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ファッション 外国のこと

モードと装いの東西

3 years

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kotohayokozawa ロゴ

横澤琴葉
ファッションデザイナー

中垣が大学時代にインターンでお世話になったブランド「kotohayokozawa」のデザイナー。
かつては手を動かして物を作ることが大好きだったのに、頭でっかちになり過ぎたせいで何も作れなくなってしまった中垣や松田にとって、多くを学ぶべき相手なのである。

kotohayokozawa.com

kotohayokozawa – Instagram

kotohayokozawa – Twitter

中垣モードな服の楽しみ方がよく分からないんですよね

コトハ:そう言えばこないだ上がってた記事読んだけど、なんかヤバい服載ってたよね。

松田:あー、あのピンクのシャツですか?

Image: commmon

c 【シリーズ】今日のファッション #2

コトハ:そうそう、ああいう服を着るときもあるの?

松田:別に普段は着ないですよ笑 あれはGYREのトレーディングミュージアムで、店員さんが超可愛かったんで「買います!」ってなっちゃったやつです笑

コトハ:笑

買った理由にしてはクセが強過ぎる

松田:買ってからしばらくはハンガーにかけて眺めてるだけだったんですけど、今はバイブスが合ったときに着ることにしてます。

コトハ:でも似合いそうだよね。

中垣ギリ似合ってなかったです

松田:似合ってたよ笑

中垣:まあこのシャツはさておき、松田の服装ってわりとモード寄りというかさ

c オタクのハットとファレルのハット

コトハ:めっちゃお洒落だよね、びっくりした。

中垣:一応高校のときはアントワープに行くって宣言してた男なんで笑

マルジェラやデムナらを輩出したアントワープの学生が着るリアルクローズは? – WWD JAPAN

コトハ:もう、この先はないってぐらいの着こなしじゃん

妬いた

中垣:下のアディジャもいいっすよね。

コトハ:やばいよねぇ。

デストロイド ニット プルオーバー – Maison Margiela

メンズ・フーディニ・ジャケット – patagonia

MAUI WOMEN’S FLIP FLOP – OKABASHI

FIREBIRD TRACK PANTS – adidas

中垣:ただ松田はこんな感じですけど、僕は周りの服好きがビームスとかロフトマンで働いてたのもあって、アメカジやら古着が好きなんですよ

コトハ:はいはい。

中垣:モードブランドのことも知識として多少は知ってるけど、なかなか普段の服と合わせにくいし、あとはモード服ってちょっと記号っぽいじゃないですか。

コトハ:そうだね。

中垣:それよりかは、イナたいジーパンの裾幅を変えることでちょっと洗練させる、みたいなゲームが好きなんですよね

c 余白のある服が好き

コトハ:はいはい。

中垣:モードだとどうしても「ギャルソン着てます」「マックイーン着てます」みたいになっちゃって、裾幅の5mmがどうこうみたいな話にはなりにくいですよね。そもそもシルエットがバグってたりしますし。

コトハ:うん。

What’s up man?

2012-13秋冬メンズコレクション THOM BROWNE – VOGUE

中垣:それでコトハさんは、モードっぽい服もすごく好きじゃないですか。そうしたときに、モード服を着てる人は何をどういうふうに楽しんでるのかを知りたいんですよ

コトハ:人によって様々だよね。言ってしまえばそれを買うことで心が満たされるって人もいるし、逆にバチバチな人もいるじゃん笑

松田:はいはい。

コトハ:まあそういうのもいいけど、私が本当にかっこいいなと思うのは「そうは見えんけどそれ着とったか」みたいな着方なのね。

中垣:あー…

コトハ:それこそ90年代のパープルの、服装も普通でちょっと見切れちゃってるような写真なのに、クレジットを見たら「プラダ・マルジェラ・あとは知らん」みたいなやつ

松田:あとは知らん、ね笑

コトハ:そういうのってかっこいいなぁって思う。

purple MAGAZINE

Purple Magazine(パープルマガジン)特集 – KOMIYAMA TOKYO

中垣:うーん…確かに聞いていてかっこいいなとは思うんですけど、それって言ってしまえばユニクロでもできる服装じゃないですか。それが実はプラダなんですっていう、神々の遊びでしかないというか。

“““神々の遊び”””

コトハ:あー、それは確かにそうだね。

中垣:あくまでビジュアルに限って言えばモード服である必然性はないというか、やっぱり記号のゲームっていう印象なんですよね。

松田:うんうん。

中垣一方でサルトリアリストとか見てると、バチバチにモードだけどかっこいい人もいて、どうすればこれができるのかがいつも疑問なんですよ。

The Sartorialist

コトハ:バチバチモードな服着ててかっこいい人って、今あんまりいないんじゃない?

