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思索 未来

“““エコ”””の違和感の正体

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中垣:昨日河東の家でテレビ見てたらさ、レトルトカレーのCMで「このカレーはチンして二酸化炭素を減らせるの」って…

松田:それはひどいな笑

中垣:しかも「…って、この人が言っていました」とか言って、説明してる専門家みたいなのが1秒くらいだけパッと出てきて。

松田:うーん、すごいね。

プロ クオリティ ビーフカレー – ハウス食品

中垣:まじかよとか思って。だってそれさ、別に減らしているわけではないやん?

太郎:笑

地球を思うなら冷たいまま食おうな

中垣:し、まあそうやって言うことはできるんだけど、そんなことを言い出さなくても言わずもがなおかしいわけ。そこまでしてそういうことを言いたいのかというか…もうなんか、ちょっと社長出てこいよって感じやん。

中垣:違和感がすごいよ、おれにはほんまに分からへん。ハヤカワ五味もバルクオムも、何がしたいんかほんまによく分からへん。

松田:なんかさ…別にお金を稼ぎたいからやっているわけでさえなさそうやねんな。

中垣:そう、そうやねん。そこがポイントやと思うねんな。

松田:だから言うたら、お金を稼ぐことにフォーカスできてる反社の方がしっくりくるまである。

中垣:うん、ほんまそうやと思う。なんやろう…本当に理想の製品とか社会善みたいなことが目的なふりをしながら実態は全くそうではなく、でもそこを突っ込まれたら「お金を稼ぐことが目的です」って言っとけばいいみたいな、そういう複雑で結局よく分からんことになってる気がする。

Source: commmon

c 市場原理の競走馬の話

太郎:笑

中垣:お前はこんなことがやりたくてこの会社を経営しているのかと。そんなことならいっそ会社潰してまえって。ほんまあり得へん、何がCO2を減らせるカレーじゃ。ほんまクソ。

太郎:まあそっちの方が売れるっていう判断があったんだろうね。

中垣:まあそうかもしれんよな。個人的にはそんなこと関係無いやろとか思ってたけど、でも実際そういう商品は最近増えてるし。

松田:そこはもう分からんよな。売れる…って広告代理店が言ってる、とかね。

中垣:なんしかきついよな。

松田:おれが最近疑問に思ったのは…なんか前に中垣が言ってたみんな電力ってあるやん? エコな感じで発電された電力を売ってるみたいな会社。あれもまあ結構手前でよく分からんというか、電気なんて東電の送電網で全部一緒になるし

不躾に“““みんな”””とか言ってる時点で信用ならんよね

みなと:そうだよな。

松田:それにエコって言うけどさ、あの手の発電ってエコよりもっと手間でやる動機はあるわけやん。

中垣:あー…あかん業者の話やんね。

「再エネビジネスで億単位の不正に手を染めた…」ある企業の現役社員から内部告発が番組に寄せられた。いったい何が起きていたのか…。さらに取材を進めると再生可能エネルギーを普及させるための国の制度の構造的な課題も浮き彫りになってきた。また急速に再エネビジネスが拡大する中、土砂災害リスクのある場所に太陽光発電施設が次々と建てられ、住民や自治体とのトラブルが相次ぐ問題も。脱炭素社会へ大きく舵(かじ)を切った日本。持続的な“あるべき姿”にするためには何が必要か、考える。

Source: NHK

独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ” ~脱炭素社会の裏で~ – NHK

松田:そうそう笑 まあそこの仕入れ先はさすがにきちんと選んでるんやろうとは思うけどね。ほんでその会社の法人のお客様向けページには、企業価値を高めるトレーサブルな再エネ電力を提供していますとか書いてんの。これはもうごいなと。

