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イランの憂鬱

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このサイトの全ての記事がそうであるように、本文の内容はあくまで個人の経験に基づく見解であり、それを必要以上に一般化する意図も、それと相反する意見を否定する意図もありません。
その上でもしお気付きの点がありましたら、お問い合わせページからご指摘いただけますと幸いです。

فه:テヘラン大学って日本で言うところの東大みたいな立ち位置で…要は優秀なわけなんですけど、でも「みんな卒業した後はどうするの? 働くの?」って聞いても、「卒業しても仕事なんてないから」って言うんですよね

松田:はいはい。

しれっと構内入ろうとしたら秒で止められましたね

فه:それで「就職活動とかはないの?」って聞いても、そんなものはないって言うんですよ

白濱:へー。

فه:日本で言えば東大ですよ、だから本来であればそんな人材どこも欲しいはずなのに、イランではそうじゃなくて、例えば親が社長であるとか銀行員であるとか、あるいは軍の関係者であるとか政治家であるとか、そういうのがないと仕事にもなかなかつけないんですよ。だからどれだけ勉強を頑張ったから報われるっていう、そういう世界ではないですよね。

こういうノリを「パールティーバーズィー(پارتی‌بازی)」って言うそうです。直訳すると party game みたいな意味だとか。

白濱:縁故社会ってことなんだね。でも…となるとさ、なんでみんな学歴を手に入れようとするの?

فه:それは、それでも少しでも上に行きたいっていう気持ちがあるからだとは思うんですけど…

白濱:なるほどね。

松田:でもね、たぶん実際にそうなんですよ。なんかみんな、いつか海外に行くときのために英語を勉強しているんですよ

中垣:英語は通じるの?

松田:ほぼ通じる。これまた偉いのがさ、老人で通じるのはだいたい昔のインテリやねんけど、今の若いやつはみんな独学って言ってた。若い人はほとんど話せるで。

植竹:そうなん?

中垣:独学なん?

松田:英語が分からんと外の情報が手に入らんからちゃうかな。みんないつかはイランの外に出たいと思ってるっぽいねん。

中垣:はいはい。

松田:そのためにドラマとかで勉強するって言ってた。学校では一切教わらんらしいねん。

中垣:すご。

Source: commmon

c イラン旅行記 #2

فه:そうなんですよ。だからなんですかね…例えば日本の文部科学省が出している奨学金とか、そういうやつの試験のために必死で勉強したりするんですよ

松田:はいはい。

فه:別に日本じゃなくても、ヨーロッパでもアメリカでもいいんですけど、とにかく勉強して外に出ようとするんです。

白濱:なるほどな。

فه:だから英語もすごく流暢に話すんですよね。状況を打破するにはこの国から出て行かなければいけないっていう意識がものすごくあって。

白濱:うんうん。

فه:それで日本語を勉強してるイラン人の友達が一人いて、私が向こうにいた間に何かのプログラムかでしばらく日本に行ってまた帰ってきてたんですけど、どうだったかを聞いたら「すごい楽しかった」って言うんですよ。

松田:はいはい。

فه:「ずっといたかった」って。それでその場にいた別のイラン人の友達が「もし二度とイランに帰って来れないとして、それならどうする?」って聞いて、それでも日本の方がいいって

白濱:へー。

فه:で、「それってイランの家族にももう会えなくなるし、イランの食事を食べたいと思ってもそれができなくなるってことだよ?」って言っても、それでもいいって。「だってこんな国にいても何の将来もないから」って。私はそれを聞いてすごく悲しくなって…

白濱:まあまあ。

松田:だからね、現地で国内線に2回乗って、タクシーも乗りまくって、ホテルも一番いいのに泊まって…一週間で5万円しかかからへんかった。

中垣:まじで言ってる?

植竹:まじ?