中垣:そうなんですか?

コトハ:いつの時代に何を着てるのかも含めてのファッションだから、時代は超重要だと思うのね。今バチバチにモードを着てても時代感がそうじゃないから、どうしてもダサいって思っちゃう。

松田:あー…

コトハ:日本で洋服文化が定着してから時間が経って、ハイブランドから安い古着まで何でも手に入るのが今じゃん? そうやって選択肢が増えた時代にこんなミックスをしてますよっていう服装が、今だとおもしろいなって思うかな

中垣:はいはい。

コトハ:あとはさっきの芸人さんの話にも近いけど、かっこいい人の服をそのまま着ればいいってわけじゃないじゃん。

中垣:そうですね。

コトハ:そう。で、私は芸人さんがすごく好きなんだけど彼らの何が尊いかって、自分の生まれ持った見た目とか声の高さとかでやってるわけじゃん? そこと向き合っている人達だからこそ出てくるおもしろさみたいなものはあると思うのね。

中垣:確かに、確かにな。

コトハ:私はそういう人が好き。何かになろうとしている人はおもしろくない笑

Source: commmon

c 頭で考えるだけじゃ作れないもの

コトハ:自分の体型とか雰囲気が分かってて、それと服装がハマっているとかっこいいんであってさ。

松田:そうすると、結局のところモードじゃなければできないことがあるわけじゃないですよね

コトハ:うん、全然そうだと思う。

今日のおしゃれTips
モードじゃなくても全然いい

中垣:あとモードに関して思うのが…ドメのブランド、特にサカイとかファセッタズムみたいなコラージュを多用するブランドに違和感があるんですよ

sacai man 2021SS – sacai

コトハ:ほう。

中垣:個人的にはモードって、まだ誰も知らないけど将来みんなが着るかもしれない服をつくるものだというか、洋服のフロンティアを開拓することに意義があるのかなと思っていて

松田:はいはい。

中垣:で、そこで生み出された服をどう組み合わせるかは着る側の仕事だと思うんですよね。でもサカイやファセッタズムみたいなコラージュって、ひとつのアイテムの中でパッチワークのバランスが取れちゃってて、ある意味では着る人の仕事を奪ってるじゃないですか。

松田:うんうん。

中垣:だから例えばヴェトモンみたいな、当時の感覚からしたらどう見てもおかしいけど、5年後にはみんなその服装してました、みたいなのが理想だと思うんですよね。

2015-16秋冬プレタポルテコレクション VETEMENTS – VOGUE

コトハ:そうだね、本当はそうあるべきだと思う。当時って遠くから見てもヴェトモンって分かったじゃん、そういうシェイプの提案こそが大事っていう話だよね

中垣:そうですそうです。

コトハ:やっぱり、日本に洋服文化が定着してまだ日が浅いってのは大きいとは思う。日本ではつい最近まで和服を着ていたわけだけど、和服って代々着れるように大きめで作ってたり、シェイプが全くなかったりするじゃん。

中垣:はいはい。

浴衣とかもう、何買ってるのか分からなくなるよね

コトハ:だから日本人のデザイナーはシェイプを出すのが苦手だとはずっと言われてて。

中垣:なるほどなぁ。

コトハ:それで、海外に出て行ってもシェイプじゃ勝てないから、いろんな要素の組み合わせで勝負するっていうのはあると思う。しかも外国から見たらそれがある意味で日本らしさだったりするから、そこの塩梅が難しいのね。

