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他人の前言語的確信を損なってポジション取りするの禁止な

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中垣:YOASOBIの一番有名な曲…何やったっけ?

山本:『夜に駆ける』かな。

中垣:あー、そうそう。あの曲が入ってるアルバムがあるねんけど、それを音楽評論家の宇野維正っていう、宇多田ヒカルの本書いたりしてる、ちょいちょいTwitterで炎上するような有名な人が批評しててんけど…

松田:はいはい。

中垣:ミキシング・マスタリングがしょぼ過ぎて、こんなの出すのってどうなの?みたいな、スピーカーでちゃんと音鳴らして聴く人じゃなくてイージーリスナー向けの曲だよね、みたいなことを言って、まあ案の定爆炎上してんけど。

松田:笑

山本:燃えそう…

中垣:まあ老害っぽいなとはおれも思ってんけど、その批評に対して、自分でも音楽を作ってるようなYouTuberの人が解説してる動画があったのね

松田:はいはい。

中垣:その動画は結構良くて、宇野さんの批評はともかくとしてまず『夜を駆ける』は良い曲だと思うし、それを聴いたリスナーの「いいじゃん」って気持ちも全然否定されるべきものではないって言うねんな。

みなと:うんうん。

中垣:加えて、宇野さんのツイートは140字っていう文字数の制限の中でかつ、ある程度の議論を呼ぶようなことを言うのは仕事の内っていうのもあってなされたもので、その発言だけをもって宇野さんのことを判断することはできないと

松田:はいはい。

中垣:その上で彼個人としてはどうかと言うと、宇野維正と同じスタンスであると。それがなぜかって、YOASOBIの二人を引き合わせた点でSONYの功績は大きいんけど、ミキシングとかマスタリングの技術をちゃんと持っているのにあの音質でリリースしちゃうのって、メジャーレーベルの仕事としてどうなんだい?って。

みなと:なるほどね。

中垣:で、実際に聴いても要らない音が多過ぎるって言ってて、それは確かにそうやねん。

松田:うんうん。

中垣:ここまでが前提で、その上でおれが話したかったのは2点。まずひとつが、とは言えイージーリスナーをこき下ろすような宇野維正の言い方ってどうなんだ?って話で。

松田:まあそれはそうやな。

中垣:それともうひとつが、そのYouTuberの人が最後に言ってたことやねん。彼としては、そもそも宇野さんがそう言ったからといって、何も思う必要はないじゃないかと。自分は好きな音楽を聴いてそれをいいと思ったんだし、これが例えば食べ物なら、自分が美味しいと思ったものを、他人からどうこう言われて疑うことなんてないじゃないかと。

c ほとんど初めて食事に感動したかも

みなと:うんうん。

中垣:それは本当にその通りだなと思いながら動画を見ててんけど、じゃあどうすれば他人がどうこう言っていることに惑わされずに済むかって話になったとき、彼は「自信が必要」って言ったのね

松田:あー、それはあかんな。

中垣:自信か…って思って。そんなこと言わないでほしかったし、さらに彼は、自信をつけるには「知識が必要だ」って言って

みなと:へー笑

そもそも自分を他と比べるから、自信などというものが問題になってくるのだ。わが人生、他と比較して自分をきめるなどという卑しいことはやらない。ただ自分の信じていること、正しいと思うことに、わき目もふらずに突き進むだけだ。

Source: 岡本太郎(2017)『自分の中に毒を持て』青春文庫

岡本太郎(2017)『自分の中に毒を持て』青春文庫

中垣:まあ分からなくもないで。自信をつけるっていうのは確かに十分条件ではあるねんけど、そういうコストの掛け方ってあんまり今っぽくないし…

松田:そうやんな。そうやって得た自信って相対的なものやから、結局はどつきあいにしかならへんよ。程度で負けたらそれまでやねんから、本質的な解決ではないよね。

中垣:そうやんね。なんで自信とか…あとは自己肯定感とか、そういうタームが蔓延るのかというか、ああいうのって結局はポジショントークするための言葉でしかないんじゃないかって