松田:まじやで。東京やったら一泊10万円近くするような部屋が7,000円とかやってん。

中垣:まじか。

植竹:すごいな。

松田:でもおれね、そこがしっくりこなくて旅の後半すごくしんどくなっちゃったよ。「こんなのおかしいよ…」って、泣きそうになってた。

テヘランの北部に住む富裕層や欧米的な思想をよしとする学生・文化人が集まるカフェで出会った、同い年の青年の運転する車に乗せてもらい、テヘランの街を案内してもらいながら考えていました。
その彼は、高学歴ながらも失業率の高さゆえ職につけず、特権的な富裕層の生活に憧れる一方そこに乗り越えがたい断絶を感じており、そこには自分の努力の及ばないところで人生の枠組みが決まってしまっている人の無力感が漂っていたのです。

Source: commmon

c イラン旅行記 #1

فه:それくらい未来が見えていないと感じてるんだなとはすごく思ったし…あとは結婚しようって言ってくる人もいました

松田:あー、なるほどね。

白濱:永住権とかあるもんね。 

فه:学がある人達は勉強して海外の大学に行って、そのまま就職して永住権を得ようとかってなるんですけど、学がない人達はどうにかして外国人の女の子を引っ掛けようとするか…あとは女の子の場合は、その親から「うちの娘はどうや」って言われるとか。

白濱:なるほどね。

松田:そう言えば僕が行ったとき、なんか街中で声をかけてきた二人連れがいたんですけど、そのうちの一人がポロのイラン代表だとか言ってたんですよね。

白濱:…ポロ?

既に情報量が多い

松田:そうそう。で、もう一人はその友達だったんですけど、彼が「こいつはポロの代表だから外国に行けるんだ」みたいなことをすごく強調してたのが印象に残っていますね。

فه:うんうん。

松田:そのときはあんま何も考えず「あ、そう」くらいにしか思ってませんでしたけど。

白濱:でもなんか逆にさ、アントレプレナーシップじゃないけど、国内で商売を興して金を稼いでやろうみたいなマインドはないもんなの?

この国でならおれも藤原ヒロシになれる、これは思った

فه:まあないですねぇ。

松田:それはやっぱり、既存の経済が既得権益でギチギチになってるからなのか…

白濱:あとはまあ内需も弱そうだもんね

松田:確かに。

فه:あと、外に出たいっていうのには海外に対するシンプルな憧れみたいなのもあると思います。イランにはイスラム法があるから公にはお酒はだめだし、女の子はスカーフを被らないといけないし…

松田:うんうん。

فه:それで前にイランの人がツイッターで言ってたのが、私達は好きな服を着る権利もラマダン中に水を飲む権利もない、みたいな。

ジャヴァード・ザリーフは*1「我々は自ら別の生き方*2を選択したのだ」と言った。ザリーフ氏よ、私たちは自分の服を選ぶ権利もなければ、一年のうちの一ヶ月は路上で水を飲む権利もない。これのどこが「選択」なんだ?

*1 イラン外相
*2 おそらくイスラーム共和制のこと

白濱イランって信教の自由は無いの? 国教としてイスラム教があって、みんなそれに従わないといけないの?

信教の自由(しんきょうのじゆう)とは、信仰の自由などから構成される宗教に関する人権。信教の自由(宗教の自由)とは、特定の宗教を信じる自由または一般に宗教を信じない自由をいう。

西欧では、教会権力からの自由を求める帰結として確立された。

世界人権宣言及び市民的及び政治的権利に関する国際規約の共に第18条、日本国憲法においては20条で規定される。

Source: Wikipedia

信教の自由 – Wikipedia

松田:私はクリスチャンでーす、みたいなのも無しなん?

فه:いや、そういう人もいます。ただ国民の90何%かはイスラム教のシーア派で…

白濱じゃあ改宗すればいいってもんじゃないの? それは空気的に難しいとか?

イラン・イスラム共和国 基礎データ – 外務省

فه:あー…いや、イランは本人の信仰とは関係なくイスラム法が国の法律としてあって、だから私も現地では髪を巻かないといけないし、お尻を隠すために長い丈の上着を着ないといけないんです。

白濱:あ、へー。

فه:あと私は言われたことはないんですけど、私の同期がラマダン中に外で水を飲もうとしたら…ちなみに警察には二種類、緑色の宗教警察と青色の交通警察がいてるんですけど、その宗教警察が「ピピピー」ってやって来て、水を飲むのはあかんって言われたって。

イラン 宗教警察
Image: CNN

宗教警察のパトカーの色好き。トミカで出してくれないかな

ベール着用違反の女性ら、連行を群衆が阻止 イラン – CNN

白濱:へー。その注意の程度ってどんな感じなの? 「やめいやめい」くらいの感じ?