みなと:笑

自社で二酸化炭素を排出しまくる顔

中垣:なんなんやろうね、それ。企業価値とサステナが背反になったとき、彼らはどっちを選ぶんやろうね

松田:そうそう。

中垣:あとはそんなこと言ったらね、前にお金のトレーサビリティみたいな話をしたけど、じゃあお客さんに払ってもらうお金もきちんとトレースしろよって話になるよね

みなと:そんなちゃんとした電気なら、その電気を使ってお客さんが何してるかまでちゃんとトレースしろよって話だしね

松田:そうそう。エアコンを28度以下に設定してる客には電気売ったらあかんよね。

みなと:10年以上前の電化製品使ってるやつもだめだね。

中垣:しかもさ、おれがその電力会社を知ったきっかけが、 ピー っていう服屋の ピー さんやねんな。結構有名な人なんやけど、この人がまあサステナにご執心で、そういうライブ配信をやったりするわけ。

松田:はいはい。

中垣:「今日わぁ…みんなとぉ…エコについて考えたいと思っててぇ…」って。これは結構大変やなと思ったわ。

松田:あー…キャンドルナイトやん。

太郎:笑

本読みに行ったスターバックスでキャンドルナイトやられたことあるわ

松田:あとやっぱ前から思うねんけどさ、例えばAllbirdsとか言うけど、靴でエコになりたかったらおれみたいに一年中ビーサン履くのが一番いいと思うねん

中垣:そうやんね。

SURF MEN’S FLIP FLOP – OKABASHI

みなと:わらじとか履けばいいよね。

松田:そう、そういうこと。

中垣:具体例はいろいろ出るねんけどね…もうちょっとこうスパっと言いきりたいね。

松田:なんやろうな、それこそケツ汚れるからうんこ我慢するのは違うと思うねんけど、エコもそういう話やと思うねんな

みなと:笑

松田:うんこをした上で、ケツを綺麗に拭くのが大事やねん。

中垣:あー…

松田何かしらの豊かさに貢献するということで選択されてきたものを、その動機となった豊かさを無視して放棄するのはちゃうでしょっていう。そんなん言い出したらもう、現代的な豊かさ全てを捨てた縄文時代に戻るしかないやんって話やねん。

中垣:うんうん、まあそうやんね。ポジティブなというか…あかん、ポジティブとか言ってたら春木開が思い浮かんじゃった笑

松田:笑

中垣:でもなんかね…何かしら人類の発展というか、フロンティアを押し進めてきた結果出てきた、それをそうと言うとしてある種の弊害に対して、じゃあそれをなくすために押し進めてきたものを振り出しに戻しましょうっていうのは、それは人間のやることとしてどうなんだい?というか、

宇宙船地球号のメタファーを、純粋に物理的な意味合いで考えてみたい。

これだけは確かだということがある。もし明日、地球表面の物理的条件が変化すれば、それが天体物理学的な基準ではわずかな変化であっても、人間は無防備なままでは生きていけないということだ。宇宙船の生命維持システムが壊れたら生きていけないのと同じである。しかし、私はこの文章をイングランドのオックスフォードで書いているのだが、この土地でもやはり、冬の夜には衣服やその他のテクノロジーで守られていない人間の命を奪うほど寒くなることが多い。つまり、銀河間宇宙では、私はものの数秒で死んでしまうが、原始的な状態のオックスフォードシャー(オックスフォード市を含むイングランド南東部の地域)でも、私は数時間のうちにやはり死んでしまう可能性があるのだ。そのような環境が「生命を維持できる」と考えられるのは、きわめて人為的な意味においてだけである。現在のオックスフォードシャーには、確かに生命維持システムはあるが、それは生物圏がもたらしたものではない。そうしたシステムは人間がつくり上げたもので、衣服や住居、農場、病院、電力網、下水道などから構成されている。同じように、原始的な状態の地球生物圏はほぼ全域が、無防備な人間を長く生かしておくことのできない環境だった。それは生命維持システムというより、人間にとっての死の落とし穴と呼ぶほうが、はるかに正確だろう。人類進化の地である東アフリカの大地溝帯でさえ、原始的な状態のオックスフォードシャーよりは、多少住みやすいと言う程度だった。想像上の宇宙船に備えられた生命維持システムとは違い、大地溝帯には安全な水の供給もなければ、医療機器も、住みやすい居住区もなかった。そこには捕食者があちこちにいたし、寄生虫や病原体がはびこっていた。「乗組員」は頻繁に怪我をし、食中毒になった。びしょ濡れになったり、飢えたり、病気になったりもした。結果として、そうした乗組員の多くは命を落とすことになった。