自己肯定感?自信? そもそも主題にさえなりません

みなと:うんうん。

中垣:つまり自信っていう言葉を持ち出すってことは「今おれは自信があるんだ」「おれみたいになればいいんだぜ」っていうことを暗に言っているんであって。

みなと:そうだよね。

c 「有能」って言うやつの欺瞞

松田:笑

commmon はそんなんじゃないんで、いいと思う限りにおいて読んでくれたらいいですよ

中垣:そういうのってイケてないなって。

松田二元的なところから始まったモヤモヤを、二元的に勝つことで解消しようとしてるのがあかんよな

中垣:あー、そうそう。そういうことそういうこと。

みなと:小国同士での戦争を解決するためにアメリカが軍事介入する、みたいになっちゃってるよね。

松田:核がなくならないわけですね笑

山本:笑

c 世界はフィジカル

みなと:でも途中まではいいこと言ってたのにね、もったいないね。

中垣:もちろん彼の動画を見る人からしたら「ふんふん、そういうことか」ってなって、じゃあちょっと知識をつけてみようかとも思うだろうし、別に知識をつけること自体も悪いことじゃないとは思うねん

松田:うんうん。

中垣:そこで、彼がどう表現してたらこんなにモヤモヤしなかったんだろうなと考えてるねん。だって極端なこと言うとこれは禅っぽい話で、「ジャスト気にしない、それだけ」としか言いようがないわけやねんけど…

c 禅がよく分からん

みなと:でもそう言われてもね、彼の動画を見た人的にはしっくりこないというか、結局のところどうしていいか分かんないもんね。

松田:食べ物の例はすごく良かったのにね。その例が出せたのなら、もうちょっと言いようはありそうなもんやん。

中垣:そうやねん、ほんまそうやねん。

山本:確かにね。

中垣:まあひとつにはタイプ別に分けるのならありやったんかもしれんね。例えば「勝ち負けが好きなのなら知識をつけてみるのもありだよ」とか。

松田:あー、なるほどね。

中垣:それで一回勝ち切るっていう経験をしてしまえば、結果として勝ち負けなんてどうでもよくなるっていうのはあるから、ひとつの方便としてそう言ってしまうのはありやと思うねん。

みなと:なるほどね。

中垣:一方でそうじゃない人もいくらでもいて…

みなと:ほとんどのライトリスナーはさ、いいと思って聴いてた曲にケチをつけられて、それで嫌な気分になってるわけじゃん。それを解決しないといけないんだもんね。

中垣:そうそう。

松田:まあむずいな。

中垣:それで…結論を放置したまま話を進めちゃうねんけどさ、自分がいいと思っていた曲をディスられてモヤモヤするのも然りで、アート的なるものに対する世間のコンプレックスってかなりあるなと思ってるのね

まじで最後まで代案出ません、すまん

松田:うんうん。

中垣:そうじゃない線で成功した人ほどそのコンプレックスが強いし。

みなと:それって…具体的にどういう感じ?

中垣:だって今回の話も、例えばそれこそ食べ物に関してなら、偉い人からどう言われようが、自分の美味しいと思ったものはその美味しさを信じられるわけやん。

c 僕らが好きなのは一般化可能性の高い体験です

みなと:うんうん。

中垣:でも音楽って、聴いて楽しいという感覚は誰しもあれど、それに加えて何かしら語り得ることというか、いわゆるクリエイティブの文脈みたいなものがあって、それに自分はコミットできていないっていう感覚を多くの人が持っていると思うのね

みなと:あー…

中垣:あるいは、サラリーマンはアート教養を身につけろって言ってる山口周って人がいて…まあおれは彼のことは好きなんだけれど、そういう言葉が売れることも、そういうことを象徴してると思うのね。

みなと:うんうん。

山口周(2017)『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』光文社新書
Image: Amazon.co.jp

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中垣:他にも建築家の世間的な位置付けもすごく不思議だなと思っていて、世の中の人って建築をクリエイティブ的な何かやと思ってんねんけど、実際はそんなことなくて、世の中にあるほとんどの建物って隈研吾とかは関係ないわけ

松田:そうやんな。なんとか組とかなんとか工務店の世界やんな。

山本:笑

中垣:そうそう。あるいは三菱地所とか国土交通省とか、ほんまにそういう世界でしかないわけ。そっちの方がよほど大事やのになぜか、建築っていうとコンペでやる建築のことしか思い浮かばない人がほとんどなのね

c 三菱地所のドリーム、丸の内

松田:はいはい、ザハ・ハディッドね。

ジョージジェンセン ザハ・ハディド リング #1623E
Image: copenhagensilvercom/ebay

ザハ・ハディッドのこれ超好き

Georg Jensen Gold Ring Lamellae # 1623E. Double Ring w. Diamonds. Zaha Hadid. – ebay

