偏見があるんじゃないかと思うねん。

松田:笑 それは確かにありそうやね。

中垣:別に、言い出したら中学生のときから服装変やってんけどね。

松田:それに、十分に正統なエリートって感じでもないと思うし。

ディスではない

中垣:そう。それでその辺を検証しようと思って「そういう偏見ってない?」って聞くねんけど、彼女はそこが切り分けられないっぽいねんな

ディスではない

松田:あー、はいはい。

中垣:自分が一定の印象を覚えた場合に、どこまでが個人的な好みで、どこからは一般的な感覚による直観なのかっていうのが切り分けられなくて、何かしら一般性の高い直観めいたものがありそうだと思って話を聞いてて、それは個人的な好みだなと思った場合にそれを指摘すると、「じゃあ私が何言っても全部好みの問題って言われるからもう何も言いません」みたいな…

松田:うわー、分かるわ。そういうとき、なんか閉店されちゃうよね。

中垣:そうやねん。

松田:ちょっと話はずれちゃったけど、でもさっきの話はおれも気になってるというか、前に話したファッションを学ぶための4ステップの話のとき、今の話で言うところのストレートにあたる「バランス」と「トレンド」は一応は履修してるってことになってたけど、個人的にはそんなことはないって自覚してるのね

c ファッションを学ぶための4ステップ

中垣:あー、まあそうか。

松田:河東とかと比べたらもちろん、中垣と比べても全然してないと思うねん。

中垣:まあまあ。

松田:だって大学生の間はほとんどずっと、ダース買いのTシャツとジーパンしか履いてなかったもん。だからストレートを投げられる自信は今でもあまりないねんけど、とは言え自分がオタクハットだとも全く思わないのね

中垣:それはそうやね。

松田:となると、おれと宮田先生の違いは何なの?って。程度問題なのか、どこかに本質的な差があるのか

中垣:確かにそうやんね。切り口がいくらでもあって難しいというか、例えば本人が自分の体型とか雰囲気を知り尽くしていて、それに似合う格好をしているならOKですって言い方もできそうやねんけど、でもそれだけじゃない気もして。

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c 余白のある服が好き

松田:うんうん。

中垣本人のフィット感って話もあると思うしね。オタクハットは「それ変やで」って言われたら「は…別に変じゃねえし?」ってなるわけやん。

commmon では、インテレクチュアルな認識とフィジカルな実態が乖離なく一致していることを分かりやすく「フィット感がある」と表現しています。
その究極の例は禅における悟りやプロスポーツ選手のゾーンであり、逆に「人生なんかしっくりきていない」「したいことをできていない気がする」など、あらゆる種類の迷いや悩みはフィット感が損なわれた状態です。

松田:そうやんね。確信が揺らぐ感じになるよね。

中垣:でもたぶん、自分の服装に十分なフィット感がある人なら「うん、そっか」ってなると思うし。

松田:うんうん。

中垣:ただ、じゃあ宮田先生に「その格好変ですよ」って言っても、別に怒らないとも思うねん。「そうですよね笑」って感じで普通に大人な対応されそう。

松田:まあそれはあれやけどな、服に対する変な自己同一化がないから穏やかでいられるというよりは、いついかなるときも起動できる聖人の人格でもって、もっと手前の段階で対処してる感じな気はするけどね。

中垣:それはそうかもね。

松田:まあ知らんけどね。でも確かにそれで言うと、おれはフィット感はあるというか、自分なりの排他性がある服装はしているよね

c 「好き」の不可侵性とワナビー

中垣:そうやんね、おれも自分なりの排他性はあるねん。でも、自分なりの排他性があると思えてて、しかも自分なりと言いながらそれなりに高い解像度を持っていると思えているときに、その格好をダサいって言われたの人の気持ち…これはどうなん?

松田:笑

中垣:「じゃあおれはどうしたらいいの?」って。今の気持ちはそれ。

松田:笑 やっぱ彼女のそれは偏見なんじゃない?

中垣:まあそんな気はするよな。

松田:あと彼女からするとさ、中垣に対して明確にマウント取れるのが「お前はどこまでいっても陰キャなんじゃい」っていう、そこくらいなのもあると思う。

中垣:まあそうやと思うで。

松田:だから彼女から言われたこと自体はそこまで気にしなくてもいい気はする。ただオタクハットとファレルハットの違いについては…よく分からへんよね

中垣:宮田先生のあの感じとか、ほんまに謎やもんな。しかもかなり服買ってる感じはあるし。

松田:服エンゲル係数高そうやんね。

中垣:もしかすると、服を空間に飾る絵くらいに思ってるんかもね。それを自分が着ることはことさらに意識することがないというか、「今この空間にこういう派手な服を着る人がいて…それが今回一応私なんですけど」みたいな。

松田:はいはい笑

中垣「今日のスタジオ、こういう赤色があってもいいでしょ?」みたいな。うん、ありそうな気がする。

2021年2月11日
外苑前 J-COOK

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ファレル・ウィリアムス リシャール・ミル
HeaderImage: FHHJOURNAL

ファレルが着用するのは、彼とリシャール・ミルとのコラボレーションモデル「RM 52-05」。グレード5チタン製のヘルメットパーツは、シリル・コンゴとのコラボレーションモデル「RM 68-01」用に考案された特殊なエアブラシを使ってペイントされる。
こんなに大胆でかつしっくりくる手元、見たことありますか? 彼が着用すればリシャール・ミルもただのG-SHOCK、CPFMのブレスレットも子供向けのアクリルのそれになってしまう。いかなる服も、着ることはあっても着られることはない、そういうものに私はなりたい。

Richard Mille and Pharrell Williams collaborate on the RM 52-05 tourbillon – FHHJOURNAL