Source: デイヴィッド・ドイッチュ(2013)『無限の始まり ひとはなぜ限りない可能性をもつのか』インターシフト

デイヴィッド・ドイッチュ(2013)『無限の始まり ひとはなぜ限りない可能性をもつのか』インターシフト

みなと:うんうん。

中垣:じゃあもうお前は犬畜生にでも生まれていればよかったって話なの?って。

松田:そう、そうやねん。でももちろんそうではないし、しかもおれがすごく嫌なのは、本質的には縄文時代に戻るか犬畜生に堕するかしかない主張をしているのにもかかわらず…

中垣:都合が良いよね。

松田:そう。でもだからと言って、自分で編んだわらじを一年中履くということはしないわけ、Allbirdsを履いちゃうわけ。そういうふうに、彼らも結局はポジ面を捨てきれていないのに、そのことから目を背けている。ここに欺瞞があるねんな。

中垣:分かる、それすげえ思うわ。エコとか地球みたいな得体の知れないものを主語にした時点で、それはもう最上の、至上命令なわけ。だから「ここに関してはちょっと好きなようにやらせてもらいますけども…」みたいなものではないはずなのに…

みなと:部分的な取り方をしてるってことだよね。

中垣:そうそう。

中垣:やるならやり切るしかないもんやねん。今わらじって言ったけど、それこそ前に話したiPhoneとバナナの話と同じで、「この藁を編んで草履にしたら…」って思った時点で世界は走り出してるから

松田:そうやねん。シンプルにダブルスタンダードやんな。

中垣:人工と自然みたいな区別がそもそもナンセンスで、アマゾンの奥地とかのウィルダネスとしての自然ならともかく、人間が育てたトマトとかキャベツは自然じゃないわけ。

松田:うんうん。

中垣:で、iPhoneっていうのはそのトマトとかキャベツの延長線上にあるわけで、人間が地球上のリソースを使って自分達の生活にフィットしたものを作り出したという点においては同じなわけ。

松田:うんうん。

中垣:って考えたときに、もちろん野菜を見て天の恵みには感謝するんだけど、同じ感謝をiPhoneに感じないのはおかしいわけ。あるいは人類の叡智に感動すべきだと言ってもいい、その場合は逆にトマトとかキャベツにもそれを見出さないとあかんねん。

松田:はいはい。

中垣:動物は野菜を見てもただ食うだけやからね。作物を見て「これはすげえや、もっと作ろう」って思う時点で、これはすごく人間的なことやねん。

Source: commmon

c バナナとiPhoneの相似に見出す人間の本質

中垣:さもなければ裸足で歩いて、病気になれば死ぬしかないわけ。そういう世界から、与えられたものを一歩でも超えようと動き出した時点で、原発の誕生もiPhoneの誕生も必然だったわけ

松田:だからもう死ぬしかないよ。「今までごめんな地球!」って言って今日死ぬしかない。

太郎:笑

中垣:しかしなんか、真面目につっこめばつっこむほどしんどなるな。こちらとしてはずっと手前に結論は出てるからな。

松田:じゃあじゃんけんで負けた誰かが、来週までに最新のエコ本を読んでくる? 「こういう主張があるらしいけどこれは知らんかったぞ」みたいな。

太郎:笑

中垣:エコなぁ…なんか問題が難しいのはさ、それこそ前に禅の話でもあったけど、そもそものきっかけとなった具体から切り離された抽象的な話はする必要がないっていう前提はあると思うねんな