中垣:うーん。

松田:前に中垣がさ、日本と欧米のファッションの違いについて、日本人はキャンバスの上でファッションをやってる感じがあるって言ってたやんか。

中垣:あー、うんうん。

松田:実際欧米と比べると顔も薄いしフィジカルも弱いし…となると、重要なファクターとしてフィジカルありきのファッションというよりは、ブランクのボディをキャンバスに見立てて、そこにいろんな要素を足していくことになるって話。その文脈で言えば、コラージュもそういうものなのかなと。

中垣:うんうん。

松田:だから海外から見たときに、あれが新鮮に映るのも分かる気がする。彼らからしたらフィジカルありきでファッションを考えるしかないわけやから

中垣:それで言うと、今月のポパイがスナップ特集だったんですけど、それを見ててもアメリカと日本の着こなしの違いってすごくあるなと思うんですよね。

コトハ:うんうん。

『POPEYE』2021年2月号, マガジンハウス
Image: Amazon.co.jp

『POPEYE』2021年2月号, マガジンハウス

中垣:日本ってやっぱりミクロのゲームを極めた服装が多いんですけど、一方アメリカは大味で色味とかバグってて、でもなんか良いんですよ

POPEYE Magazine – Instagram

松田:言われたらそれはジュエリーもそうで、アメリカのジュエリーって…例えばクロムハーツとかもそうですけど、日本人じゃ作れない形をしてるんですよね。

コトハ:どういうこと?

松田:クロムハーツはとにかくフィジカルが強くて、日本人じゃこれだけの厚みを持たせられないんですよ

クロムハーツ
Image: chromeheartsofficial/Instagram

ドメのゴス系ジュエリーはほんと全部ゴミ

Chrome Hearts – Instagram

コトハ:それは作れないってこと?

松田:技術的にはもちろん作れますけど…ここにこの厚さを持たせようとはならないと思うんですよね。あれは自分達のフィジカルが強いからこそ出てくるデザインなんですよ

他にもSOPHIE BUHAIのイヤリングはそういう印象がありますし、ジャンルを変えてインディアンジュエリーでも、日本ではマルコ・ビゲイやハワード・ネルソン、あるいはペリー・ショーティーのスタンプ物がウケる一方、本国ではFTCとかの粗めのオールドスタイル、あるいはペリー・ショーティーでも厚みのあるチゼル物が人気だったりするじゃないですか。あとはドメのバイカー文脈でストップライトが人気だったりする感じも、逆説的に上の説明を補強する気がしますね。

中垣:なるほどね。

コトハ:でも顔や体型は変えられないからさ、私達が欧米っぽいファッションをそのまま楽しむのは難しいかもしれないけど、これからアジアが伸びてきたらいろいろ変わるかもしれないよね。それこそ上海とかやばくなかった?

『STUDIO VOICE』vol.415, 株式会社INFASパブリケーションズ
Image: Amazon.co.jp

『STUDIO VOICE』vol.415, 株式会社INFASパブリケーションズ

中垣:熱量やばかったすね。

コトハモードで全身固めるのは恥ずい、みたいな感じにまだ誰もなってなくて、バチバチこそ正義って感じで。そういう波が来たらまた変わるんだろうなって。いずれもうちょっと経ってみたら、もしかしたらPOPEYEのスナップ特集でも、日本人の服装の方ががいいってなるかもしんないよ

中垣:それもね、やってみたんすよ。逆にというか笑

コトハ:え、逆ってなに?

中垣:要は、「やっぱアメリカ人は奇抜な合わせが上手いなぁ…じゃあ逆に、この彼の気持ちでこの特集を見てみよう」っていうのをやってみたんです。

コトハ:好きだよね、そういうの笑

松田:笑

中垣:たぶんですけど、スナップで登場してるイケてるデザイナーの人とかには「刷り上がったよ」って感じで郵送されてくると思うんですよ。

松田:はいはい。

中垣:それでページを開いてみて、アメリカ人のページは「I know…」ってなるんだけど、「Next, Japan!」ってページめくったら、もうおしゃれ過ぎて感動すると思うんですよね

コトハ:笑 でもそれはあるかもしれないね。

2021年1月23日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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HeaderImage: VOGUE RUNWAY

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