中垣:でもコンペの建築ってファッションで言えばランウェイの世界なわけ、別に普通の人の生活には何も関係ないわけ。

松田:ユニクロの方がよっぽど大事やね。

c ユニクロという服屋

中垣:そう。自分の部屋の動線がしっくりこないからなんとかしようっていうのが建築やねん。人と物との関係において、人とそれより大きい物との関係を扱うのが建築なんだから。

賃貸の床を勝手に剥がしながら

みなと:このテーブルはプロダクトデザインだけど、このテーブルも含めたテラス全体は建築ってことだよね。

中垣:そうそう。で、建築学の偉い先生達って、そういう動線設計とか光の取り入れ方とか素材のこととかについて山ほどいいこと言ってるのに、結局はザハ・ハディッドとか、カーサブルータスの「建築を巡る旅」みたいなのが建築やと思われちゃってるねん

『Casa BRUTUS』2021年1月号, マガジンハウス
Image: Amazon.co.jp

『Casa BRUTUS』2021年1月号, マガジンハウス

松田:アート的なるものへのコンプレックスがあるから適切に解像度を上げていこうとしないし、文脈にフリーライドしてポジション取っちゃうやつのせいでアート的なるものにコミットしにくくなってるのもよくないよね。

恵比寿のボルボ、お前だぞ

c 恵比寿はどんな街なのかを考察する

中垣:そうやねん。ほとんどの人が、非言語的な感性によって成立している世界に対して、自分がプレイヤーであることをどこかのタイミングで諦めて、それは自分が直接介入するのではなく、客体として購ったり鑑賞したりするものだっていう態度をとってるし、そういうふうに諦めてるから、ポジションを取ったやつにつけ込まれて一層のコンプレックスも生まれると

松田:うんうん。

中垣:でもそれってどうなんだい?って話。アートとかデザインについてまわるそういう雰囲気、気持ち悪いなってずっと思ってる。

みなと:ワインに関してもそれ思うわ。文脈で殴るみたいなゲームな気がすごくしていて。

山本:あー。

みなとシンプルに美味しいか美味しくないかっていうのが先にくるはずなのにね

中垣:もちろんワインのよさを、特定の畑の特定の年代の物が実際に美味しいっていう経験をした上で言葉にしてる人もいるとは思うねん。

みなと:そうだね。

中垣:でも、それってすごく習熟の必要なことだから本当に好きじゃないとできないんだけど、それを言語的にショートカットしようってやつが出てきて、またそれを嘲笑うかのようにマーケットが肥大していってるんだと思うのね。まあそれはそれでおもしろいとは思うねんけど…

みなと:なるほどね。

松田:なんかさ、バーワンちゃんのブログでワインを紹介してる記事があるの知ってる?

永久保存版!ワイン初心者にオススメの絶対に裏切らない入門ボトル5本! – 東京で一番オシャレなブログ

中垣:え、それ知らんわ。

松田:この記事がほんまに偉いねん。5本に絞って、安くてネットで買えるやつだけを、舌を養ってワインを評価する基準軸を作ることを目的に分かりやすく紹介してるねん。まあ内容の妥当性は知らんけどな。

中垣:あー、それは偉いね。

「偉い」が褒め言葉、傲慢である

松田ある程度あがった人のそういう態度ってすごく大事やと思うねん。最近勉強してるフェミニズムでも、すごく偉い人が書いた『フェミニズムはみんなのもの』っていう、パンピーに向けてかつ妥協なくフェミニズムを伝えるために書かれた本があって。

中垣:すご。

ベル・フックス(2020)『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』エトセトラブックス
Image: Amazon.co.jp

わたしが望んできたのは、「フェミニズムって何なの?」という質問にたいして、恐れや夢物語に根ざしたものではない答えを、みんなが手にできることだ。「フェミニズムとは、性にもとづく差別や搾取や抑圧をなくす運動のことだ」という、簡単しごくで何度でも読み返せる定義を、みんなが手にできることなのだ。

Source: ベル・フックス(2020)『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』エトセトラブックス

ベル・フックス(2020)『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』エトセトラブックス

松田:それこそアートなんて、言ってまえば前言語的確信を大事にすることがそれなんだから、他人の言葉に惑わされる必要はないし、偉い人はそのことをパンピーに伝えなあかんねん。しょうもないポジション取りしとったらあかんよ。

2021年2月7日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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