松田:はいはい。

中垣:まあまあそうやね。だからまあ、おれは禅の言い方は知らんねんけど…でも、もっと our people みを感じたかったというか。

松田:あー…それで言うと、禅にそれはないな。

中垣:そう。でもおれは最後にそのニュアンスが欲しかってんな。

松田:例えば…まあテラスで茶をしばくとかならともかく、例えば講演会とかには禅はないねん。そういう意味でやっぱり our people みはないよ。

中垣:あー、まあそうやね。

松田:それに対して、独善的だという批判はもちろんあり得るとは思うんだけど、禅にとっては具体中の具体にこそ究極の抽象があるというわけだから、our people みみたいなものがあるとして、それは今ここをもって他にはないねんな。

Source: commmon

最も具体的なものをもってそれがそのまま究極の抽象に転ずる禅にとって、はじめから抽象を志向することは、必要でも有効でもないのです。

c 禅に異議あり

中垣:ただ、実際には誰の具体にも根付かないものが世の中にはあるというか、そういうレバレッジが効くのが科学技術のひとつの側面やと思うのね。

みなと:あー…

中垣:まあ要は、エコってそういうことやんなというか、エコみたいな普通に考えておかしいものがまかり通るのって、そこのギャップのせいな気がして。

松田:はいはい。

中垣:例えばさ、誰かの具体しかというか…まあ分かりやすく言うと見えるものしか存在しなかった江戸時代を想像すると、エコ的なものに違和感を覚えることってなかったと思うねん。「海汚すのは違くね?」って思ったら自分がポイ捨てするのをやめて、周りにも「やめとこうな」って言えば済む話やってんけど…

みなと:なるほどね。

c ポイ捨ての是非を検討する

中垣:でも今って、それは別に個人の選択の結果としてではないんだけど、しかし世界中の海にはゴミがあってそのことを知ってしまってはいて、でもそれってもう自分一人の行動ではどうにもならないから、だから「みんなもっとちゃんとしようよ」ってTwitterで言う必要が出てくる…と思ってしまうし、まあある意味ではそれが必要になるのね。

松田:うんうん。

中垣:あったほうが便利なのは間違いないんだけれど、それが本当に必要かは一人一人に聞かないと分からなくて、でも適切なマーケティングによって誰の具体にももとづかない願望を生み出したら、それだけで実際に売れちゃうわけやん。そういうふうにして存在しているものっていくらでもあるわけ。

松田:そうやね。

c 社会を変えるんじゃないんだよ、お前が変わるんだよ

中垣:なんしかそうやって、誰のものでもない豊かさをバーって拡げたわけ。で、その裏面として温室効果ガスが排出されてマイクロプラスチックが海に漂うことになったんだけれど、そもそもの原因が誰の具体にももとづいていないんだから、その結果も誰の具体にももとづいていないわけ。だから具体の話をしているだけでは解決できないっていう、それがエコの気持ち悪さなんじゃないかって。

みなと:なるほどね。

中垣:まあそう考えると、企業がSDGsとか言うのが一番早い気もするけど。

松田:そうね。じゃあやっぱ、黙ってCO2が減るカレーを食っとけばいいんか。

中垣:そういうことやね。

c 社会を変えるのは制度でも信念でもない

松田:…か、その問題の解決にあたって主体的に行動したいのであれば、それは口をつぐんでゴミを拾う以外にはないね。

みなと:うんうん。

中垣確かに私達の問題なんだけど、私の問題では必ずしもないっていうのがね…

松田:だから、ほんまに変えたいんであればやっぱ政治家になるしかないねんって。そもそもの主語が“““みんな”””で、しかもその“““みんな”””は私の集合としてのそれではないねんもん。

エコの言う“““みんな”””は、どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴みたいな“““みんな”””なのです

中垣:そうなるよね。

松田:だからやっぱり、それに自己同一化するとかもなんか違うねん。

徹底的に具体に根ざした今ここの「私」と、金太郎飴みたいな構造の“““みんな”””の一単位としての「私」、これらを主語として混同することに、この辺りの問題の根源はあるように思います。今後時間をかけて精緻化していきたいですね。

中垣:iPhoneを使いながらエコとか言うのはやっぱおかしいよ。iPhoneを生み出した原理的にトレードオフなのが、エコにまつわる問題やからね。

2021年7月18日
Aux Bacchanales 紀尾井町

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