فه:外国人にはそれくらいの感じだと思います。こいつらはどうせ何も分かってない、っていうのもあるし。

白濱:はいはい。

فه:私の日本人の友達は、ダメージジーンズを履いて上着の前を閉めずに着ていたら、「こら、あかんよ」って言われて閉められたらしい。

松田:へー笑

白濱:まあでもそのくらいの程度なんだね。

فه:ただイラン人の女の子やと、連れて行かれて反省文書かされたり、父親を呼んで来いとかってなるらしいです

松田:なんか学校みたいやね。

白濱:でも…なんかもうちょっとこう特高みたいな、「バチバチにやってやる」みたいな感じかと思ってたな。

فه:昔はそうだったのかもしれないけど最近はそこまででもなくて、やり手の女の子になると父親役みたいなのを普段から用意してるらしいですよ。

白濱:あー、賢い笑

松田:でもお尻出したらあかんのは知らんかったな。なんでみんな丈の長いカーディガン着てるのか、ずっと疑問やったわ

テヘラン カフェ
Image: commmon

上野のABABで売ってる1,280円の化繊のロングカーディガンみたいなの、一生分見られます

ABAB UENO

白濱:それはボディコンの服はだめって感じなの?

فه:そうです、だから本当はスキニーとかもだめなんですよね。

全然関係無いけど、イランでヨウジヤマモトって流行らなそうですよね。女性が着ると規範的なそれとしてダサ視されそうだし、男性が着るとあまりに女性的としてやはりダサ視されそう。僕もでかいストール羽織ってただけで通行人にめちゃ笑われたもん。

松田:なるほどね。でもスキニーにロングカーディガンを合わせてたら…

فه:まあギリギリ大丈夫かなって感じ。最近はだんだん緩くなっていて、本当は手首まで隠れるような服じゃないとだめなんですけど、みんな七分袖とか着てますね

白濱:笑 それちょっとおもろいな。

松田:でもその辺の解像度が上がると、ちょっと今までにないフェティシズムを見出せそうですよね。丈が長くないだけの服を見て「お、これはちょっと…」みたいなね

白濱:なるほどね笑

فه:あとは男性も、下はロングパンツじゃないとだめですよ。

松田:そう。それは事前に調べてて、めっちゃ敬虔そうなチノパン買って履いて行ったもん。

白濱:なるほどね。じゃあ松田は宗教警察に注意されるとかはなかったんだ。

松田:それはもちろん。ただ行くまではどこまで厳格かが分かんないから、やっぱちょっと怖かったですよ。

白濱:なるほどね。

松田:それで事前にそれなりに調べて心の準備もしてたんですけど、一緒に行った友達…てかみなとですけど、彼と成田で合流したら「POLO」「Ralph Lauren」「USA」みたいなボストンバッグで来やがって…

白濱:へー笑

Image: commmon

松田「これは…もしかしてあかんのか?」とか思って、もう機内でドキドキでしたよね。

فه:笑

松田:結局ドバイからテヘランに向かうエミレーツの機内でCAに聞いたら、冷めた目で「まあ大丈夫じゃない?」って感じだったんでよかったんですけど。

فه:笑

松田:でもそれまではほんまに怖くて、「頼むからガムテープかなんかで隠して入国してくれ」とか言ってましたね。

白濱:ちょっとおもろいな。それは結局大丈夫だったの?

松田:うん、全然大丈夫でしたよ。

白濱:それで嫌な顔されるとかもないの?

فه:それも大丈夫だと思いますよ。彼らからするとアメリカへの心情って複雑で、確かにデモとかはするんですけど…よく言われるのが、デモをした後にはコカコーラを飲むっていう

白濱:なるほどね、はいはい。

帰国するまで飲めないと思って成田で飲んだコカコーラ、現地にいくらでもあった

فه彼らにとってのデモって、結局はある種のストレス発散の手段でしかないんですよね。公式にワーってできるイベントっていう。

松田:でもそれ気になってたわ。なんか自国の政権ファックで欧米的なライフスタイル憧れてるぜみたいな感じかと思いきや、アメリカが政治的にやりよったらデモはするっていう。それどっちなん?って、すごい思ってた。

فه:まあ私が付き合ってきた人達はリベラルな人が多かったので、「またデモやってるね」「困ったね」って感じではあったんですけどね。

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2021年5月23日
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